NHKも見誤る宮古島前市長逮捕:沖縄安保、現地のリアルとは
沖縄の利権体質が歪める日本の国防政策- 沖縄・宮古島前市長が自衛隊駐屯地の用地買収に関わる収賄容疑で逮捕の事件を考察
- NHKは誤報だが、前市長は防衛省に牧場とゴルフ場の抱き合わせ買収を終始画策。
- 沖縄県内の「利権体質」が国防政策が歪めてきた。辺野古問題の長期化も同じ背景
沖縄県宮古島市の下地敏彦前市長が12日、自衛隊宮古島駐屯地の用地買収に関わる収賄容疑で逮捕された。事件を掘り下げてみると、防衛省が一首長の利権体質に翻弄される姿が浮き彫りにされる。逮捕を受けてNHKなど一部の大手メディアが発信したニュースには事実関係の誤認が多い。離島の事件とはいえ、ことは国防政策に関わる問題であり、責任ある報道姿勢が臨まれる。
意外でなかった前市長逮捕

下地前市長の逮捕容疑は、同市上野のゴルフ場、千代田カントリークラブ(CC)の敷地を、陸上自衛隊宮古島駐屯地の用地として防衛省に買収するよう働きかけ、成功報酬として現金約650万円を受け取ったとされるものだ。贈賄側として千代田CCの下地藤康元社長も逮捕されている。
下地前市長の逮捕は意外ではなかった。2017年に行われた市長選の際、前市長が土建業者を集めて開いた集会で、「おまえら誰のおかげで飯を食っていると思ってんだ」という趣旨の発言によって参加者を恫喝したのを目撃していたからだ。4候補が乱立した選挙では、自公の支援を受けた前市長が辛うじて3期目の当選を決めたが、いまどきこれほど露骨な利益誘導または業者恫喝を目的とした発言は許されるものではない。
御年75歳の下地前市長は、今年1月に行われた市長選で4期目を目指したが、有権者のなかには前市長の利権体質に嫌気が指していた保守系市民も多く、自民党の一部と革新系政党に支援された座喜味一幸氏が当選した。沖縄本島や本土の大手メディアは「オール沖縄の勝利」と伝えたが、座喜味氏は2020年まで自民党県議を務め、宮古島への自衛隊配備にも容認の姿勢を見せるれっきとした保守政治家だ。前市長のダークな一面を嫌う保守層の信任を広く集めて当選を果たしたのであり、「オール沖縄の勝利」などではない。
前市長の要求した抱き合わせ買収
今回の逮捕容疑には、「陸上自衛隊の宮古島配備計画の受け入れを表明することにより、千代田CCに有利になるよう取り計らった」ことの見返りに賄賂を受けたとある。下地前市長は「千代田CCを買収してくれるなら、自衛隊配備を受け入れる」という姿勢だったことになる。
防衛省の用地選定は2014年から始まった。当初は大福牧場を候補地として検討していた。大福牧場は、宮古島出身の衆院議員である下地幹郎氏(現在無所属)の兄(※)で地元有力ゼネコン・大米建設会長の下地米蔵氏が所有する牧場だ。
だが、下地前市長は、2015年1月から3月にかけて、千代田CCを候補地に加えるよう防衛省に再三働きかけている。前市長は、千代田CCを加えなければ自衛隊配備を容認しない可能性もちらつかせたという。
当時千代田CCは赤字経営が続いており、前市長は同社を救済するため、当初は県営公園用地として県に買収を提案する方針だったようだが、防衛省に売却するほうが確実だと方針を変えたらしい。それだけではない。前市長はこのとき、あろうことか大福牧場と千代田CCの両方を防衛省に買収するよう持ちかけている。
結局、防衛省が前市長に折れるかたちでその要求を受け入れ、大福牧場にミサイルと弾薬庫を、千代田CCに隊舎を分散配備するよう計画を練り直すことになった。防衛省は「抱き合わせ買収」の要求に屈したのである。

水源問題での急転回
ところが、2016年3月、宮古島市の地下水審議会学術部会(部会長・中西康博東京農大教授)が、「大福牧場の利用は、地下水源に影響が出るので認められない」との報告書を提出し、牧場のオーナー、下地米蔵氏も売却しない姿勢を明らかにした。
下地前市長は、抱き合わせ販売計画が崩れるのを恐れたのか、報告書を隠蔽・改竄するなど信じられない行動に出たが、山も川も存在しない宮古島の住民を長年苦しめてきた水源問題が障害になるのでは諦めるほかない。同省は大福牧場の買収を同年9月に正式に断念し、千代田CCの取得方針を決定した(買収額約8億円)。駐屯地は2019年に開設されたが、住宅地に近い千代田CCには弾薬庫は置けず、防衛省は駐屯地から離れた同市保良地区に弾薬庫を設置せざるをえなかった。これも下地前市長の悪しき置き土産である。
誤報を発したNHK
この事件を報道するにあたって一部の大手メディアは誤報を発している。先に触れた「下地前市長はオール沖縄に負けた」などという報道も無理解の極みだが、「前市長は大福牧場を降ろして防衛省に千代田CCを選ばせるよう工作した」という趣旨の報道も罷り通っている。が、これは完全な誤報である。
たとえばNHKは5月13日午後に次のようなニュースを発信している。
陸上自衛隊の配備計画をめぐっては5年前、下地前市長が配備を受け入れる考えを正式に表明しましたが、その際、2か所ある候補地のうちゴルフ場とは別の地区については「水道水源への影響がないとは言い切れない」などとして認めない考えを示していました。
「水源に影響がないとは言い切れない」というのは、NHKが示唆するような下地前市長の方便ではない。抱き合わせ販売を狙っていた前市長の思惑に真っ向から対立した、地下水審議会学術部会の結論を受けての不承不承の発言である。中西康博部会長(東京農大教授)が前市長による報告書の書き換えの要求を断固拒否した事実も知られている。5月12日の読売新聞もNHKと同じ過ちを犯しているが、前市長は水源問題が明るみに出るまで大福牧場を候補地から下ろす意思はなかった。
これらはけっして小さなミスではない。市長としての職務権限と防衛省の配備計画との関連性を踏まえつつ県警と検察が立件し、裁判で有罪に持ち込むだけの材料があるかどうかを見極めるために不可欠の事実関係である。
「辺野古」長期化と同じ背景

沖縄県内にはびこる「利権体質」によって国防政策が歪められた事例はこれが初めてではない。普天間飛行場の辺野古移設が想定外に長期化し、当初計画の約3倍、1兆円に届かんとする国費が投入される「一大プロジェクト」に転じてしまったのも、そもそも地域の政治家と業者の癒着がもたらした産物である。
埋め立て面積と砂利使用量を増やしたい業者におもねる政治家たちの長期にわたる「調整作業」の結果、維持管理コストの高い変則的な海上滑走路が大浦湾に目下建造されつつあるが、政治家の利権体質が抑えられれば、はるかに安いコストでより効率的な移設が可能だったはずである。
安保・国防を歪めるのは基地反対運動ばかりではない。このことを政府関係者は肝に銘ずるべきだ。
※【訂正】5/23 12:00 父ではなく兄でした。
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