河井事件1.5億円、二階氏「関与していない」騒ぎの救いのなさ

「ワクチン敗戦」国民の絶望をヨソに…
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

2019年参院選広島選挙区での大規模買収事件の主犯とされる元法相、河井克行被告(衆院議員辞職)の公判が19日、東京地裁で行われ、河井被告が罪を認める形で最終弁論を行い結審した。その裏で自民党では、買収の原資になった党本部からの1億5,000万円を誰が決裁したのか、自民党幹部・重鎮の間での責任転嫁が、さながら「ホットポテトゲーム」のような様相になっている。

壮烈な責任転嫁合戦

ホットポテトゲームのはじまりは、河井公判の前日、18日の党本部での二階俊博幹事長の記者会見だった。自民党サイトの議事録によると、買収事件の報道で終始圧倒的なリードをしてきた地元紙・中国新聞の記者が「参議院選挙当時の幹事長でいらっしゃった二階さんは、その申し入れをどういう風に受け止めて、どういう風に対応していくか」と尋ねたのに対し、二階氏は

当時というと、1億5千万円が支出されたその当時、私は関係しておりません。ですが、関係してないから関係ないということをいうのではなくて、その事態をはっきりしておくために言っただけのことです。よくご意見を聞いて、今後慎重に対応していきたいと思います。

とコメント(太字は筆者)。二階氏はその後の確認質問に対しても「私は関与していない」と断言した。これに加えて、会見に同席した林幹雄幹事長代理が「実質的には当時の選対委員長がこの広島に関しては担当していた」と述べたことで波紋が拡大した。

上記リンクの議事録にはなぜか記載されていないが、林氏の「根掘り葉掘り、あまり党の内部のことまで踏み込まないでもらいたい」と記者を恫喝する発言も物議をかもした。実質的に名指しされた「当時の選対委員長」甘利明氏は翌日、国会内での記者団の取材に対し「1ミクロンも関わっていません」と独特の言い回しで関与を否定した。また二階氏の発言には、買収事件のあおりで4月の参院補選で辛酸をなめさせられた広島県連は激怒している。

朝日新聞の前田直人・前世論調査部長のツイートを参考に、ここまでの流れをおさらいすると、

  • 二階氏「私は関与していない」
  • 林氏「根掘り葉掘り踏み込むな」
  • 甘利氏「1ミクロンも関わってない」
  • 「侮辱だ」広島から批判噴出 二階氏「関係ない」発言に(←イマココ)

という状況だ。すでに永田町では、二階発言の真意を読もうとさまざまな憶測が流れている。5月の世論調査では菅政権の支持率は各社軒並み急落。産経ですら9ポイント減、不支持率が10ポイント上昇の50%超えとなった。言わずもがなコロナ対応とワクチン接種の遅れへの国民への不満がたまりにたまっている状況だ。秋までに行われる衆院選の顔として菅首相が持つのか、党内でも不安が広がる。

「安倍復権」説と野党の無力

安倍氏(首相時代、官邸サイトより)

そしてここ最近、安倍前首相が表での活動を活発化させ、「安倍復権」の観測報道が明らかに増えてきた。そこで、菅政権誕生の立役者となった二階氏としてはこうした動きをけん制したい。だから1億5,000万円への関与を明確に否定することで、河井被告と妻、案里氏の陣営に注入する「決裁」をしたのが誰なのか責任を示唆しているのではないかというわけだ。

河井夫婦の活動資金の原資は党本部からの1億5,000万円だが、そもそもの原資の大半は政党交付金、つまり国民の税金だ。しかも、きのうのGDP速報はリーマンショックを超えるマイナス4.6%。コロナ禍で塗炭の苦しみにあえぐ国民も多い中で、与党内が国民そっちのけの責任転嫁合戦を平気で繰り広げられること自体、怒りや失望を禁じ得ない国民は多いだろう。

こうなってしまったのは野党にも直接の責任こそないが、原因はある。本来、不満を持った国民の受け皿となるはずの野党第1党がいまの立憲民主党だ。ところが「こんな時」に限って近年、左派路線に舵を切り支持は伸び悩み。本気で政権準備をしてこなかった「枝野路線」が完全に裏目に出ている。結果、自民党も“安心”して内輪揉めにエネルギーを注入できるという末期的な有様になっている。

「ワクチン敗戦」が招く国民の絶望

自民党の重鎮は全く自覚してないが、「ワクチン敗戦」とも言われる国民接種の世界的な出遅れは、これまで自民党に投票してきた層への不満も相当ためこんでいる。それだけならまだしもデジタル化の遅れも含めて惨状を見せつけられたことで、かろうじて自国への愛着、誇りを手放してこなかった、エリート層が深い絶望に陥っているのをひしひしと感じている。

筆者の周囲でも、子どもを海外留学させてそのまま日本を出ることも視野に入れて本気で模索しはじめたり、「国としての日本はもうダメ。個人や自分の会社だけでも生き残りをはかる」という思いを口にする人も増えつつある。先日、元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏がFacebookに自著の一説から「「国を忘れることだ。日本国民であることを忘れろとか、国籍を変えろとかそういう話ではない『あなたの力で国を変えよう』などと間違っても思うなということだ」などと投稿すると、約2500人が「いいね」を押していた。筆者の友人でも各界で活躍する人たちが続々と反応しており、経験したことのない悲しい気持ちになった。

「ワクチン敗戦」を機に政治へのあきらめを通り越して、日本へのあきらめにつながりかねない兆しが日増しに濃くなっている。これは大袈裟ではない。16年前、民主党が惨敗した郵政選挙で「日本をあきらめない」というイケてないキャッチコピーを掲げたことがあったが、まさかいまになって脳裏に浮かぶとは。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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