ロシア軍の歴史的大失態、なぜ多数の将軍が戦死し、首都を攻めあぐねたのか

【連載】開戦1か月、元自衛隊情報幹部が戦略面から徹底解剖(前編)
元航空自衛隊情報幹部
  • 開戦1か月、元自衛隊情報幹部の鈴木氏が戦略面から徹底解剖
  • 相次ぐ将軍の戦死…ロシア軍はなぜウクライナ制圧に失敗したのか
  • なぜ首都キエフへの総攻撃をためらったのか。戦域変化から読み解く

ロシアがウクライナに侵攻して1か月が過ぎた。

しかしながら、ウクライナに対して圧倒的に軍事力で優位なはずのロシア軍は、実効支配地域であったクリミア半島とルガンスク州及びドネツク州など東部の一部の都市を攻略したのみであり、首都キエフを陥落して「ウクライナ政府をロシアに帰順させる」という当初の目的を未だ果たせていない。

防衛省が作成したウクライナ情勢(3月25日時点、防衛省ツイッターより)

ロシア軍のウクライナ侵攻作戦は失敗に終わった

3月4日の拙稿「4つの誤算!プーチンは戦略的な敗北へと向かっている」で、ロシアは「情報戦(IW: Information Warfare)」において敗北した」と述べたが、この「情報戦の敗北」や、次々と明るみに出てくる「杜撰(ずさん)な作戦計画」によって、今回のロシア軍のウクライナ侵攻作戦は、明らかに失敗に終わったものと見られる。

23日に、NATO(北大西洋条約機構)軍当局者が明らかにしたところによると、ウクライナに侵攻したロシア軍の死傷者や捕虜などの人的損失は3万~4万人に達するとのことである。この数値が正しければ、ロシアが今回投入した人的兵力は約15万人と見られることから、約1か月間ですでに総兵力の5分の1強を失ったことになる。

これだけではない。ウクライナ軍は26日までに、この戦闘でロシア軍将官7人を殺害したと発表している。この内、少なくとも5人の将官(中将1、少将又は准将4)の死亡については西側諸国の当局者も認めており、今回の作戦に参加しているロシア軍将官は20人と見られていることから、これもすでに4分の1の貴重な人材を失ったという点で、今回のロシア軍のダメージがおよそ窺い知れる。

破壊されたロシア軍の戦車(ウクライナ国防省ツイッターより)

第二次大戦以来の将軍戦死続出

中将といえば軍団長、少将ならば師団長レベルの軍人である。簡単に交代の人物が見つかるようなポストではない。このような多数の将軍の戦死は、ロシアにとって第二次世界大戦以来の出来事であり、ロシア軍にとって歴史的な失態である。部隊における将兵らの動揺は言うに及ばず、ロシア軍全体としての指揮統率へのダメージは計り知れない。この2週間、公の場に姿を見せていないロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は、恐らく遅かれ早かれこの責任を問われることになるだろう。

大体において、彼らが戦死するというのは、完全にロシア軍の情報が筒抜けになっているという証左である。ウクライナ軍が、米国や西側諸国による情報支援を得て、これを有効に活用していることは間違いないだろう。ロシア軍の上級部隊指揮官らは、「次は自分の番かもしれない」とびくびくしていることだろう。指揮官がこれでは、兵士の士気が上がるわけもあるまい。

このまま戦闘が長引けばロシア軍の被害もさらに拡大し、火力戦においても形勢が逆転して一部の部隊が撤退を余儀なくされる可能性も出てきた。これを裏付けるように、米国防総省高官は23日、キエフ東方20~30kmで待機を続けていたロシア軍が、ウクライナ軍の攻撃により55km地点まで押し戻されたことを明らかにした。

また、ロシア国防省は25日、ウクライナにおける「軍事作戦」の第一段階はほぼ完了したとし、ウクライナ東部ドンバス地域の完全「解放」に焦点を当てると表明した。これは、キエフ周辺の部隊をウクライナ東部のドンパス地域まで撤退させる兆候と受け止められる。

25日、ウクライナでの戦況を報道陣に説明するロシア軍報道官ら。この日の発表では最新の戦死者が1,351人、40万人以上の民間人を避難させたと発表(写真:AFP/アフロ)

ロシア軍がキエフへの総攻撃をためらった理由

そもそも、すでに2週間も前にこのようなキエフの近傍まで進出していた各方面(東側及び北側など)からの部隊が、その地点で停止していたのは、キエフへの進軍をためらうロシア側の事情があったからにほかならない。

それは、ロシア軍の兵站(へいたん)が伸び切ったところで補給部隊への攻撃を行うというウクライナ軍の奇襲攻撃によって前線への補給が追い付かず、キエフへの総攻撃をかけるにあたっての十分な武器弾薬や食料及び衛生関連物資などが不足していることや、何よりも最大の理由は、ここから先へ進軍してキエフ市へ入ることによって、戦闘形態が変わるということである。すなわち、戦域の場が野戦から市街戦へと変容するということである。

野戦と市街戦では、有効な兵器も戦術も全く異なる。長期間に及ぶ準備と演習まで実施して練度を高めていたはずの野戦でさえ、先に述べたほどの損失を被っているのに、市街戦では(地形や地物などに熟知してこの戦闘に備えている)明らかに有利なウクライナ軍に対して、現状のまま前線部隊が突入した場合の結果を予想した場合、ロシア軍としては躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ないのが実情だったのだろう。

一方で、今後懸念されるのは、この戦況を打開するために、ロシア軍がABC(核・生物・化学)兵器を限定的に使用する可能性であり、米国はすでにBC(生物・化学)兵器については、その兆候があるとしている。

ウクライナ側は、このような状況をどう切り抜ければ良いのだろうか。

後編はこちら

タグ:

関連記事

編集部おすすめ

ランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事