タカられる日本企業…途上国の贈収賄リスクに国策として対処を

なぜ贈賄要求が続くのか
2021年05月26日 06:00
ジャーナリスト
  • 日本企業の世界各地の公共インフラ輸出は目を見張るが、途上国では贈収賄リスク
  • 贈収賄の増加を受けてOECDは防止条約を締結。しかし、ずる賢く要求は続いている
  • いまなお贈賄リスクが高い国の受注もある。国際間の贈賄防止の強化・監視を国策で

日本企業の海外展開リスクでつきまとうのが進出先の政治家、公務員による賄賂の要求だ。国内外のコンプライアンス、法的な制度の整備がなされてはいるが、いまなお油断は禁物だ。世界各地の汚職撲滅へ活動する国際NGO、トランスペアレンシー・インターナショナルの日本支部代表でもある若林亜紀氏が最新のニュースを踏まえて警鐘を鳴らす。

Atstock Productions/iStock

海外に行くと、現地の鉄道や地下鉄に日本の最新式の車両が走っていることに驚くことがあります。アジアや南米で庶民の台所である食品市場を歩いていても、日本の技術とODAで作られたことが示されたレリーフが飾られていたりします。上下水道も同様です。わたしは国際NGOの日本代表として、これまで世界各地の会議に出席してきましたが、折々にこうした日本企業の海外進出ぶりを垣間見ることが多くなりました。

日本企業の海外進出は、トヨタの車や電気製品だけにとどまりません。鉄道、電力ガス水道事業の運営、住宅建設や融資など、公共インフラ分野においても日本の技術が世界に輸出されています。これは日本政府が安倍政権時代に「インフラの海外輸出」に力を入れることを打ち出した影響もあり、一層加速しているようです。この春には、イタリア鉄道を日立が受注したニュースもありました。

もはや“必要経費”でなくなった賄賂

しかし、海外でもとくに途上国における公共インフラの受注には、多大なる注意が必要です。なぜならその発注者とは、現地国の政府や地方の役所の役人だからです。多くの場合、相手国の役人側が、受注企業に対してしつこく、ずる賢く賄賂を要求してくるからです。

そのため、日本企業が賄賂にまきこまれる率が高くなります。実際に、日本のメーカーや商社では、毎年のように贈賄が明るみに出て、最終的に数百憶円単位の巨額の賠償を払わせられているのです。

日本で“賄賂”といえば、不正な受注で利益を得たい業者側が積極的にけしかけるもの(アクティブ・ブライバリー)というイメージがあります。ところが、先進国が途上国で事業展開する場合においては事情が違います。

外国の公務員から賄賂を要求され、それを拒否すれば、受注そのものがキャンセルされたり、通関や許認可といった行政手続きを止められて嫌がらせをされます 。そのため、日本の企業は仕方なく賄賂を払わされるという構図(パッシブ・ブライバリー)になっているのです。そもそも、日本企業が受注を受けられるのは、賄賂のおかげではありません。日本企業の技術力や運営の安全性と安定性への信頼が、競争力をもっているためです。日本のODA(政府開発援助)という資金の後ろ盾がある場合もありますが。

こうした途上国での賄賂要求に応えることは、十数年前までは現地国の社会慣習のひとつとして一種の”必要経費”のように見なされてきました。けれども、結果として、賄賂の額があまりに巨額になってきたために、先進国がODAを通して途上国に援助しても、その大部分が現地の公務員への賄賂として中抜きされていたり、途上国の政治腐敗を増長している実態が明らかになってきたのです。

賄賂対策、先進国企業の共通課題に

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これではいけないと、先進国が団結してお互いに途上国ビジネスで賄賂を払わない、拒否するという条約を作りました。1997年に採択された、OECD外国公務員贈賄防止条約です。OECDの加盟国以外も積極的に参加し、現在43か国が締結しています。日本は条約締結に合わせ、不正競争防止法を改正し、外国公務員贈賄罪として罰するようになったのです。

それでも、途上国の公務員は依然として賄賂を要求し続けてきます。しかし、先進国の方では賄賂は違法行為となったために、日本企業含め先進国の大手企業が、賄賂に応じたことで罰せられるという事態が続いています。そのため、いかに賄賂要求をかわしながら、途上国でビジネスを進めるかが、先進国企業の目下の課題なのです。

問題は、途上国ビジネスで競争相手として力をつけてきた中国など、ビジネス的には新興の国がOECD条約を結んでいないことにもあります。また、この条約を結んでいる国であっても、法があるからといって必ず守るとは限りません。日本を含む先進国は、先日のG7の場などでも国際的な贈賄やマネロンを減らすための取り組みを進めようとはしているのですが…。

5月、日本政府はインドネシアと艦艇共同開発の受注を目指すと発表しました。インドネシア軍が公開した入札案件ですが、今回においても大きな贈賄リスクが見込まれることでしょう。なぜなら、このインドネシアという国では、過去にも日本のJR系コンサル企業が鉄道事業を受注する際に、技術入札で1位だったのに実務を進めるにあたり、贈賄事件にまきこまれた過去があるからです。

熾烈な受注競争に潜むリスク

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インドネシア艦艇の受注競争をめぐって、日本のライバルとなるのはトルコ・イタリアです。ところが、トルコはOECD条約を結んではいるものの、贈賄リスクの高い国です。2018年には、パナソニックのアメリカ子会社がアメリカの司法当局から海外贈賄罪で300億円にのぼる制裁金を課された事件がありましたが、この主舞台もトルコであるといわれています。

当局と同社は、“中東での贈賄”とだけ明かし国名は非公表にしてはいますが、航空機内のエンタテイメントシステム世界最大手である同社が、トルコを含む中東の複数国への売込みに際して、相手国の公務員からの贈賄要求に応じたことが、すでに明るみとなっています。また、インドネシア艦艇開発のもうひとつのライバル国であるイタリアの陰にも、防衛戦略の観点から日本の受注を望まない中国がいることも報じられています。

繰り返しますが、いかに賄賂要求をかわしながらビジネスを進めるかが、途上国における先進国企業の課題となっているのです。資本や技術力に勝る日本は、国際間の贈賄防止の強化・監視といった、国際的なガバナンスの浸透に国策として力を入れることは、間接的なかたちで日本の優秀な頭脳や豊かな資本の活用を促すことに通じるのではないでしょうか。

 

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