陰謀論者はたった6%?米議会襲撃犯プロファイリング、衝撃の調査結果
逮捕者の50%近くが裕福層- 米議会襲撃事件について「Qアノン」などの陰謀論者たちを中心に語られてきた
- 事件の逮捕者400人の背景をシカゴ大学が調査。一般的な認識と異なる結果に
- 裕福層が50%近く、極右関係10%程度、Qアノン信者6%…8つの特徴が浮き彫り
(編集部より)今年1月に起きた米議会議事堂襲撃事件は、ドナルド・トランプ大統領(当時)を支持する人たち、それも「陰の政府がトランプの再選を阻んだ」などとする陰謀論の信者もいたのではないかという話が報じられました。ところがその後、アメリカの大学で行われた調査で、襲撃した人々の「意外な横顔」が見えてきたと言います。地政学・戦略学者の奥山真司氏さんがその調査内容を紹介します。(2回連載)

米議会襲撃「国内テロ犯」の素顔とは
「アメリカは内戦の危機にあるのではないか」――アメリカの首都・ワシントンDCで起きた「米議会議事堂襲撃事件」は、そんな危惧すら覚えさせるショッキングなものだった。だが、その襲撃犯の実態は、この危惧が決して杞憂ではないことを知らせるものでもある。
2021年1月6日、ワシントンDCの連邦議事堂を800名ほどのトランプ支持者らが襲撃。前年の大統領選挙の各州の選挙人の投票の結果を認定し、大統領選に勝利したジョー・バイデンの次期大統領就任を正式に確定する作業を一時停止させた事件だ。
実際の襲撃メンバーの中には陰謀論者だけでなく、現役の警察官や軍人たちがいたこともあって、民主主義の平和的な権力移行が妨げられた一種の「国内テロ事件」と見られている。そのため、連邦捜査局(FBI)や首都警察も本腰を入れて、襲撃したメンバーを続々と逮捕している。
この事件はいわゆる「Qアノン」と言われる陰謀論者たちを中心に語られることが多い。そのため、事件後はアメリカだけでなく日本の新聞や雑誌でも「陰謀論」を信じる人々や、それがもたらす負の影響が取りざたされた。だが、実際の「襲撃犯」像は、こうしたイメージとは異なっている。のちに詳しく説明するが、なんと襲撃犯のうち、「Qアノン」信者はわずか6%に過ぎないという調査結果が出ているのだ。

一般的な認識を覆す調査結果
日本ではこの逮捕者に関するニュースはほとんど報道されていないが、アメリカの名門であるシカゴ大学が逮捕者たちの詳細な身元調査(プロファイリング)を行っている。調査プロジェクト(Chicago Project on Security and Threats :CPOST)を主宰しているのは、ロバート・ペイプという学者だ。
学生を含む合計30数名の研究チームを編成し、FBIなどで公開されている起訴状を丹念に読み込むことによって、逮捕者たちの人口構成や社会的背景を検証し、その結果を大学のサイトで逐次まとめて公開している。
その結果は、一般的な認識を覆す衝撃的なものを含んでいると同時に、確かに「これはアメリカ内戦の始まりかもしれない」と予感させるものでもあったのである。早速調査結果を紹介しよう。
襲撃メンバーの特性、8つの傾向
執筆時点(2021年5月14日)では、襲撃して逮捕・起訴された人間は、合計400名以上にのぼっている。これまでに判明している襲撃メンバーの傾向は、具体的に以下の8点にまとめられるという(参考)。すべての傾向を挙げたうえで、前半ではまず1~5の5つの特徴について具体的に見ていきたい。
1・逮捕者の90%程度が白人男性である
2・逮捕者の70%以上が中年以上
3・逮捕者の50%近くが弁護士や企業幹部などの裕福層
4・ミリシア(自警団)や極右団体関係者は10%程度
5・Qアノン信者はわずか6%
6・参加したきっかけは「トランプの呼びかけ」に応じた人がほとんど
7・民主党が強い選挙区に住むトランプ支持者が50%以上
8・彼らを駆り立てたのは「白人の権利が奪われる」という恐怖心
(1)襲撃したのはほとんどが「白人」の「男性」である。
これはある程度は予想されていたものだ。というのも、当日の事件で報道された動画などを見ても、いくつかの例外を除けば、そのほとんどが白人男性であったことは誰の目にも明らかであったからだ。
近年アメリカで逮捕された極右主義者たちを見ても、そのほとんどが白人(94%)の男性(94%)によるものであることが判明している。
ペイプの調査チームによれば、今回の事件で逮捕・起訴されている人々のデータもそれとほとんど変わらず、白人は93%、男性は86%であるという結果が出ている。
これだけみると襲撃した人々は「トランプを支持する貧乏な極右の過激派」という印象が強いが、その次がやや意外だ。
(2)3分の2以上が34歳以上の中年である
ペイプ自身もメディアで語っていたが、ここが実に驚くべき部分だ。議事堂を襲撃していた逮捕・起訴された人々は、なんと7割近く(67%)が34歳以上だというのだ。
これはほぼ6割(61%)が35歳以下の若くて血気さかんな極右の逮捕者たちとは大きく違う。
そしてこれは次の意外な事実とつながってくる。
(3)富裕層が多い
驚くことに、逮捕者の47%がビジネス・オーナーや事務系労働者であり、医者、弁護士、会計士、CEO、そして大企業の専門職や中間管理職だったという。
もちろん年齢層がある程度上であれば、それなりに安定した職業についている人は多いとは予想できるが、考えてみればたしかに全米からわざわざ首都ワシントンまで来て議事堂を襲撃できるだけのフットワークの軽さがあるということは、それなりの経済基盤がないと不可能である。
(4)ミリシア・極右団体関係者は意外に少ない
上記のような裕福な中年層が中心だということがわかると、これも納得できる部分がある。逮捕された人々は日常的には普通の生活を営んでいる人々なのであり、普段から郊外の山にこもって銃の訓練をしている民間武装勢力のようなイメージはない。
ちなみにプラウド・ボーイズを筆頭とする極右団体は、逮捕者のうちのたった12%ほどでしかなかったことが判明している。つまり襲撃に参加した大多数の人々は「一般人」だったのだ。
この事実が、この調査結果において後に大きな意味をもつことになる。
(5)Qアノンの信者は少ない
連邦議事堂の襲撃事件は、アメリカの大手メディアでは陰謀論を流布する「Qアノン」が発信する言説を信じていた人々によって引き起こされたというイメージで語られることが多かったが、実際はたった逮捕者のうちのたった6%しかQアノンの言説を信じていなかったことが判明している。
これはアメリカの全人口の中でのQアノンの支持者の割合(17%)に比べても半数以下だ。「襲撃した人々は陰謀論にそそのかされて襲撃した」とは言い切れないことになる。
では彼らは、一体何をきっかけに議事堂に集まり、襲撃に加わったのか。
(後半に続く)
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