【参院選2022】東京選挙区:自民・生稲晃子氏擁立なら小池知事の思うツボか

「組織軽視」くすぶる不満につけ入る隙
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 参院選東京選挙区の自民2人目の候補に女優の生稲晃子氏が浮上
  • 自民都連内では地方議員を中心に難色を示す人が少なくない
  • 知名度や人気の程度も問題だが、自民が恐れる「小池知事の威光」とは?

参院選東京選挙区の自民2人目の候補に女優の生稲晃子氏が浮上したことが自民党内で波紋を呼んでいる。

著名人の出馬情報とあってスポーツ紙のネットニュースは早速反応。テレビでの知名度がモノを言う首都決戦において、“元おニャン子クラブ”メンバーの生稲氏は一見すると打って付けのようだが、自民都連内では地方議員を中心に難色を示す人が少なくないようだ。

中には「これでは小池知事の思うツボ」と危惧する向きまである。なぜそんなことが言えるのか。波紋の紋様を一つ一つたどっていくと、今回の選挙がただの知名度競争では済まない、保守地盤独特の事情が浮かび上がってくる。

自民党本部(oasis2me /iStock)

なぜ生稲氏だったのか?

自民党は東京選挙区で現職が2人いる。そのうち元バレーボール日本代表で、前国土交通政務官の朝日健太郎氏はすでに公認済み。ただ、朝日氏は前回選挙でいわゆる無党派層の受け皿として擁立された「タレント候補」だ。初当選から6年を経た今回の選挙も基本的には同様の位置付けのようだ。

そして「ザ・自民党」と言うべき、業界団体などとの関係性をベースにしてきたのが、もう1人の現職、中川雅治元環境相。しかし2月に75歳になった中川氏は今期で引退を表明。所属派閥が安倍派(清和会)のため、安倍元首相の側近でもある自民都連会長の萩生田経産相は引き続き「安倍派枠」を維持したい意向とされる。

しかし中川氏の後継候補探しが難航した。自民党関係者に取材すると、甲子園のスターだった元野球選手や、元民放キー局アナウンサーの女性らに打診したものの、いずれも固辞。そうした中で降って沸いたのが、比例現職の片山さつき氏の東京鞍替え説だった。片山氏が所属していた二階派(志帥会)から離脱の際にトラブルが表面化したのを機に取り沙汰されたが、ツイッターや週刊文春を騒がせる「前代未聞の泥試合」(自民議員秘書)となって鞍替えの話は立ち消えになった。

その裏で「ポスト中川」は「女性の著名人がいい」との方向性になり、安倍派内では世耕弘成参院幹事長と東京選出の丸川珠代元五輪相らが主体となって候補者探しに奔走。安倍政権時代に政府の働き方改革実現会議の民間議員を務めるなど「有識者」として近年は活動していた生稲氏に白羽の矢が立ったようだ。

生稲晃子氏公式ブログより

自民内で評価が割れるワケ

しかし、片山氏の騒動時にも指摘したように都連内部には「無党派層向けの朝日氏と同じタイプの候補者より、官僚出身の中川氏と同じような手堅いタイプの方が(業界団体など)組織との相性がいい」(中堅地方議員)と見る向きが根強い。その意味では知名度と官僚出身の経歴を兼ね備えた片山氏なら収まりがいいが、顛末は先述した通り。

では、政治経験が全くない、タレント候補がいきなり組織系候補に化けるのかといえば、かなりの乖離がある。頼みの知名度・芸能的な人気はと言えば、東スポが蓮舫氏とトップ争いをするかのような煽り報道をしているが、そこまでタレントとして求心力があるのだろうか。

おニャン子クラブの活動時代を覚えている世代の地方議員からは「生稲さんが“会員番号40”といっても、申し訳ないが、渡辺満里奈さん、新田恵利さんほどの人気や知名度があったわけではない。無党派層が入れてくれるほどの知名度があるのか」と不安を隠さない。実際、昨年3月、ねとらぼが実施した「おニャン子」元メンバーの人気投票で、その渡辺さんらが上位10傑に順当にエントリーしたが、生稲氏は入っていない。

色々と聴き込んでみると、「生稲推し」の都連執行部と「できれば官僚系か地方議員系の候補がいい」と考える地方議員たちの間で温度差は否定できないようだ

「生稲推し」の人たちからすると、空中戦の要素が強い東京の選挙で知名度なしに勝てるのかという考えがあるのだろう。情勢調査などのデータもあって自信はあるのかもしれない。それでも地方議員からすれば「朝日氏、生稲氏ともにタレント候補では組織軽視ではないのか」と不満がくすぶっているというところか。

自民が恐れる「知事の威光」

前述の地方議員が不安視するのは、昨年の都議選での苦い記憶だ。自民は第1党奪還と自公での過半数確保へ楽勝ムードだったのが一転、接戦区でことごとく逆転負け。議席増も過半数には及ばず、都民ファとほぼ拮抗するにとどまった。

東京都「知事の部屋」より

流れが変わったのは終盤戦、入院していた小池知事が登場してきたことが大きいが、ある都議は業界団体の異変を指摘、「予算権限を握る知事の威光が4年で増していた。都民ファに寝返らないまでも自民のために動かない組織が少なくなかった」と明かす。実際、悠々と再選を決めたように見えるベテラン都議たちでも、大逆風だった2017年選挙より得票数を減らしていた選挙区が相次いでいる。

そうした動きは大阪では既視感がある。自民は、維新に知事や主要自治体の首長の座を奪われたと同時に権力を失った現実に直面した。昨年の衆院選前の取材で、ある大阪選出議員は「大阪では10年も維新が“与党”をやっているので、組織団体は予算権限を握る向こうにいい顔をしてしまっている」と嘆いていた。

小池氏や都民ファは大阪維新ほどドブ板選挙は得意ではないが、やはり権力者は強い。小池都政スタートから6年近く。かつて都議会自民党が実質確保していた200億円の復活予算枠は廃止され、代わりに小池氏が各種団体からのヒアリングを実施している。

小池(荒木)陣営との団体票争い?

都議選では、すでに都民ファ代表の荒木千陽都議が出馬を表明している。政界関係者によると、荒木氏本人は当初、周囲に出馬に後ろ向きな意向を語っていた。自らの知名度・人気不足を当然自覚しているからだが、もし自民が組織票への浸透に未知数な生稲氏を擁立した場合、小池氏が、自民寄りの組織団体側にあの手この手で籠絡できる余地を増やすのは確かだ。

新党名のフリップを手に写真撮影に応じる荒木氏ら(昨年10月、筆者撮影)

荒木陣営はすでに国民民主とのタッグで連合という後ろ盾を確保している。それとの合わせ技で小池氏が意外な“寝技”を発揮し、荒木氏が脚固めすれば、自民が当てにする団体票は引き剥がされかねない。そんな展開なら小池氏の「思うツボ」。荒木氏がまさかの当選圏内に浮上してくる可能性も否定できまい。

加えて自民がもう一つ神経を尖らせているのが維新の存在だ。昨年の衆院選直後からの勢いは落ちたのは確かだが、保守系改革勢力を好む都会民は多い。まだ候補者は発表していないが、女性議員の増加が課題でもあり、女性ではないかと筆者は睨んでいる。たとえば、蓮舫氏や生稲氏よりも多少若い知的なイメージの女性を擁立した場合、台風の目になる可能性は十分ある。もしその通りなら、女性候補者だけで蓮舫、竹谷とし子(公明)、荒木、生稲の各氏に加え、維新候補と5人が争う大激戦だ。

注目の首都決戦まで残り3か月。各党の候補者擁立は佳境に入りつつある。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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