中国経済がヤバくなっていることを現地の株価が告げている

ウクライナ、コロナ...難問山積に「特効薬」を打てない事情
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
  • 上海、香港などで株価が下降トレンド。中国経済の先行きに懸念漂う
  • 中国政府は金融市場の安定化を打ち出すも、思い切った手は打てないワケ
  • 不動産バブル崩壊、ウクライナ情勢、コロナ再拡大…積み上がる懸念材料

中国は3月5日、全国人民代表大会を開催し、2022年の経済成長率目標を5.5%前後とすることを発表した。これは昨年の実績が8.1%であったのに比べると相当抑えた数字となっており、中国政府が現在の中国経済の状況を非常に厳しく受け止めていることを表していると言えよう。

しかし、景気の先行指標と言われる株価は、中国政府が考える以上に経済の先行きが懸念される状況にあることを知らせている。

香港株 “真っ逆さま”の下落

筆者作成

上海証券市場と深圳証券市場の300銘柄を指数にしたCSI300指数は、昨年12月上旬をピークに下落傾向にあったが、3月に入ると1日から15日までの半月で13.8%のマイナスと、急降下した。

また、海外の投資家の動向を反映しやすく、ITネット関連企業の株の比率が高いため株価の変動率が大きい香港ハンセン指数は、同期間中に19.1%下落し、2月10日から3月15日までの約1か月で26.1%のマイナスと、まさに真っ逆さまに落ちたと形容するのがふさわしい状況となった。

特に、3月14、15の両日は株価の下げがきつく、この2日間だけでもCSI300指数は7.5%安、香港ハンセン指数は10.4%安となり、このままでは株式市場発の経済危機もあながち非現実的とは言えなくなった。

こうした状況に危機感を抱いた中国政府は16日、急遽、劉鶴副首相が主宰する国務院の金融安定発展委員会(以下「金融委」)の特別会を開催して対策を検討した。会議では、本年第1四半期の経済活性化に全力で取り組むこと、不動産事業者の抱えるリスクの予防と解決のための措置を講じること、ITプラットフォーム企業のガバナンス改善措置を早期に終了すること、香港証券市場の安定化について本土と香港の規制当局が連携を強化することなどが議論された。

香港証券取引所(LewisTsePuiLung /iStock)

16日、会議の概要が公表されるとすぐに株価は大幅に反発し、香港のハンセン指数は9.9%高となり、本土の株式市場でも上海総合指数が3.5%高、CSI300指数が4.3%高となった。

しかし、これで株価が下降トレンドを脱したと思うのはまだ早い。16日の金融委は株式市場の混乱を沈静化させるため、緊急避難的に経済と株式市場の安定化に努めるジェスチャーをしてみせたぐらいに考えた方がよいだろう。

中国政府は手を打ちたくても打てない

16日の金融委では、第1四半期(1~3月)の経済活性化を図るとされたが、4月初めの現時点で財政金融政策等で何か画期的な措置が取られた形跡はない。人民銀行は昨年12月以来最優遇貸出金利を徐々に引き下げるなど、景気下支えのための金融緩和措置を講じて来ているが、アメリカが金利引き上げを本格化しつつある中で、中国がむやみに金利を引き下げると極端な元安や資本の大流出を招いてしまう懸念があり、思い切った手は打ちづらい状況にある。

また、金融委は不動産セクターについて、リスクの防止・解消のために強力で効果的な措置を取ると言ったが、これもまだ具体的な姿が見えてこない。何しろ恒大集団一つをとっても負債が中国のGDPの約2%相当もあり、その他の不動産開発業者も含めると途方もない負債の額になるため、問題は簡単には解決ができない。

その間にも、不動産バブル崩壊の象徴ともいえる恒大集団は、3月21日香港証券取引所での取引が停止となり、22日には2021年12月期の監査済み決算の発表が3月末の期限に間に合わず4月以降になることが発表された。そして恒大集団以外の多数の企業も監査済み決算の発表を延期すると発表しており、不動産セクターの先行きは依然視界ゼロの状況が続いている。

LewisTsePuiLung /iStock

コロナとウクライナが追い討ち

また、こうした不動産セクターの問題に加えて、ここへ来て新型コロナも中国各地で感染再拡大が見られるようになり、生産や消費などの経済活動に影響が出ている。

中国は2020年3月の武漢での新型コロナの流行以来、1人でも感染者が出ると地域をロックダウンするとともに徹底した検査を実施して感染拡大を封じ込める、いわゆるゼロコロナ政策を採用しているが、感染力の強いオミクロン株が流行の主体になった今もこの政策を変えていない。このため最近では東北部吉林省の省都の長春がロックダウンされ、トヨタの合弁企業の工場が一時ストップした。

また、IT関連の製造工場などがひしめく深圳がロックダウンされたときはアップルに部品を供給する会社の工場が止まった。さらに、有数の鉄鋼生産地域の唐山のほか青島、東莞、上海でもロックダウンが実施された。

ごく最近では、こうした新型コロナのマイナスの影響に加えて、ロシアのウクライナ侵攻問題も、資源価格の高騰による企業の生産コストや消費者物価の上昇を招き、経済に暗い影を落とすなど、中国経済は難問山積の状況だ。

一方、こうした中で習近平主席は、今年10月の共産党大会で政権3期目を目指していることから、中国政府としては少なくとも党大会までは経済が混乱したり低迷したりすることを絶対避けたいはずだ。したがって、今後中国政府はあらゆる手を尽くして景気の落ち込みを防ごうとするだろうが、なかなか特効薬がないというのが実情だろう。

中国経済がヤバくなってきていることを、現地の株価は示しているようだ。

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人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

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