ウクライナを煽って地獄にした欧米各国の無責任と、数々の不都合な真実

【連載】八幡和郎『タブー排除!ホンネで論じるウクライナ問題』(後編)
評論家、徳島文理大学教授
  • ウクライナ紛争、各国の本音と利害をえぐる八幡和郎氏の論考後編
  • ゼレンスキー大統領絶賛、EU・NATO東方拡大の歴史的欺瞞をただす
  • 英仏伊…各国首脳の本音は?事態をどう妥結するか?

「ロシア軍は意外に弱かった」「プーチンは精神状態がおかしい」というが、両方間違っている。私にとっても予想外だったのは、ウクライナのゼレンスキー大統領が、キエフに留まって市民にも武器を取って戦えと大胆にも呼びかけ、それを世界の世論が支持したことだけで、あとはロシアの苦戦も含めてその結果だけである。

キエフにとどまることを表明するゼレンスキー大統領(Facebook)

異例の市街戦が生んだ惨劇

大都市陥落時に市民まで動員し市街戦までして抵抗するのは、近代史で初めてだ。パリは普仏戦争で政府は無防備を宣言したし、第二次世界大戦では攻防戦の前に降伏した。日中戦争時の蒋介石や朝鮮戦争の李承晩は首都を棄てて抵抗を続けたのだ。

アメリカが西部のリビウへの待避を勧めたが、ゼレンスキーは首都決戦を選んだ。トルーマンは原爆投下で100万人の米兵の命が救われたといったが、大都市での市街戦、それも市民ぐるみでの抵抗は軍事的に有効だが、犠牲が大きすぎるので指導者が呼びかけるのはタブーだった。だが、ゼレンスキーはそれを実行し、欧米は拍手喝采をし、英雄だ、ノーベル平和賞だ、という。

市民が喜んで協力しているかは分からない。反対の声を上げることは、1945年の東京でも2022年のキエフでも不可能だ。しかも、和平交渉のメンバーの1人が妥協的だといって裁判にもかけずに射殺する極端な状況だ。

プーチンの大誤算は、電撃戦でキエフを占領し、新しい現実的な政権(傀儡政権ではないと思う)と交渉するというシナリオが崩れた一点に尽きる。プーチンの野望は挫折しているし、欧米などは勝利に酔いしれているが、ウクライナ国民の犠牲は歴史上、まれに見るものになりそうで、ノーベル賞もらったところで癒えるものではない。

台湾に勇気を与えると言うが、下手したら、あんな目に遭うくらいなら、北京の軍門に降った方がましだということになりかねない。

EU、NATOの東方拡大は妥当だったか

冷戦終結・ソ連崩壊のとき、私はパリで欧州情勢の調査を仕事にしていた。東独のまま民主化させるか、ゆっくりした統一が賢明と言われたが、コール西独首相が強引に統一したのは、「チャンスは一度しかないかもしれない」と割り切ったからだ。

2000年10月、ロシアのエリツィン大統領(右)と会談するコール首相(Kremlin.ru, CC 表示 4.0)

コールがEUの東方拡大を主張したのも、後戻り出来ないようにしようとしたからだ。ミッテラン仏大統領は統一にもEU拡大にも難色を示したが、コールが後ろ向きだった通貨統合など欧州統合への協力に転じることを条件に容認した。つまり、ドイツの広く浅い欧州統合と、フランスの狭く深い統合の妥協として広く深い統合が選ばれ、見かけ上はめざましい成功だが、矛盾が英国のEU離脱に繋がった。

しかも、東欧の要望と米国の後押しでNATO(北大西洋条約機構)はバルト三国や東欧まで拡大された。ロシアは約束に反しているといい、米国は書かれた約束はないから拘束されないと言っているが、そういうことはしない前提だったのは確かだ。

米国はウクライナのオレンジ革命(2004年)シュワルナゼ大統領(元ソ連外相)を追放したジョージアのバラ革命(2003年)で不正選挙を口実に民主的な選挙で選ばれた政権を打倒することを援助し、新政府にNATO加盟を要求させている。それに対してプーチンが反撃したのが、シリア内戦であり、2014年のクリミア併合である。

ヨーロッパでは、英国はプーチン政権と対決路線だが、フランスは伝統的にロシアと融和的だ。ドイツはロシアとの経済的つながりを欲し、イタリアは対露貸し付け世界一だ。

EUの東方拡大については、はっきりいえば、東欧のキリスト教徒の白人が「私たちもヨーロッパに入れてください」というと西欧諸国は弱い。だが、ポーランドやハンガリーの極右政権がEUを機能不全に陥れ、東欧移民がブレクジットの原因になった。ウクライナなどを加入させたらもっとひどいことになるはずなのに、ここで「加盟させません」と正直に言うのは辛いのだろう。

asantosg / istock

米国は、トランプ大統領が中国こそが世界にとって最大の懸念だと正しく考え、プーチンが交渉相手として対峙するに値すると対話路線を提案したが、民主党が政治的思惑と、民主党支持者に多い東欧・旧ソ連との繋がりが深い有力者の要求で徹底して邪魔した。

日本にしてみれば、ウクライナは北朝鮮や中国の軍事力強化を助けてる困った国だった。他方、歴史的に見れば、ロシアとの安定した関係を確立することは、明治以来の悲願で、たとえば、伊藤博文なども最大限の努力を払い、日露戦争終結後からロシア革命までの日露関係は蜜月だった。

もちろん、戦中戦後のソ連の行いは許せないが、今世紀に入り、中国が最大の懸念になったので、北方領土という棘をプーチンと「引き分け」で手を打てたら日露の国益は安全保障上も経済上も増進されるので、安倍政権時代のプーチンとの粘り強い対話も見通しなくやっていたのではない。

各国の思惑「不都合な真実」

今回のロシアの侵略は、クリミア併合後に仏独露宇四か国で結んだ「ミンスク合意」での東部2州への自治権付与をゼレンスキーが反故にしたいといったことが直接の原因で、怒ったプーチンが短気を起こして大暴走したのが基本図式だ。

欧米が悪いのは、NATOやEUに加盟させるとか、戦争に直接介入する気もないのに、ウクライナに期待だけさせていたことだ。NATOに入ることをロシアが黙ってみていると普通は思わない。米国はキューバへのソ連ミサイル配備を核戦争覚悟で阻止したし、中国がメキシコやカナダと軍事同盟を結ぶことを容認するはずない。それなら、「主権国家の自由」などと安直に断言するべきでないし、ロシアが侵略しても直接介入できるはずもないのに期待を煽るべきでない。曖昧にしていいのは、少しは可能性があることだけだ。

EU加盟には客観的な条件のクリアが必要で、経済でも民主化でもウクライナ加入は無理だと明確化すべきだった。夢想的なところがあるウクライナ人を舞い上がらせ、ゼレンスキーは無理だと分かっていながら、EU側に騙されたふりをして「あわよくば加盟」と振る舞っている。

24日、G7・NATOサミットでリラックスした表情のマクロン大統領(左)とジョンソン首相(英首相官邸flickr

ジョンソン英首相は、コロナ渦中でのパーティー開催で失脚寸前だったが救われて万々歳。マクロン仏大統領は、もともとGAFAには厳しいが、ロスチャイルド系銀行にいたこともあり国際金融資本に連なり、大統領選では他候補よりも「反露」を売りにしている。

ショルツ独首相はメルケル前首相、シュレーダー元首相がそれぞれロシアに近いので彼らの影響力を削ぐチャンスだ(特にメルケルは、ウクライナをロシアに併合した18世紀の女帝エカチェリーナを尊敬し、卓上に肖像画を飾っていたとされる)。

メルケル前首相(日本の官邸サイト)、エカテリーナ2世(1780年代 ロコトフ作肖像画 public domain)

イタリアのドラギ首相もロシアに近いベルルスコーニ元首相の力を封じられる。グテイレス国連事務総長は、EUとNATOの加盟国ポルトガル出身という国内事情から態度を明確にしすぎて仲介役としての立場を放棄してしまった。

制裁にも、世界の人口トップ10で米国以外は参加していない。ロシアの外交力は侮れない。EUは避難民に定着されてしまったら真っ青だろう。

プーチンを排除したいといっても容易でない。だいたい、イラクのフセインでもそうだが、殺してもろくなことになってない。それどころか、大量破壊兵器を放棄したら地位を保証すると言われてその通りにしたリビアのカダフィを英仏米が殺してしまったことは、北朝鮮を頑なにして核廃棄も拉致問題も解決不能にしたのを日本は憶えている。

ロシア国防省ツイッターより

そういう意味で、結論としては、ウクライナをNATOに加盟させず、ミンスク合意を遵守、クリミアは凍結、制裁緩和あたりなのだから、もったいぶらずに、一刻も早くて駆け引きなしの交渉をすることだ

日米戦争でも終戦前の1年を些細な意見の違いの調整と互いの面子のために空費して、戦没者のほとんどをその期間に出した経験もあるのだから、少々、火の粉を被っても、ウクライナ国民を犠牲にしての戦争をやめさせることに日本は乗り出すべきだと思う。

日本は、政府ではなく安倍前首相に特命チームを与えて自由にやってもらうなどいうのも、ひとつの方法だろう。

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