石倉氏早期退任で炎上…異端のデジタル庁、岸田首相には「無理ゲー」だっただけ

本来なら「菅政権の申し子」、ここからどう立て直す?
SAKISIRU編集長
  • デジタル庁事務方トップの石倉氏の早期退任など同庁の迷走が話題
  • そもそも抜本的な省庁再編でやるべき。もともと現体制は「無理ゲー」
  • 「前代未聞」「縦割り」打破が設計思想。それを唱えていた大物政治家は…

デジタル庁の事務方トップ、石倉洋子デジタル監が体調不良などを理由に就任から半年余りで退任することが明らかになり、今週末のネットでは呆れ気味の話題になっている。

昨年9月、デジタル庁が発足式で記念撮影した石倉氏(左)と平井デジタル相(当時)=デジタル庁サイトより

石倉氏退任の動きは、産経新聞が23日未明、特ダネで報じたのが先駆けだった。産経のネットニュースは保守層が多くフォローしている。瞬く間に拡散し、一夜明けてから報道各社も追随。フジテレビによると、石倉氏の後任には、東芝出身で、デジタル庁のCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)を務めている浅沼尚氏が内部昇格する見通しという。

口火を切ったのは産経だったが、この週は日本経済新聞が石倉氏の“外堀”を埋めるかのように、18日(月)から4日連続の「もがくデジタル庁」と題した集中連載を掲載し、その迷走ぶりを炙り出し、筆者の知己を含め、デジタル政策に詳しい人たちの間で「それ見たことか」と言わんばかりの話題になっていた。

ネットで著名なある経済評論家が「デジタル庁なんて役所もいらない。こんな役所があること自体が恥ずかしい」と全否定していたような向きもあるが、さすがに言い過ぎだろう。新型コロナで浮き彫りになった我が国の行政機構のDX遅れを考えると、このタイミングで手当てをしなければ尚更、平成で改造できなかった昭和型システムをこのまま令和に持ち込んでいくのはごめん被りたい。

「もっと大きな絵を描く」萩生田発言の意義

行政機構の中に、デジタル化の旗振り役となる部門を設けること自体は、他国にもある。きょう大統領選の決選投票を迎えるフランスでもオランド政権時代の2014〜17年、経済・産業・デジタル化省が置かれていた。日本では、財政を預かる財務省と経済政策を束ねる経産省が成り立ちから別々だったのと違い、フランスは財政と経済政策が一体化しており、そこにデジタル化の司令塔機能をつけた形だ。

一連の迷走劇は、日経の連載でも紹介されているように、今年1月の萩生田経産相のある記者会見での発言で兆しは出ていた。

デジタル庁がもっと大きな絵を描いてくれるかなという気持ちもあったが、今のところそういう動きもない」。

これは萩生田氏の個人的な意地悪ではもちろんなくて、発足から数か月様子見していた経産省内の空気と本音を表したと見ていい。経産省はすでに「デジタル日本改造ロードマップ」を策定に取り掛かっていた。これを役所同士の主導権争いと見るのはたやすいが、もう少し俯瞰的に見てみるといまの永田町・霞が関の構造では、経産省がそうした苛立ちや思考回路に陥るのは必然だとわかる。

具体的に言えば、実は日本でも安倍政権時代の2018年、先述したフランス型に近い構想が経団連から出されている。いま思えば、さすがに民間企業はコロナ禍前から「変われない日本」のDXの遅れに危機意識を抱いていた。「デジタルエコノミー推進に向けた統合的な国際戦略の確立を」と題した提言の中で、「情報経済社会省(デジタル省)への統合」を提起しているのだ。

この構想を再び眺めると、その後に実現したデジタル庁とは設計思想から違うことが一目瞭然だ。経団連は当時提言の中で「情報・デジタル関連分野を扱う組織が各府省に散在しており、それぞれの根拠法令に基づき戦略が策定されていることにある。急速に進んだデジタル化によって分野の垣根がなくなりつつある」と指摘しており、内閣官房のIT総合戦略室から総務省、経産省、文科省などそれぞれが所管するデジタル分野を一元統合するというものだ。本来ならこのような「21世紀の省庁大再編」を行って、厚労省の業務整理と共に、社会のデジタル化に対応した組織再編を抜本的に行うのが筋だった。

経団連提言より

もちろん、これほどの抜本的な省庁再編などをやれば、政治家も巻き込んだ省庁間の虚々実々の駆け引き、不毛な暗闘も含めて、10年がかりの迷走もコストに織り込まねばならない。コロナ禍でワクチン対応を始め、まず目先のことをやらなければならなかったことを考えると、まずはデジタル庁を司令塔的に足元の役所のDX化から進めていかざるを得なかった。

「前代未聞」「縦割り」打破が設計思想

そして、そうなると既存の省庁の機能を横串しにしてできるところからどんどんDXしていくという流れだが、フランスや経団連が示した抜本的なモデルチェンジである「デジタル省」ではなく、小が大を揺さぶって成果を出していく「デジタル庁」というアプローチは必然的に「前代未聞」と「縦割り」というおなじみの霞が関慣習にぶつかってしまうわけだ。

「前代未聞」と「縦割り」の打破。筆者は2か月前、これをライフワークとして述べていた政治家と対談している。そう菅義偉前首相だ。

関連記事:「主導」〜 菅義偉「前例主義と縦割りを打ち破る」

結局、「デジタル庁」を橋頭堡にしてもろもろの難事をぶち破っていくのは、時には強権と批判されるほどの菅政治のトップダウン手法が発揮されて初めて求心力が生まれる“設計思想”になっているわけだ。ワクチンの大規模摂取で「前代未聞」と「縦割り」を打破できたのは、官僚に毛嫌いされてでも突破した河野太郎ワクチン相(当時)の存在と、官邸主導の全面バックアップがあったからだ。どうも岸田政権になってからは、ワクチン以上に厄介な行政機構のDX化をするには迫力が物足りないように映る。

“不幸中の幸い”にして、デジタル庁を担当する政務三役(牧島かれん大臣、小林史明副大臣、山田太郎政務官)はいまの自民党の中でも、ネットに通じ、マネジメント力を含めて最適任と言える人材だろう。しかしこの3人を持ってしても難渋するあたり、そもそもの「無理ゲー」になっており、やるならやるで強力なリーダーシップとトップダウンが不可欠になっている。

総裁選で争った菅氏や河野氏をこの分野で岸田首相が重用するのは全くもって本意ではないだろうが、権限の組み替えも含めて、それくらいの大胆な打ち手をしなければ、この無理ゲーはますます隘路になるのではないか。石倉氏の後任の浅沼氏は実務に長けているようなので、まずは現場レベルから始まる「仕切り直し」に期待したい。

 
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