スタートアップ経営者もわかってない!「優先株」ってなに?
“上場請負人”が基礎から解説、やり方次第で経営者にもメリット- スタートアップが資金調達時に発行する「優先株式」とは何か?
- 経営の自由度が確保などのメリット、実務が複雑になるデメリット
- 設計次第で投資家だけでなく創業者も利点、そのためには?
スタートアップでは、資金調達に際して「優先株式」を発行することが多々あります。では「優先株式」とは具体的にどのような株式なのでしょうか。今回はスタートアップで多用されている「優先株式」について解説していきます。
「優先株式」は、会社が発行する株式の一種です。剰余金の配当や残余財産の分配を、「普通株式」よりも優先して受けられるなどの特殊条項がついている株式のことを指します。
スタートアップの創業者が普通株式を持ち、投資家が優先株式を持つ場合、投資家側は投資に対してより大きなリターンを受けられる可能性が高まります。このことからも、優先株式に投資家の投資を促進する効果があることは直感的にもわかります。
創業者にもメリットあり
スタートアップの創業者としては、「あえて優先株式を用いなくとも事業の成長に必要なファイナンスができる」「普通株式で増資するほうがシンプルでわかりやすい」と考えるかもしれません。しかし優先株式は、設計次第で投資家だけでなく、スタートアップの創業者側もメリットを享受できる制度です。
例えばスタートアップの創業者側は、優先株式のバリュエーション(株価)を、普通株式より高く設定して投資家側に引き受けてもらうことが可能となります。スタートアップの赤字が先行する段階で考えると、合併等対価の優先分配権が付された優先株式の経済価値は、その権利の経済的価値の分だけ普通株式よりも高いこととなります。したがって優先株式と普通株式との間には相当の価格差が生じます。
この特性を活用することにより、普通株式で投資を受けた場合よりも、投資家の持ち株比率を低く(創業者の持ち株比率を高く)設定することができます。これにより、経営の自由度が確保しやすくなる、将来のエクイティファイナンス(新株発行による資金調達)の余力を残す、などのメリットが得られることが考えられます。このことから、資金調達の方法として優先株式の活用を検討する価値はあります。
ただ、優先株式にはいくつかのデメリットがあります。実務が複雑なこと(上記の残余財産の分配の他にも特殊な内容を定めることが少なくない)や、種類株主総会の運営が必要となること、具体的には、優先株式を発行した場合、普通株式を持っている株主による株式総会、優先株式を持っている株主による株主総会、どちらも運営が必要となることなどです。
実務をシンプルにしてメリット享受
このようなことから、優先株式については少し難しい印象を持ってしまう経営者は多いかもしれません。それでも、実務をシンプルにして、種類株主総会の運営を簡素化することは工夫次第で可能です。
まず優先株式の設計についてですが、これまでもスタートアップに対する投資として優先株式を用いた事例は多数あります。こうした事例から、優先株式の設計について標準化、類型化することで、わかりやすくできる部分もあるでしょう。
次に種類株主総会の運営が煩雑な件ですが、これは確かにそのとおりで、諸々の会社の意思決定に際しては注意が必要です。一方で、種類株主総会の決議が必要な場合は、会社法上でかなり明確化されています。「いつ、どのような決議をすればよいか予測できない」というものではありません。
また、定款、投資家との株主間契約の工夫などで運営を簡素化する方法もあります。具体的なケースにもよりますが、こうした運営の簡素化は、スピード感を持って会社運営、意思決定することにつながり、スタートアップの創業者にとっても投資家にとってもメリットがあります。このようなことを踏まえれば、優先株式には一考の価値があります。
【図表2-1】優先株式の特殊条項の種類と特徴
優先株に関しては、シリーズA、B、C……と数回の資金調達を実行するにあたって、A種、B種、C種……と各シリーズの株主属性やその要望を踏まえ、タームシートを作成し投資契約書を締結します。
特殊条項の内容については、取締役の選解任、オブサーバー出席の権利、事前承諾事項、CVCや事業会社であれば事業連携に関する取り組み、ラチェット、アーンアウトなどがあります。
特殊条項は投資家、起業家双方にとって非常に神経を使うところで、何を優先するかについては非常に難しいところがあります。特殊条項の交渉における妥協点を図るために下記の表を使用するのも一つかと思います。
【図表2-2】タームシートの交渉シート例
この表では、特殊条項の各条項について5段階の点数で評価します。現在の相場平均と想定するレベルを3とし、1は投資家に有利、5は起業家に有利という点数付けです。加えて、各条項における自社にとっての重要度を5段階(5のほうが重要)で点数付けします。
投資家と交渉した結果、各条項が1から5のどの点数になったかを付けて、その点数に重要度の点数を乗じて、交渉結果の最終的な点数を算出します。表のケースでは、最終的な点数の合計は75点となりました。すべてが相場レベル(平均点)の3となった場合の合計は69点ですから、ここでは交渉の結果から相場平均を上回る点数で着地できたことになり、納得したかたちで落ち着いたといえます。
このように、なんとなくの感覚で妥協点を探るのではなく、定量的に計って優先すべき事項を常に抑えた上で妥協点を探していくことも検討してみてよいかもしれません。
優先株式を活用した成功事例がどんどん出てきて、より大きなチャレンジをするスタートアップが増えて欲しいと思います。
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