牛丼大手Y社炎上:ジェンダー差別にこだわって見落とす「本質的な邪悪さ」

“キムシャブ発言”で露呈した「タブー」とは?
朝日新聞創業家
  • 牛丼大手Y社の炎上騒動を、村山氏が独自の目線で斬る
  • 「女性差別というよりむしろ地方差別」?浮き彫りになったタブーとは
  • 今回の問題発言がジェンダー的批判で燃えたことで、本質的な邪悪さを隠避

少子化対策の記事を準備していたのですが、とんでもないニュースが飛び込んできました。早大の社会人向けセミナーで、講師として招かれていた牛丼大手Y社のマーケティング担当役員がしでかした大失言です。

winhorse /iStock

TBSニュースによりますと、I元取締役は、『若い女性をより集客するにはどうしたら良いか』との質問に『田舎から出てきた右も左もわからない若い女性を無垢・生娘なうちに牛丼中毒にする。男に高い飯を奢って貰えるようになれば絶対に食べない』と答え、『生娘をシャブ漬け戦略』と何回も繰り返したそうです(以下『キムシャブ発言』と呼びます)。一発退場というのも当然で、昭和の広告業界人が新橋のガード下で泥酔しても、もう少し上品でしょう。

けれども、問題の本質は女性差別なんでしょうか。まず、キムシャブ発言は、「田舎から都会に出てきた若い女性の大部分(少なくともマーケティング的な意味での多数)は食に関して無知だが、めでたくパパ活に成功すると一端の食通、オレンジ色の看板には寄りつかなくなる」というのですから、差別・偏見というよりは、完成度の高い妄想というべきで、もしかしたら治療の対象と考えた方が良いのかもしれません。

むしろ地方差別だったのでは?

真面目に論評するのはアホらしいというのも正論ですが、汚れ仕事大好きで「サキシルのハイエナ」を自認する私としては、見逃す訳には行きません。少し分析的に考えてみましょう。

消費者を次の4つのカテゴリーに分けます。

①  最近地方から都市に移住した若い女性
②  最近地方から都市に移住した若い男性
③  従来からの都市在住女性
④  従来からの都市在住男性

今回の「生娘をシャブ漬け戦略」のターゲットは①の層です。「他のカテゴリーのうち③の大部分には高純度のヘロインをくれるパパがいて、④はパパ本人たちだからシャブ漬けは無理」という妄想は別として、食習慣が固まっているこれらの層は、あまり良い広告のターゲットではないのでしょう。

問題は②で、これまでの事例から考えて、放っておいても一定数は習慣的に牛丼を食べるようになると思われているからではないでしょうか。もしそうなら、都会にやってきた田舎男子はオレンジ色の光に吸い寄せられ、握りしめてきた500円硬貨で食券を買って、自分から「シャブ漬け」になることを前提としていることになります。このことから「次のターゲットは地方から来た女子だ」と考えるのは、女性差別というよりむしろ、地方差別でしょう。

余談ですが、「どんなに空腹でも、ファストフードの牛丼だけは食べたくない」という人を数人知っていますが、全員が都会で一人暮らしをしている女性でした。いわく、「自分で作った方がはるかにおいしい」。彼女らは、何も知らない「生娘」でもパパ活の勝ち組でもありません。

画:いらすとや

キムシャブ発言が女性差別的なのは、女性にのみ結婚前の性体験を禁じていた(「お嫁にいけなくなる」とは言っても、「お嫁が来なくなる」とは言わなかった)30年以上前の死語「生娘」を唐突に、しかも『シャブ漬け』」というヤクザ語や、『男に高い飯』というバブル語と一緒に使った点にあるのです。

ですから、確かに穏当を欠いており多くの人を不愉快にする表現なのですが、差別の対象が不特定多数の、しかも実在すら怪しい「無知な女性たち」なのですから、これだけでレッドカードが出るほどの失言とは思えません。

けれども、キムシャブ発言には駆逐艦を撃沈する(正確には火災を発生させて沈没させる……のかな)ほど破壊力がある爆弾が2つも含まれているのです。

シャブ発言が浮き彫りにした「タブー」

まず、よりにもよって自社の主力商品を覚醒剤扱いしたことです。しかも、それが「不適切な表現」「悪ふざけ」の類いではなく、多くの人が薄々感じていたY社のタブーをあからさまにしてしまったのですから。

どんなビジネスでも、習慣的に顧客になってくれる層はありがたいものです。けれども、その強い習慣性が一般に認識されていなくて、かつ、健康上あるいは金銭的な実害があるとなると話の本質が変わってきます。わかりやすい例は麻薬(覚醒剤を含む)です。飲酒・喫煙・公営ギャンブルなどがこれに続きます。習慣性や実害が周知されることで反社会性が緩和されているので合法化されていますが、こういうのは依存症ビジネスと呼ぶべきだと思います。

ただし、どんな消費行動にも繰り返しの要素があり、スポーツや、コンサート・観劇・美術鑑賞などの文化活動でさえ、強い習慣性が指摘されています。依存症ビジネスと呼ぶべきかどうかは、本人および周囲への悪影響の程度問題でしかありません。

では、食品はどうでしょうか。生きるために必要なものでも中毒性も指摘されていることが少なくありません。たとえば、塩分や糖分(炭水化物)は必須のものでありながら、過剰摂取(つまり中毒)の問題があり、ある種の清涼飲料水やジャンクフードのメーカーが、これを積極的に利用していることは公然の秘密です。興味のある方は、次のような文献をご覧ください。

こういう微妙な状況で、「うちの牛丼はシャブだ」とマーケティング担当役員自ら宣言したのですからたまりません。会場からの質問への回答内でのことなのに、I氏は『生娘をシャブ漬け戦略』という言葉を何回も使ったそうですから、講演用のブラックなギャグではなく、Y社内ではこうした用語や依存症ビジネスの発想が、蔓延していると思われても仕方ありません。

少なくとも当分の間は、他社のものを含めて牛丼を食べる気がしなくなった常連客も多いのではないでしょうか。ケータリングなんかしようものなら「お前は『生娘』か」などと、いじられかねません。

大量破壊兵器を無力化するジェンダー論

R-DESIGN /iStock

2つ目の爆弾は、後半の「絶対に食べない」です。「あまり食べなくなる」ぐらいでも言いたいこと(依存症ビジネスの重要性)は、十分伝わるのに、ここまで断定してしまうとは、よほどI氏は自社の牛丼がお嫌いなのでしょう。下手をすると、「Y社のマーケティング担当者たちは、まずい牛丼をどうやって売るかという問題意識で日夜研究を重ねて、出した答えが依存症ビジネスなのだ」と勘ぐられかねません。もしそうなら、自社製品の公共性を全く疑わない朝日脳ビジネスより、正直という点では評価できますが……何の慰めにもならないですよね。

最後に語るに落ちる話をしておきます。もしキムシャブ発言が正しいのなら、いくらコストをかけて、誰かをシャブ漬けにしても、いずれヘロインの味を覚えて去って行くのだからあまり効率が良くないのではないでしょうか。2つの爆弾のうち後者の「絶対に食べない」の破壊力が強すぎるのです。ボソッと出た本音ほど怖いものはありません。

結局、I氏は「うちの牛丼は質の悪いシャブだ」と大きな声で言ってしまったわけです。しかも、仲間内のボヤキが漏洩したのならともかく、早大の社会人向け講座という目立つところで、よりにもよってマーケティング担当役員が、タブーの地雷を踏んでしまったのです。よって、最大の被害者は、女性でも地方出身者でもなく、Y社そのものだという結論になります。同業他社にまでトバッチリのお裾分けが行く、『風評大量破壊兵器』レベルの自爆テロです。

けれども、そこから先のY社の対応はある意味で見事でした。間髪を入れず「人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することの出来ない著しく不適任な言動があった」との見解を出し、I氏はいきなりクビ。話を個人の不見識な失言に矮小化することに成功しました。依存症ビジネスにスポットライトが当たり、「牛丼は心身を壊す食品である」とのイメージが定着するという最悪のシナリオだけは、なんとか阻止できたようです。鮮度の悪い牛肉の悪臭を紅ショウガの酸味でごまかすのと同じ手法ですね。

ジェンダー差別問題は倫理的な論点があまり整理されておらず、一般にそうした問題意識も低いので、大騒ぎされるわりには致命傷にはなりにくいという特徴があります。そのため、わざとこの点を叩かせることで、自らの本質的な邪悪さを隠避することが可能になる場合があるのです。たとえば、2018年に発覚したT医大の不正入試事件など典型だと思いますが、その話は次回以降ということにしましょう。

 

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