住宅ローン金利「じわり」上昇 〜 長期金利の上昇は抑え込めるか
金融緩和政策の大転換はないにしても...- 日本の長期金利がかつてない上昇基調で住宅ローンへの影響は?
- 日銀の政策転換で大幅上昇?農林系金融機関の幹部「重要なのは…」
- 住宅ローン金利が0.5%上昇した場合の住宅購入をシミュレーション
【編集部より】コロナ禍以前までの低金利傾向が一変し、住宅ローンへの影響が取り沙汰されています。今後の展開はどうなるのか?不動産のプロの観点から展望します。

世界的な金利上昇が止まらない。米国の10年国債利回り(長期金利)は2.398%にまで上昇(3月29日終値)。昨年末の終値が1.512%なので、わずか3カ月で0.9%近くも上昇したことになる。
日本の長期金利もかつてない上昇基調となっている。日銀は、10年物国債利回りの許容上限を「±0.25%程度」としているが、3月28日にはこの上限である0.25%に到達。これ以上の金利上昇を抑えるため、指定の利回りで国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」を実施した。
指し値オペによって、30日の長期金利は0.215%まで低下。日銀は今後も必要に応じて通常の買い入れ措置の追加、増額なども行うとしており、長期金利を抑え込む姿勢を鮮明にしている。
ただし、すでに日銀は、発行済み国債1220兆円のうち、およそ4割にあたる530兆円を保有している。長期金利上昇を抑えるためだけに日銀が過剰に国債を買い続ければ、市場の金利調節機能への悪影響や、さらなる円安の進行によってガソリンや日用品の値上げなどが進むのではないかという懸念もある。

世界的にインフレ圧力が強まる中、金利上昇阻止にこだわる日銀のインフレ容認姿勢は、国内外でも評価が分かれることになるだろう。
住宅ローン金利「じわり」上昇
長期金利の上昇に伴い、住宅ローンの金利もじわりと上がってきている。
日本国債10年物の利回りは、長期金利の代表的な指標であり、10年物国債利回りが上昇すれば、全期間固定型住宅ローンの新規借入金利も上昇傾向となる。
全期間固定金利型住宅ローンのフラット35(住宅金融支援機構)は、今年3月の実行金利が1.43%(最低帯)で、約3年ぶりの高水準となった。コロナの影響を受けていなかった2020年3月の実行金利1.24%に比べると、0.19%ほど上昇した格好だ。
上げ幅は今のところ決して大きいものとは言えないが、仮に今後、10年物国債利回りの上 昇が続いた場合、日銀の政策転換によって⻑期金利が大幅に上昇する可能性はないのだろ うか。
農林系金融機関の幹部はこう話す。
「日銀は、長期金利上昇を抑えるために、今後しばらくは指値オペなどで無制限に国債を買い入れる措置を続けるだろう。重要なのはCPI(消費者物価指数)だ。金融政策の転換には『CPIが安定的に2%を上回っていること』が大前提。携帯電話通信料の大幅下落の影響が縮小する22年4月以降に2%を超えることになるかもしれないが、今はその状況にない」
確かに、今年2月の消費者物価指数は総合で0.9%、生鮮食品を除く総合で0.6%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合ではマイナス1.0%となっており、「CPIが安定的に2%を上回っていること」には程遠い。
ただ、金融緩和政策の大転換はないにしても、日銀がインフレ容認姿勢への批判をかわすために、4月以降、長期金利の変動許容幅を0.25%程度から拡大する可能性はあると筆者は考えている。
実際に、これまで日銀は、10年国債金利の変動許容幅を目標値の0%から上下±0.1%程度としていたものを、2018年7月に±0.2%程度へと拡大。さらに2021年3月には、上下±0.25%程度にまで拡大してきた経緯がある。
金融政策の大転換がなくても、変動許容幅が再々拡大されれば、全期間固定型住宅ローンの新規借入金利はさらに上昇する可能性がある。

0.5%の金利上昇がもたらすものは?
仮に10年国債金利の変動許容幅が拡大された場合でも、大幅な拡大は考えにくい。そこで、今後、住宅ローン金利が0.5%上昇した場合の住宅購入についてシミュレーションしてみたい。
購入価格5,000万円、頭金500万円、借入金4,500万円、返済期間35年という条件で、コロナ前の実行金利1.24%を基準にすると、支払月額と購入額への影響は以下のとおりとなる。
- 金利1.24%の場合:月々返済額132,123円、総返済額55,491,836円
- 金利1.74%の場合:月々返済額143,134円、総返済額60,116,163円
このように金利が0.5%上昇すると、月々の返済額が約1万円ほど増え、返済総額は460万円ほど増加する。また、月々返済額の差額を借入額に換算すると、約400万円ほどとなるため、金利が0.5%安ければ月々の返済額は同じで約400万円ほど購入予算を伸ばせる計算だ。
このように、金利の動向は毎月の住宅ローン支払額の増減だけではなく、住宅価格の市場形成にも大きく影響するのである。
長期金利が上がらないことの功罪
長期金利が上がらなければ、固定金利型住宅ローン金利も上昇せず、低金利状態が維持されれば住宅購入予算も高水準で推移するだろう。これから固定金利型住宅ローンを利用して住宅を購入したい人にとって、長期金利の上昇は何としても避けてほしいところだ。
一方、世界的なインフレ圧力が強まる中で長期金利を意図的に低く抑え続ければ、円安がさらに進み、国内ではエネルギーを中心としたモノの値段は上がっていく可能性が高い。せっかく低金利で住宅ローンを利用できても、物価高による生活費の増加は家計を圧迫することになる。
いずれにしても、消費が増えないのに物価が上がり、賃金は上がらないスタグフレーションの足音が聞こえ始めているなか、政府・日銀は金融政策の難しいかじ取りが続いていくのは間違いない。
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