首里城再建の「茶番」、運営者の大掃除こそ「沖縄新時代」の幕開けだ
返還50年の分水嶺、これからの沖縄振興政策のシンボル- 岸田首相が沖縄入りし、11月に首里城再建に着工すると表明
- 火災を引き起こした県や財団の管理責任を曖昧にしたままの着工
- 国は120億もの工費を投下する以上、県への厳しい評価・注文を
沖縄県は15日、米軍統治体制から日本に返還されて50年の節目を迎えた。記念式典の前日となる14日、岸田首相は現地入りし、2019年10月に火災で焼失した首里城の現場を視察。その際、記者団に今年11月に正殿の本体工事に着工し、同月3日に起工式を行う方針を明らかにした(参照:首相官邸サイト)。

火災の責任、曖昧なままの着工
具体的な着工期日が公になるのは初めてだが、「2026年中に正殿完成」というスケジュールの大枠は、安倍政権時代末期の2020年3月の時点ですでに決定しており、いわば既定路線と言える。国や県の関係者の間ではほぼ共有され、各種の公表資料にも工程表は掲載。再建に使う木材を保管する建物の建設工事も最近始まっている。岸田首相による発表は、復帰50年の節目に合わせたセレモニーとしての色合いが強い。
この一報を聞いて「茶番」を感じずにいられない。いや、岸田首相の発表のことではない。返還50年の祝福ムード演出で煙に巻かれているが、たとえどんなに立派な建物を再建したところで、管理者や体制がずさんなままである限り、とてもではないが、我々日本国民の税金から平成期の再建工事の4倍、約120億円も投入することに強い疑念を感じる。
ここでおさらいすると、首里城は国有財産だが、2019年2月に運営・管理業務を国から沖縄県に移管し、県は指定管理者として沖縄美ら島財団(本部町)に一任。しかしわずか8か月余であの大火災となり、沖縄のシンボルが灰燼に帰した。財団に失火の管理責任、県に財団の監督責任があるのは間違いない。ところが沖縄県警も那覇市消防局も出火原因が特定できず、県も財団も処分者を出すこともなく、全て責任を曖昧にしきっている。
沖縄の「失われた4年間」象徴
これに業を煮やした8人の県民が「首里城火災の管理責任を問う沖縄県民の会」を結成。県に住民監査請求を行なって、これが却下されると、昨年8月、「沖縄県が、発災責任を負う指定管理者・美ら島財団に、約2億円の損害賠償を請求しないのは違法」として、改めて財団と県を那覇地裁に住民訴訟を起こした、提訴時の詳しい経緯は、篠原章氏の記事を参照いただきたいが、初期消火等の適切な対応をとれなかったことなど原告団が理由にあげる問題点は多々ある。市民が県や財団の「無責任体質」を糾弾するのは全くもって当然だ。
行政トップに火災の責任を全て押し付ける気はないが、事後の究明や責任を取らせるリーダーシップの欠如という点では、玉城デニー知事の「失政」には違いない。そしてその後のコロナ対応で玉城県政の迷走が指摘され、今なお新規感染者が高止まりしていることを考えると、首里城の灰燼は、沖縄の「失われた4年間」を象徴するようでもある。

ところで問題の財団はその名が想起させる通り、世界最大級の水槽を擁する「沖縄美ら海水族館」(本部町)の運営もしている。県を代表する施設の管理ができる法人が県内に他にほとんどいないようだが、前述の裁判記事で篠原氏が「優位性・独自性に甘えるあまり、財団は杜撰な経営姿勢に陥ってはいないか」という追及したように厳しい声も相次いできた。
財団トップの理事長は火災前から続く任期がまもなく8年。かつては学者や官僚の出身者が就いていたポストに財団職員の出身者としては初めての就任。現場のことは知り尽くしているとはいえ、“長期政権”でなあなあな体質になっていなかったのだろうか。実際、経営が悪化した料亭を買収したことの妥当性を問われてもいる。
今後の沖縄振興のあり方問う問題
肝心の再発防止について、県は昨年3月に報告書をまとめ、今年4月に公表した「首里城公園管理体制構築計画」にその内容を盛り込んだ。スプリンクラーなどの設備面だけでなく、そこでは「初動対応に係る人材確保及び人材育成が必要」とも課題を指摘している。だが、本当に“彼ら”で大丈夫なのだろうか。
財団の指定管理期間は2023年1月まで。その後のことについては、具体的なことは表に出てきていないようだ。首里城クラスの観光名所を管理・運営した経験を持つ県内の法人候補が他に見当たらないこともあって、これまでの沖縄の感覚なら財団の続投が“相場”ということだろうが、国は巨額の建設費を投下する以上、県に対して管理体制のあり方を厳しく問い続けるべきではないのか。
県や財団の無責任体質は温存されることなどまっぴらゴメンだ。事と次第によっては、国が管理権を取り戻し、指定管理者を全国から募るなど「大掃除」するカードを躊躇してはなるまい。折りしも沖縄振興予算を巡って、菅政権時代、河野太郎・沖縄担当相(当時)の肝煎りで、データやエビデンスに基づき、予算の成果を厳しく問い直す方向性に変わった矢先だ。
振興予算だけでも、半世紀に渡って沖縄に投下してきた国費は十数兆円。それでいて県民は47都道府県で所得が最も低いままであり、貧困問題は未解決という「結果」は、返還50年に際して政府と沖縄県以外の国民も重く受け止めて考えねばなるまい。首里城再建を巡る国の関わり方は、これからの50年に向け、沖縄を真に自律させるための政策アプローチを考え直す良い機会でもある。
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