制空権どころか航空優勢もないウクライナが、ドローンで戦果を挙げた3つのワケ
軍事のプロたちが見ている地上戦革命の「兆し」とは?- ウクライナ善戦を支えたドローン兵器の戦果を分析する
- ロシアの優れた戦闘機や防空システムをなぜ破れたのか?
- 今後の地上戦の図式を塗り替えそうな兆しとは?
ロシアとウクライナの戦争はようやく停戦の兆しがわずかに出てきた。ロシアがここにきて首都キエフ周辺から部隊を退き始めたのも、ウクライナが予想外に善戦し、戦争の長期化とそれに伴う経済的なダメージに耐えられなくなりつつあるからなのは、誰の目にも明らかだろう。

そして今回の停戦交渉を仲介したのがトルコというのも実に意味深だ。ウクライナ軍が善戦できたのは、トルコ製の武装ドローンTB2がロシア軍の対空システムや榴弾砲を多数撃破するなど戦果をあげたからとも言われている(他にも自国製のドローンを投入もしているが)。
「正規軍との戦争では役立たない」と言われていたドローンの活躍の実相とはどれほどだったのか。ウクライナの公式発表や、アメリカ、イギリスなど軍事機関による戦況分析、現地の報道など公表されている情報をもとに考えてみよう。(文・蓮見皇志郎、構成・サキシル編集部、監修・部谷直亮)
新しい対空システムも撃破
まずTB2とはなにか?これはトルコのバイカル社が開発した小型の中高度滞空型無人攻撃機で、基本性能は最大飛行距離が3,000km(推測)、最大滞空時間24時間34分、最大速度時速220km/h、巡行速度時速130km/hと低速なことがわかる。

武装は射程0.5km~8kmの対戦車ミサイル(1発)、射程8~14kmのレーザー誘導弾(1発)、射程30~80kmのレーザー誘導弾(1発)、射程1.51km~8kmのロケット弾(4発)などから機外兵装ステーション(ハードポイント)の4基分を搭載できる。他にはGPSが妨害されても自律飛行、自律着陸ができるなど電子戦に強い。
公開情報から精度の高い情報を投稿する軍事サイトOryxによれば、2022年1月8日時点で、シリア、リビア、ナゴルノカラバフ、ウクライナなどで電子戦装備はR-300Pを1基、対空システムはクルーグ1基、クープ2基、オーサを17基、ストレラ-10を3基、S-300PSが2基、トール1基、パーンツィリ11基の計37基を破壊した。多くが旧ソ連時代の古い対空システムだが、パーンツィリはロシア連邦時代の新しい対空システムだ。
このTB2がこの戦争でも大きな戦果をあげている。
Oryxによれば3月14日時点でウクライナ軍のTB2が歩兵戦闘車2両、榴弾砲5門を破壊した他、対空システムはブークM1-2を2両、ブークM2を4両、トールM1を1両、トールM2を1両、パーンツィリS1を1両破壊した。これらはシリア、リビア、ナゴルノカラバフ、ウクライナでTB2が過去に撃破した対空システムの後継や改良型である。またロシア軍の電子戦装置(最新鋭のクラスハ4との説も)1基を破壊した。
TB2が圧倒した3つの理由
ウクライナ軍のS-300はそれなりに稼働しているとはいえ、なぜ、ウクライナ軍には制空権どころか航空優勢すらないといえるのにTB2が戦果をあげているのかそれは主に3つの理由からなる。
まず1つ目はウクライナ軍のTB2とロシア軍のSu-27との高度の違いがあげられる。米空軍大学出版のAir&Space power journalの論文には”戦術空域“と”作戦空域“という考えがある。TB2のような小型無人攻撃機や民生品ドローンなどは陸海の延長線上の空域“戦術空域”(高度1500mまで)で運用するが、Su-27のような制空戦闘機は主に空として独立している“作戦空域”(同9000mまで)で運用する。

例えばイスラム国に対して米軍は作戦空域を支配していたが、戦術空域を支配できなかったため苦戦した。今回はより高度が関係しているだろうと言える。制空戦闘機が低空飛行している小型攻撃機やドローンを探知するのは難しい。そのため、ロシア軍の制空戦闘機が低空飛行をするTB2を探知するのが難しい。また想定していた兵器の違いで従来の対空兵器も苦戦していると言えるだろう。
2つ目はTB2のレーダー反射断面積(以下RCS値)が低いのでレーダーに映りにくいことが挙げられる。風を跳ね返して浮遊するように設計されたTB2は電波も跳ね返しやすくなるが機体が小さいので、その分RCS値が小さい。例えば航空自衛隊でも使われているF-15のRCS値が16平方メートル、F-16は4平方メートル、ステルス戦闘機のF-35は推定0.005平方メートルに対してTB2のRCS値は推定0.1平方メートル。最新鋭のステルス戦闘機には及ばないが従来の戦闘機と比べてRCS値が低いのがわかる。よって敵対空レーダーに探知されにくい。
3つ目は、TB2はセンサーとシューターが一緒であることが挙げられる(参照:部谷氏論考)。基本は味方地上部隊が敵の位置を報告した後、戦闘機や攻撃機が敵地上部隊を攻撃する。しかし味方地上部隊がレーザー誘導装置を使用できないなどで、無線でやりとりした場合、味方地上部隊とのズレが生じたり、パイロットが敵を発見できなかったりなどで、100%正確な攻撃ができるわけではない。
しかしTB2は先進的なISR能力(情報収集、偵察、監視)を有しており、またその場に滞空ができるため、単機で高い偵察能力を持っている。そして探知した後にすぐ攻撃に移せるため、100%正確な攻撃ができる。これがセンサーとシューターが一緒であることの強みだ。

今回の戦争は、地対空システムを重視するロシア軍でさえTB2に有効的に対処できなかったことが証明された。
TB2は既にパキスタンやモロッコなどが導入したが、今回の戦争で発展途上国を中心としてさらに導入が広がるだろう。他にも最近、中国で中国版TB2(BZK-005の武装型?)が確認されて、今後配備する可能性が高いと言える。
小型無人攻撃機によって今後の地上戦が大きく変わる。小型無人攻撃機に対処するために地対空システムや小型無人戦闘機の新規開発などが必要になっていくだろう。中国、韓国という技術開発に熱心な国が隣にある本邦も例外ではない。
■
蓮見皇志郎 軍事ライター
東京都内の大学で学ぶ傍ら、安全保障アナリストの部谷直亮氏に師事し、安全保障・軍事を研究。主に中国軍の装備品や世界各国の無人兵器やドローンについて調査している。ツイッター「@hasumikoushirou」
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