ロシア軍の残虐行為に「ジェノサイド条約批准を」の声、日本未批准の背景に何がある?
政府に「やる気なし」いくつかの理由とは- ロシア軍の多数の市民虐殺判明で「ジェノサイド(大量虐殺)条約」に注目
- 日本でも条約批准を求める声が出ているが、政府は消極的
- 国内での関連法の未整備も挙げられているが、政府が抱くもう一つの懸念
ウクライナがロシア軍から奪還したキーウ州で、多数の市民の遺体が見つかったことを示す映像が世界中に衝撃を与えている。ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、米CBSニュースのインタビューに「ロシア軍の行為はジェノサイド(大量虐殺)だ。国家と人々を消滅させる行為だ」と非難した。
💬 Президент України @ZelenskyyUa:
«Відверта розмова з американським телеканалом CBS про страшні воєнні злочини окупантів, необхідність покарання для російських військових командирів та про те, чому їхні дії в Україні – це геноцид» ➡️ https://t.co/smUQHsaWAh pic.twitter.com/6p67H5h5SX— Defence of Ukraine (@DefenceU) April 3, 2022
松田公太氏「ジェノサイド条約批准を」
日本でも虐殺現場の映像を見た人の衝撃は大きく、国民民主党の玉木代表は次のようにツイートし、ロシア軍の行為が「ジェノサイドともいうべき蛮行」と断罪した。
キーウ近郊のブッチャでは殺害された市民の遺体が路上に散乱し目を覆う惨状が広がっている。しかもロシア軍は敗走時に遺体にまで地雷を設置しているという。許し難い戦争犯罪、ジェノサイドとも言うべき蛮行だ。国際機関による調査を実施するとともにプーチンには必ず報いを受けさせなくてはならない。
キーウ近郊のブッチャでは殺害された市民の遺体が路上に散乱し目を覆う惨状が広がっている。しかもロシア軍は敗走時に遺体にまで地雷を設置しているという。許し難い戦争犯罪、ジェノサイドとも言うべき蛮行だ。国際機関による調査を実施するとともにプーチンには必ず報いを受けさせなくてはならない。
— 玉木雄一郎(国民民主党代表) (@tamakiyuichiro) April 3, 2022
国際法学が専門の立命館大学准教授の越智萌氏は、次のようにツイートした。
キーウ近郊での虐殺はジェノサイドか。目的が恐怖支配であれば戦争犯罪+人道に対する犯罪(政策要件充足)、ウクライナ人(特定国籍)集団の実質的部分を破壊する意図があればジェノサイド(集団破壊意図要件充足)です。
キーウ近郊での虐殺はジェノサイドか。目的が恐怖支配であれば戦争犯罪+人道に対する犯罪(政策要件充足)、ウクライナ人(特定国籍)集団の実質的部分を破壊する意図があればジェノサイド(集団破壊意図要件充足)です。
— Megumi Ochi 越智 萌 (@ochimegumi) April 4, 2022
また、ジェノサイド条約についてツイートするユーザーも少なくなかった。元参議院議員でタリーズコーヒージャパン創業者の松田公太氏は次のようにツイートし、日本政府にジェノサイド条約の批准を求めた。
日本のマスコミは死体の画像や動画を流さないが世界のメデイアで確認すると悲惨な状況が分かる。プーチンは絶対許せない。しかし日本は未だにジェノサイド条約に加盟も批准もせず。ウイグルでも動かなかった国会議員たちには目を覚まして条約批准を進めてくれ。
日本のマスコミは死体の画像や動画を流さないが世界のメデイアで確認すると悲惨な状況が分かる。
プーチンは絶対許せない。
しかし日本は未だにジェノサイド条約に加盟も批准もせず。
ウイグルでも動かなかった国会議員たちには目を覚まして条約批准を進めてくれジェノサイドhttps://t.co/fFqJlycw3i
— 松田公太 (@matsudakouta) April 4, 2022
ジェノサイド条約、日本が批准しない理由は?
ジェノサイド条約とは、国籍、人種、民族、宗教上の集団を殺害し迫害する行為を防止する条約で、1948年12月の国連総会で採択された。ナチス・ドイツが起こしたユダヤ人の大量殺戮、ホロコーストを二度と繰り返さないという、国際社会の強い決意のもとに生まれた条約で、日本を除く先進7カ国(G7)はもちろん、中国も北朝鮮も批准している。
2019年時点で、150以上の国々が批准しており、批准していないのはアフリカや東南アジア諸国の一部、それに日本だ。日本が、ジェノサイド条約を批准していない理由は何なのだろうか。
日本がジェノサイド条約を批准していない大きな理由は、国内法が整備されていないことにある。ジェノサイド条約を締結した国は、違反した者を罰則する法律などを作り、ジェノサイド犯罪を防止し、処罰するための手段を取らなければならない。
しかし、日本では条約に対応し得る法律が整っていない。対応するためには、刑法などさまざまな関連法の改正が必要になる。さらに、ジェノサイド条約は集団殺害の実行だけではなく、共謀や扇動も処罰対象となるが、日本にはこれらに対応する法律もない。
加えて、日本がジェノサイド条約批准に消極的な理由として、歴史的経緯もあると考えられている。たとえば、昨年、イギリスでは中国政府によるウイグル族弾圧をジェノサイドと認定した。フランス、カナダ、ベルギー、オランダ、チェコなどの国会でもジェノサイドに言及した決議や動議を採択している。アメリカはかねてより、中国政府がジェノサイドを行っていると批判しており、バイデン大統領は中国政府のジェノサイドと認定した「ウイグル強制労働防止法」に署名している。
日本も欧米各国と足並みをそろえる形で、ウイグル問題をジェノサイドと認定すれば、「中国が旧日本軍による南京事件もジェノサイドと言ってくるかもしれない」と懸念する政府関係者もいるのだ。
日本政府は条約批准に動き出すか
ジェノサイド条約は日本でも昨年、中国政府による新疆ウイグル自治区での人権弾圧を機に注目を浴びた。ただ、世間的な関心は高まったものの、日本政府は批准に向けた具体的な動きを見せていない。昨年1月に行われた自民党外交部会では、外務省の担当者が「日本として『ジェノサイド』とは認めていない」との認識を示していた。
今次のロシアによるウクライナ侵攻に関して、日本政府は一貫して西側諸国と足並みをそろえてきた。「ロシア軍の行為がジェノサイドである」と西側諸国に意見が一致した時、日本はどう出るだろうか。
日本のジェノサイド条約を批准するかどうか、さらに「ロシア軍の行為はジェノサイドである」との認識を示すのか、国内はもとより海外からも注目されそうだ。
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