佐々木朗希投手の完全試合、元ロッテ番記者としてこれだけは言いたい
もし自分の担当ゲームだったら...「快挙を超えた奇跡」に圧巻- ロッテの佐々木朗希投手の完全試合、元球団番記者の新田編集長が綴る
- 完全試合の達成者は16人目だが、平成以後は2人のみという点でも大快挙
- 「最も三振をしない打者」との対戦に集約される、佐々木朗投手の凄み
プロ野球ロッテの佐々木朗希投手の完全試合。文章を書いてメシを食う端くれとして恥ずかしいが、「すごい」「圧巻」という言葉しか思い浮かばない。
一晩で凡百のメディアが歴史的快挙をさまざまな角度から伝え、名だたるプロの解説者が鋭い視点で語りまくっている。他方、筆者は、野球の取材現場を離れて10年以上が経ち、近年は元番記者として愛着のあるロッテですら選手の顔と名前もおぼつかない。
本来なら筆者の出る幕などなく、この記事を書くべきか迷いに迷ったが、何十年に一度の大記録。元野球記者としてささやかな覚書を書くくらいは許していただきたい。
なぜ「快挙を超えた奇跡」か
最も言いたいことは、当たり前のようだが、プロ野球の打者から13人連続で三振を奪うということがどれだけすごいか。特に現代野球での達成だからなおさらだ。
今回の完全試合は1994年の巨人・槙原寛己投手以来。佐々木朗、槙原両投手を含め、完全試合の達成は16人いるが、14人は昭和の時代だ。
平成の30年間で完全試合を成し遂げたのはこの槙原さんただ1人という点からしても、データで選手の癖や弱点を丸裸にされ、打撃練習時の投球マシンの普及・進化で、150キロの直球を簡単に打ち返す高校生もいる現代野球において記録づくめの完全試合をすることが「快挙を超えた奇跡」だと言える。
また指名打者制のパ・リーグでの快挙という点も見逃せない。セ・リーグは打撃が得意でない投手も打席に立つが、そうした息をつく間が全くない。槙原さんの前に完全試合を達成したのが1978年の阪急・今井雄太郎投手で、指名打者制以後、唯一の快挙だったが以来44年間も途絶えていたのは当然だった。
「最も三振をしない打者」との対戦に集約
もし自分の番記者時代、このビッグゲームに遭遇していたらどんな風に書いただろうか。読売新聞の運動面ではその日のパ・リーグで最も注目すべき試合のハイライトは「チェンジアップ」という第2コラムにまとめる(第1コラムは、実質、巨人戦のメインコラム「BSO」)。
締め切りまで余裕があるデイゲームなら丹念に書いて1時間弱、逆に分単位で動くナイターなら最短で15分ほどで仕上げる。筆者の時代は文字数にして1000字弱、決して多くはないが、文字数を絞る分、場面描写はまさにハイライトと言えるシーンに絞り、できるだけその選手や試合全体を通じてのテーマを象徴するものを取捨選択する。
もし自分のコラムであれば、やはりオリックス吉田正尚選手との対戦シーンであろう(毎日新聞もそこに焦点を当てているようだ)。彼は「最も三振をしない打者」として知られている。そんな巧打者から3打席全て三振を奪ったのだ。
ヤフーの一球速報をみると(完全試合のスコアは初めて見た。これだけでも震える)、1打席目は3球とも外角低めに集め、最後は148キロのフォークボールで討ち取っている。この丁寧な配球をサイン通りでやり切っているだけでも、豪速球と制球難が隣り合わせの荒削りな投手とは全く違うことがわかる。
驚いたのは2打席目の配球だ。最初の2球立て続けにカーブでカウントを稼ぐ意表を突き、最後の4球目は外角のフォークボールで空振りに仕留めた。吉田選手はおそらく早いカウントの速球を待ち構えていたはずで主導権を全く渡さなかったことが見て取れる。緩急自在とはいうのは容易いが、日本を代表する巧打者の意表を突こうとする度胸には敬服しかない(さすが谷繁元信さんも指摘されていた)。3打席目は一転してスピードボールを内外角に投げわけ、的を絞らせない。最後は163㌔の直球で真ん中見逃し三振。絵に描いたような組み立てだ。記事にも書きやすい。
マリンの強風が吹きつけた時…
昨日の完全試合の報道を聞いて即座に思い浮かんだのは、マリンスタジアム特有の風の影響の有無だ。投手にとっては背中方向、バックスクリーン側から時に10㍍を超える海風が吹き付け、これがバックネットに跳ね返ることで投手の投げたボールにブレーキがかかり、変化球が恐ろしく曲がる効果があると言われる。そんな強風がグラウンドに吹き付ける際にはマウンド上に立つのもやっとと話す投手は何人もいた。
佐々木朗投手が昨日打ち立てた記録の一つ、1試合19奪三振は1995年、この球場で記録したオリックス野田浩司投手に並ぶスコアだが、野田投手が27年間並ばれなかった好記録を打ち立てられたのは、風の影響だ。しかし昨日は、ツイッターのロッテファンらの投稿によれば風速は5㍍程度だったというから、少なくとも異常な状態のマウンドではない。この点からしても佐々木朗投手は、まさに自らの球威だけで大記録を打ち立てたわけだが、先述した吉田選手との対戦シーンを振り返るだけでも風は無用だった。
裏を返せば、今後強風が吹き付けた時に佐々木朗投手のフォークボールがどういう威力を発揮するのか。末恐ろしいまでの楽しみが残っている。
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