なぜデータがない大昔の気候もわかるの?「年輪幅」研究の大進化
坂田薫『コテコテ文系も楽しく学ぼう!化学教室』第2回- 樹木の年輪幅からわかることは?変動パターンからデータのない時代の復元も
- 年輪に含まれる同位体を調べることでわかるようになった画期的な研究とは
- 降水量データと歴史学の連動も。気候変動に強い社会システム構築をめざす
先週末、西日本を中心に梅雨入りしましたね。今年は平年より大幅に早く、近畿は統計史上最も早いとか。これから台風シーズンにかけて、大雨に警戒が必要です。特に2019年と2020年は、台風や豪雨など数多くの災害に見舞われました。「自然を目の前にすると人間は無力だ」「私たちにできることは備えしかない」と実感した人も多かったのではないでしょうか。
そんな中、ひっそりと自然が残してくれたものがありました。2020年7月豪雨で倒れた樹齢1200〜1300年と伝えられている大杉です。この大杉から過去1000年分の気象データがわかるといいます。自然が残してくれた過去の情報を、人間はどのようにして読み取り、何に活かしていくのでしょうか。
樹木の年輪幅からわかること
まず、樹木の年輪は1年に一つずつ増えていくため、年輪を数えることで、その樹木の樹齢がわかります。そして、もう一つ。年輪の幅からその年の気候がわかります。気温が高い年は年輪幅が広く、気温の低い年は年輪幅が狭くなるといった具合です。

実際に、過去50年分の年輪幅の年変動と気温の年変動を照らし合わせると、両者の変動パターンがほぼ同じであったという結果が得られました。これはすなわち、年輪幅の変動を調べれば、データの残っていない時代の気候も復元できるということです。復元したデータは、未来の環境変化を予想するうえで非常に重要なものになります。
しかし「研究対象になる樹木が非常に限られていること」そして「年輪幅の変動パターンが樹種ごとに異なること」から、年輪幅の変動に関する研究は困難を抱えた状態でした。
ところが、21世紀に入り、年輪に含まれる「同位体」を調べることで、どんな環境のどんな種類の樹木からも共通した気象データを抽出できるようになったのです。
同位体からの降水量復元
同位体とは、一言でいうと「同じ元素で重さが異なるもの」です。たとえば、「酸素(元素記号はO)」には重さを表す数値が16のものと18のものがあり、それぞれ「酸素16」「酸素18」といいます。そしてこの2つを、酸素の同位体とよびます。これにより、酸素Oと水素Hから構成されている水(H2O)にも、重さの異なる2つが考えられます。「酸素16」で構成される「比べて軽い水」と、「酸素18」で構成される「比べて重い水」です。
樹木は根や葉から、これら水(「比べて軽い水」や「比べて重い水」)を取り込み、光合成を経て、最終的に主成分の「セルロース」という物質を作り成長していきます。年輪も、このセルロースからできています。よって、取り込んだ水に含まれている酸素(「酸素16」・「酸素18」)が、年輪にも同じ割合で含まれることになります。
たとえば、雨の少ない年は空気が乾燥しているので、葉から水が蒸発しやすくなります。このとき、「比べて軽い水」のほうが蒸発して出ていきやすいため、葉に残る「比べて重い水」の割合が高くなります。すなわち、その年の年輪に含まれる「酸素18」の割合も高いのです。

このように、年輪に含まれている酸素の同位体の比率を調べ、「酸素18」の割合が高いと雨が少なかった年、「酸素18」の割合が低いと雨が多かった年だとわかります。この方法は、特に光合成が盛んな夏の降水量を高精度で復元することが可能です。
日本ではこの研究が世界で飛び抜けて進んでおり、日本全体では約4000年から5000年前までの降水量の変動が連続したデータになりつつあります。
気候変動で政変の歴史がわかる!?
この研究は「気候変動を調べ、今後の気候を予想する」だけでは終わりません。
得られた過去4000年以上の連続した降水量のデータを歴史学と連動させるのです。その結果、降水量のデータは文献史料にある洪水や干ばつの記録と一致しており、その都度、政治体制の転換が起きていることがわかったのです。
大きな気候変動が起きたとき、日本社会がどう混乱し人々がどう対応したのか。それが成功したのか、失敗したのか。そして、成功したのはどんなコミュニティーだったのか。
歴史学と連携し、それらを解き明かすことで、気候変動に強い社会システムを見つけることを目標に研究が進められています。
現在、私たちは、コロナウイルス、原発の問題や環境問題に直面しています。きっと「これらに対してどう対応すればいいのか」のヒントは過去の歴史のなかにあり、「これらに対してどう対応したのか」は、未来の人々の大きなヒントになるはずです。
関連記事
編集部おすすめ
ランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
ホテルニューオータニ、文春報道での機密漏洩疑いに「誰一人としてあり得ない」
まさかの「岸田減税」あるか?田崎史郎氏が“爆弾発言”、木原誠二氏「やりゃいいんだよ」
安芸高田市長にヤッシーが喝!田中康夫氏「やり方が下手っぴ。頭でっかちな偏差値坊や」
「見込み捜査中」に過ぎないのに、木原官房副長官の妻を“殺人犯扱い”する文春砲と報道関係者は大丈夫か
週刊文春に木原氏の様子を「ホテル関係者」がペラペラ、ニューオータニは大丈夫か?
忖度?火消し?トヨタの自動運転車の事故報道、ネットで疑問視
NHK党の立花党首に執行猶予付きの有罪判決、選挙には「もう出ない」と昨年言っていたが…
「母乳育児支援」のリアル、真に足りないのは母乳より科学的アプローチ
参院選比例個人票、東京・港区ではガーシー氏が“トップ当選”で話題に
ハリケーン直撃のアメリカ・フロリダ州でEV火災が続発、消火には特別な訓練必要
安芸高田市長にヤッシーが喝!田中康夫氏「やり方が下手っぴ。頭でっかちな偏差値坊や」
週刊文春に木原氏の様子を「ホテル関係者」がペラペラ、ニューオータニは大丈夫か?
ホテルニューオータニ、文春報道での機密漏洩疑いに「誰一人としてあり得ない」
「見込み捜査中」に過ぎないのに、木原官房副長官の妻を“殺人犯扱い”する文春砲と報道関係者は大丈夫か
まさかの「岸田減税」あるか?田崎史郎氏が“爆弾発言”、木原誠二氏「やりゃいいんだよ」
池下議員はダメだけど、毎日新聞は政界の超ヤバい人手不足も指摘すべきだ
政府の少子化対策財源確保、つるの剛士さん「一時的な再分配支援よりも…」
ビットコインの生みの親、サトシ・ナカモトの正体がついに判明 !?
KADOKAWA元専務ら逮捕で再注目、川上量生氏の東京オリンピック関連での“古傷”
資産運用特区、ライドシェア…岸田再改造内閣、改革“やってる感”を払拭できるか
みんながモヤモヤ、慶応高の甲子園応援騒動、その“違和感”の正体
安芸高田市長にヤッシーが喝!田中康夫氏「やり方が下手っぴ。頭でっかちな偏差値坊や」
女性市議の発言順抽選「子連れ参加NG」、報道されないウラに何が?
「見込み捜査中」に過ぎないのに、木原官房副長官の妻を“殺人犯扱い”する文春砲と報道関係者は大丈夫か
ジャニーズ記者会見「司会」で注目、FTIコンサルティングって何者だ?
東京・港区が全区立中学で海外修学旅行、「世紀の大盤振る舞い」なぜ起きた?
ジャニーズ記者会見へ、憂慮される「茶番」と「待った」をかける記者は誰か
楽天・三木谷氏「NTTをそのまま完全民営化、あり得ない」。田端信太郎氏から痛いツッコミも
週刊文春に木原氏の様子を「ホテル関係者」がペラペラ、ニューオータニは大丈夫か?
60年ぶり百貨店ストライキの本質、「そごう・西武」紛糾劇に見る日本の“お気持ち資本主義”
特集アーカイブ
人気コメント記事ランキング
- 週間
- 月間