朝日新聞が退職予定の峯村記者に停職1カ月の懲戒処分、峯村氏は徹底抗戦
安倍元首相から「記事チェック依頼」巡り紛糾朝日新聞は7日、外交や米国・中国が専門の編集委員・峯村健司記者を停職1カ月の懲戒処分とすると発表した。
処分の理由は、安倍晋三元首相が週刊ダイヤモンドのインタビュー取材を受けた後、峯村記者が発売前の紙面を見せるように要求したというもの。朝日新聞は峯村記者の行為を、「報道倫理に反し、極めて不適切だと判断した」としている。峯村記者は、もともと4月20日に退社を予定していたため、実質的な停職期間は1週間ほどとなる。
朝日「極めて不適切」
朝日新聞によると、ダイヤモンド編集部が外交や安全保障に関するテーマで、3月9日に安倍氏に取材を行ったという。その後、峯村記者は取材を担当した副編集長(A記者)に「安倍(元)総理がインタビューの中身を心配されている。私が全ての顧問を引き受けている」「とりあえず、ゲラ(誌面)を見せてください」などと要求したという。
朝日新聞執行役員ゼネラルマネジャー兼東京本社編集局長の宮田喜好氏は処分にあたって、次のようなコメントを発表した。
本社は記者行動基準で「独立性や中立性に疑問を持たれるような行動はとらない」と定めています。編集委員の行為は、政治家と一体化してメディアに圧力をかけたと受け止められても仕方がなく、極めて不適切です。ダイヤモンド社と読者のみなさまに深くおわびします。取材対象との距離の取り方を誤り、読者からの信頼を揺るがす大変重い問題と受け止めています。報道倫理についての指導を改めて徹底いたします。
誤報を心配した安倍氏からチェック依頼
処分を受けた峯村記者は7日朝、「朝日新聞社による不公正な処分についての見解」と題した反論記事を自身のブログにアップ。ことの経緯や処分の不当性などを綴っている。
13日付で朝日新聞社から停職1カ月の処分を受けます。退職まで1週間を切った不当な措置で、恣意的な調査に基づく公平性に欠いたものです。今回の処分の不当性については法的にも明らかにしてまいりたいと思います。経緯と反論については以下のnoteに記させていただきました。https://t.co/a9Q0v4BKru
— 峯村 健司 / Kenji Minemura『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』重版御礼 (@kenji_minemura) April 6, 2022
峯村記者の説明によると、「私が全ての顧問を引き受けている」「とりあえず、ゲラ(誌面)を見せてください」といった発言は事実で、誤報になることを心配した安倍氏からの相談を受けてのものだったという。
安倍氏から「先ほど週刊ダイヤモンドから取材を受けた。ニュークリアシェアリング(核兵器の共有)についてのインタビューを受けたのだが、酷い事実誤認に基づく質問があり、誤報になることを心配している」と相談を受けました。
その後、峯村記者には安倍氏から「明日朝から海外出張するので、ニュークリアシェアリングの部分のファクトチェックをしてもらえるとありがたい」との依頼があったという。この依頼に、峯村記者は「とんでもない記事が出てしまっては、国民に対する重大な誤報となりますし、国際的にも日本の信用が失墜しかねない」ことを懸念し、「とりあえず、ゲラ(誌面)を見せてください」との発言になったという。「全ての顧問を引き受けている」との発言については、重大な誤報を回避するため、「安倍氏から事実確認を依頼されていることを理解してもらうためでした」と説明している。
記事はその後、安倍事務所による事実関係の確認、修正のうえ掲載に至ったという。
A氏は私にはゲラの開示等は拒みましたが、後で知ったこととしては、A記者はその後安倍氏側と事実関係の確認し、誤認を正したうえ、3月26日付けの同誌に無事に掲載されました。
峯村記者「不当性を法的に明らかに」
峯村記者によると、処罰通知書には「特定の個人や勢力のために取材・報道をしない」「取材先と一体化することがあってはならない」という朝日新聞記者行動基準に抵触した旨の処分理由が記載されていたという。
これについて、峯村記者は次のように反論している。
私は今日に至るまで、一回も、安倍氏に対して取材や報道はもちろん、やりとりをメモ書きにしたことすらもありません。また、私はこの時点ですでに、朝日新聞側には辞意を伝えており、将来的に取材先となる可能性もありません。
峯村記者は4月1日から、北海道大学公共政策学センター上席研究員と、青山学院大学国際政治経済学部客員教授に就任している。峯村記者によると、朝日新聞から転職先への妨害行為も行われたという。
本件処分がくだされる前にもかかわらず、私の複数の転職先に処分を事前に通告していたことが判明しています。転職妨害の強い意図を感じ、恐怖にすら思っています。
峯村記者は、「今回の処分の不当性については法的にも明らかにしてまいりたいと思っております」と綴り、今回の処分について朝日新聞と法的に争っていくことを示唆した。
峯村氏は大学卒業後の1997年、朝日新聞社に入社。大阪本社社会部、中国への留学などを経て中国特派員に。2011年にはボーン・上田記念国際記者賞を受賞し、昨年はLINEの情報管理問題のスクープで新聞協会賞を受賞。朝日新聞のエース記者の一人として知られる。LINE報道以後、経済安全保障の論客としても注目度が高まった反面、左派のネット民などから“朝日のネオコン”などと揶揄されるほどの活躍を見せ、護憲リベラル路線の朝日の論調との乖離を指摘する声も少なくなかった。
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