マイナ保険証、なぜ窓口負担が増えるのか?医療経済の視点から解説

実質的な価格転嫁か。医療機関も不透明な負担に錯綜
歯学博士/医療行政アナリスト
  • 批判噴出のマイナ保険証の窓口負担増がなぜ起きたのか背景を解説
  • 医療機関のシステム導入時からコスト増大、価格転嫁?
  • 近年新たな医院経営の重荷になっているのが…

医療機関においてマイナンバーカードで医療保険を確認する「オンライン資格確認」を使用した場合、患者の医療費が増える診療報酬改定が4月から実施されることに対し批判の声が高まっています。

厚労省YouTube公式チャンネルより

実質的な価格転嫁か

今回の改定により3割負担の場合初診で21円、再診で月に1度12円患者窓口負担が増加。またオンライン資格確認を行わない患者に対しても、システム導入医療機関では初診料に対し9円の加算が時限的に発生。

政府は2023年3月までにすべての医療機関でオンライン資格確認導入を目指していますが、現時点で普及率はわずか14%。全く普及していかない原因はシステム利用料や保守サポート料といったランニングコストで、患者負担増は実質的にその価格転嫁と言えます。

マイナ保険証で初診21円増 4月から患者負担、反発の声も ― 共同通信

想定外のコスト続発

政府は当初2021年10月までのオンライン資格確認の全国普及を目指し、全国の病院・薬局・診療所へ顔認証付きカードリーダーの無料配布と約20〜100万円の専用回線改修補助金給付を実施。

しかし当時より補助金を上回る高額見積もりが回線改修・専用パソコン導入に対して多発し、多くの医療機関は持ち出しで政府の推進するマイナンバー事業に参加することになりました。

ところがいざカードリーダーを使用する時になって今度はシステム利用料が毎月発生することが判明。これは当時5000円程度の負担で事前の告知がなかったことから混乱に。

さらにカードリーダーによって異なる料金設定も後から明らかになり、業界団体内で情報が錯綜。状況が整理されるまで静観という空気が業界内に広まり、オンライン資格申請導入の機運は縮小していきました。

政府は状況の把握に遅れ、オンライン資格確認導入がなぜ行われないか直近半年間で複数回書面や電話でのアンケートを実施。

その結果が4月の診療報酬改定におけるシステム利用料分の患者への価格転嫁と推察されます。現状システム利用料は月額2500円程度まで下落しており、本改訂で医療機関の負担は概ね相殺される見通しとなっています。

(図)システム利用料に関する医療機関・薬局への補助一覧

オンライン資格確認等、ベンダーからの「補助額を超える高額見積もり」がハードルに ― GemMed

保険制度でのコスト吸収に限界

これまでも新型コロナ等新興感染症対策だけでなく、さまざまな施設基準を満たすことで追加の診療報酬が加算されるという対応はされてきました。医療水準を向上させていくために必要な措置であると一方で、近年では医療デジタルツール保守料などのランニングコストが医院経営の重荷に。

厚労省が案内チラシ用に配布しているPDFより(機器はパナソニック製)

国民皆保険制度下での公定価格では医療機関の個別判断で価格転嫁はできません。そうはいっても全てのコスト増分を保険制度内に呑みこんでいくのは限界。イギリスや台湾など海外では、新しい設備や医療器具に対する投資は保険外自由診療による収入で賄うのが一般的な医療経済のあり方です。

今回拙速にマイナンバーカード普及を進める中で生じた不透明感は残り続けています。ツイッター上の医師や医療事務アカウントからも「患者に価格転嫁するのは違和感」との声も。

雇用保険料の段階的引き上げも決定しましたが困難な社会情勢の中、小幅の負担増を繰り返すのは今後厳しい視線が向けられるのではないでしょうか。

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