朝日や読売が反対する「給料のデジタル払い」は実現するのか?

規制改革検討プロセスで攻防戦佳境へ
SAKISIRU編集長
  • キャッシュレスが普及する中、給料のデジタル払いは認められるのか?
  • 現行制度では企業から資金移動業者への振り込みを解禁する必要
  • 政府の規制改革検討課題。経済界は期待も、労働者も難色、新聞社は…

コロナ禍を機に日本でもキャッシュレスサービスがようやく普及してきた中、給料の「デジタル払い」を認めるべきか--。

政府の規制改革推進会議のスタートアップ・イノベーションWGの会合が19日、オンラインで実施され、仮に認める場合の制度設計について討議された。

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PayPayで給料払いするには

現行制度では、給与の支払いは労働基準法で「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」(24条)と定められている。この規定では“手渡し”に限られてしまうが、現在のように金融機関の口座への振込みが普及したのは昭和40年代後半以後のこと。1968年(昭和43年)の3億円強奪事件を機に多額の現金を市中に持ち運ぶ危険性が認識されてからだった。銀行口座や証券総合口座への給与支払いは、同法で「労働者が同意した場合の例外」措置に位置付けることで認められている。

しかし、時代は昭和から平成を経て令和へ。先進国でもキャッシュレスが特に遅れていた日本でもコロナ禍の感染対策によりキャッシュレス対応が急速に進む。ソフトバンクグループのスマホ決済最大手、PayPayは、今年1月中旬に利用者数が4500万人を突破するまでになった。筆者もそうだが、ランチの際、財布を持たずに店に食べに出かけ、デジタル払いで済ます人も増えているだろう。

ただ、給料のデジタル払いは現行制度ではNGだ。PayPayやLINE Payといった資金移動業者は、先述した「労働者が同意した場合の例外」措置の対象に入っておらず、仮にこれらの業者の口座への給料払いを認めるには、労基法の施行規則の改正が必要になる。

菅政権で導入意欲も…

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労基法を所管する厚労省では2020年8月から、労働政策審議会(労政審)で議論を重ね、昨年3月からは規制改革推進会議でも検討されてきた。若い世代の利用を中心にマネーのDXは目覚ましいばかりでなく、キャッシュレスに慣れ、日本国内での銀行口座開設に時間がかかる外国人労働者の受け入れ環境整備という点からも経済界からは「給料のデジタル払い」へ解禁を求める声が強まる。

これに対し、労政審では、出席した労働者側の有識者から難色を示す声が出た。特に懸念されているのは資金移動業者が既存の銀行ほどに経営が安定しておらず、取引が安全に行われるのか疑わしいという点だ。

政府は菅政権時代の昨年6月に閣議決定した成長戦略フォローアップで、

資金移動業者が破綻した場合に十分な額が早期に労働者に支払われる保証制度等のスキームを構築しつつ、労使団体と協議の上、2021年度できるだけ早期の制度化を図る。

と今年3月までに導入への道筋をつけるつもりだった。規制改革とデジタル化に積極的な菅首相の意向をまさに反映するだが、岸田政権に交代したこともあってスピードを欠いたことは否めない。結局年度をまたぎ、賛成派と反対派の議論がいま現在も続いている。

厚労省は慎重派への配慮をにじませる形で、対象となる資金移動業者について既存の金融庁が所管する規制(1階部分)に加え、厚労省所管の労基法関連の規制(2階部分)を上乗せすることで妥結を模索する。

朝日と読売は反対で一致

マスコミの論調は反対派が優勢(?)かもしれない。朝日新聞は昨年4月10日、「デジタル払い 給与での利用は疑問だ」と題した社説を掲載。「キャッシュレス化を含め、新しいサービスが競争を通じて広がるのは望ましい」としながらも、「生活の糧である賃金をめぐって屋上屋のような制度をつくる必然性があるとは思えない」などと、厚労省による規制の上乗せを引き合いに給与の支払いは現状維持でよいとの立場だ。読者層にリベラルの労組関係者が多いことも意識しているのかもしれない。

東京・大手町の読売新聞本社(編集部撮影)

ここで面白いのは憲法や安全保障では朝日と対立する読売新聞が同調している。昨年2月27日付の社説「デジタル給与 安全性の確保に懸念がある」では、デジタル教科書の導入にも徹底抗戦してきた読売の真骨頂を発揮。資金移動業者の破綻懸念から現行の出資法の内容がそぐわないなど口実は色々あげているが、「多くの給与がデジタル払いに移行すれば、銀行の収益基盤が奪われてしまう。個人のお金を預かって企業に貸し出す『金融仲介機能』が損なわれかねない」と苦言。既存の金融プレイヤー寄りのポジションをあからさまに取り、朝日よりむしろ反対派の急先鋒ですらある。

規制改革となると、朝日や読売は消極的な姿勢で一致することが往々にしてあるが、こういう時、日本経済新聞だけはイケイケだったりする。今回も昨年2月11日付の社説で、タイトルもズバリ「給与デジタル払いを技術革新の弾みに」と後押しした。

デジタル担当相「利用者の利便性が向上」

そして、19日に行われた、規制改革推進会議のスタートアップ・イノベーションWGの会合はどうだったか。

終了後、内閣府の担当者によるレクチャーでは「新しい話はなかった」との一方で、「時間が経った議論になってきており、条件闘争のようなことになっているのだと思う」と述べるなど、落とし所を探っている段階なのだろう。

規制改革推進会議のツイッターはこの日夕方、牧島かれんデジタル担当相がWG会合の冒頭で述べた挨拶を公開。牧島担当相は「我が国のキャッシュレス決済比率は増加傾向にあり、政府としても現在の約30%から2025年までに40%、将来的には80%を目指しています」と政府目標を示した上で、「スマートフォンの決済アプリなど資金移動業者での取引額が増加している中、新たな選択肢として資金移動業者の口座への賃金支払いが認められればキャッシュレス決済の利用者の利便性が向上し、政府目標の達成にも寄与することが期待されます」と述べ、「給料のデジタル払い」解禁への意欲を改めて示した。

アメリカでは、労働者が、資金移動業者が発行する「ペイロールカード」への給与支払いを希望すれば利用できるようになっているが、日本でも「給与のデジタル払い」の選択肢ができるのか、それともまたもDXが抵抗勢力に阻害されたり、使い勝手の悪い半端な規制緩和になったりするのか。

 

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