ロシア・ウクライナ戦争ここまで:なぜ“一寸法師”が“巨人”を翻弄できているのか?

【緊急連載】開戦から1か月、リアルな構図(上)
安全保障アナリスト/慶應義塾大学SFC研究所上席所員
  • ロシア・ウクライナ開戦1か月、安全保障アナリスト部谷直亮氏が徹底分析
  • 宣伝戦が巧みでウクライナ優勢に見えるも、実態としてなぜロシアは苦戦?
  • ドローン、人の和・地の利…ロシアを翻弄する4つの戦術

ロシア・ウクライナ戦争は開戦から1か月が経過した。予断を許さない展開が相変わらず続いているが、ここで両国の戦争の構図を提示したい。どのような構図で何を争っているかを把握しておくことは、今後の戦局や将来の日本の戦争を考えるうえでヒントになると思われる。

ロシア兵の降伏を喧伝するウクライナ側の画像(国防省ツイッターより)

宣伝戦が巧みでウクライナ優勢に見える?

そもそも全般的にウクライナ側の宣伝戦が巧みなために優勢のようにみえていることは留意すべきだ。つまりウクライナ側が積極的に兵士や市民がドローンやスマホで撮影した撃破映像を公開している--遅まきながらロシア軍もドローン等の映像公開を始めたが、宣伝戦での劣勢は否めない--ために、戦闘における連戦連勝のシーンばかりが見えているということだ。

しかしながら、明らかにロシア軍は数日での勝利を予想していながら、予想外の苦戦にさいなまれ、大軍大兵力の優位性を発揮できていないのも事実だ。これは都市を包囲したまま占領も突破もできず、西側の政府やシンクタンクが公開した戦況分析でも動きが鈍重になってきており、出血を重ねていることが証明している。

これは物量で劣るウクライナ軍による巧みな作戦術--複数の戦術を有機的につなぎ、戦略目標を達成する営為--を成功している故とみるべきだろう。つまり以下のような戦術を組み合わせている。

圧倒的優勢のロシアを翻弄する4つの戦術

第一にウクライナ軍は、トルコ製武装ドローンTB2やウクライナ国産の武装ドローンPunisher、それに民生改造武装ドローンに歩兵によるゲリラ戦等によってロシア軍の兵站線を切断することで侵攻を遅らせている。実際、公開された武装ドローンTB2が撃破した目標はトラックや燃料列車などの兵站目標が多い。

ウクライナ軍で導入したバイラクタルTB-2(Volodymyr Vorobiov /iStock)

また武装ドローンがロシア軍の地対空ミサイルシステムなどの野戦防空を叩くことで防空網に穴を開け、更なるドローンの活躍や有人戦闘機が展開可能な空域を拡張し、ロシア軍の航空優勢を低下させていると思われることも見過ごせない。

第二にウクライナ軍は国土防衛戦における地の利と人の和(士気の高さ)を生かし、ロシア軍に出血を強要している。公開された動画を見てもウクライナ軍は反撃されれば殲滅されかねない近距離での対戦車戦闘を歩兵が展開しており、自らの生還の可能性よりも敵の撃滅を優先する士気の高さが感じられる。

自衛隊随一の知将として知られる吉田圭秀陸幕長は「兵士の士気や国民の支持などの目に見えない『無形戦闘力』はウクライナ軍に利がある」と評しているが、現状の説明を簡明にしている。(※1

国際世論戦の新しいカタチ

第三にウクライナ側は認知領域-人間の心理面-における優勢の獲得を目指し、それに成功している。本来、ロシア側はゼレンスキー政権をナチスに擬して、これを打倒する歴史の再現を狙ったが、実際にはゼレンスキー大統領が自らをウィンストン・チャーチルに擬し、ロシア側をナチスになぞらえるプロパガンダに成功している。

政府や軍レベルでも情報戦は成功している。情報公開を嫌ったロシア側兵士のスマホを没収したのはその典型と対照的に、ウクライナ側は積極的に情報を公開し、また市民にもそれを呼び掛けた。その結果、SNS上にはウクライナ市民や軍が撮影した動画戦果のみならず、地下シェルターでの砲爆下のヴァイオリンコンサートのようなものもがあふれることになった。

ウクライナ政府はロシア兵捕虜の検索サイトを即座に作り上げ、ロシア本国の家族向けに公開している。最近でも捕虜のロシア兵らによる記者会見まで行った。

またウクライナ国防省はかなり手の込んだパリが爆撃される動画を公開し、このままではフランスなども同様の運命になると訴えている。最新ガジェットとSNSを組み合わせて国際世論における優勢を獲得しようと戦略的に戦っている例はない。

また次の映像は、自動小銃で威嚇射撃しながらも後ずさるロシア兵にスマートフォンで撮影しながら国歌を歌いながら迫るウクライナ市民とされるものだ。スマートフォンとSNSが新しい戦争の武器として確立しつつある象徴的な構図だ。

武装ドローンによる撃破映像だけでなく、ヤマダ電機で10万円で購入できるようなホビードローンまで総動員し、戦果映像やロシア軍の都市への無差別砲撃を撮影し、それを公開することで国内にあっては戦意を高揚させている。同時にこれらはロシア兵の戦意も低下させている可能性がある。

国外にあっては国際世論の同情を高め、それは各国政府の軍事支援に繋がっている。あのドイツが軍備増強に踏み切り、フィンランドとノルウェーがNATO加盟へと方針転換し、スイスが対露制裁に参画し、日本ですら非殺傷とはいえ防衛装備品を戦時中の国家に提供することになった。一時はウクライナをEUに参加せるという案を欧州委員長が言明したこともそうだ。

これらの国家群の協力を引き出したことも異例ながら、これまでの戦争と違い多くの民間企業が自主的な経済制裁を行うまでになったことも異例だ。多くの民間企業がロシアからサービスや事業を撤退させている。

アノニマスがロシアのテレビ放送をジャックし、イーロン・マスクが小型衛星を利用する高速インターネット接続サービスをウクライナに提供するようなことも生起している。世界中から義勇兵が数万人も駆け付けてもいる。

第四はウクライナ側の営為というよりもロシア側の雑さだ。

後編はこちら

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