今こそ食料安全保障を 〜 先細りの日本農業、有事が追い討ち。企業参入解禁を急げ
【前編】養父市に封じ込められる日本農業の未来- ウクライナ情勢の影響で、日本の食料安全保障の必要浮き彫りに
- 自給率の低迷以上に失われてきた農業基盤。企業参入も忌避
- 特例で企業の農地所有を認めた養父市の成果も反対論で広がらず…
ロシアのウクライナ侵略は、安全保障に関わる課題を顕在化させた。軍事面にとどまらず、「エネルギー安全保障」は世界の緊急課題になっている。偽情報の飛び交う情報戦を眼前に「情報空間の安全保障」の課題も浮かび上がった。
そして「食料安全保障」だ。ウクライナ侵略以前からの穀物価格の高騰、肥料原料の供給不足などはさらに進行し、輸入依存度の高い日本にとって深刻な影響が続きそうだ。

食料安全保障は危うい
日本政府はこれまで食料安全保障を軽視してきたわけではない。農林水産省は「食料自給率(カロリーベース)」を指標とし、2000年から目標設定を行ってきた。しかし、経過を振り返ると、5年ごとに定める目標はいつまで経っても「10年後に45%」の繰り返しで(一度は「50%」のこともあった)、現実の数値はじりじりと低減してきた。
これをみただけで農水省の政策失敗は明らかだが、それだけで「食料安全保障が危うい」というつもりはない。そもそもカロリーベース自給率を食料安全保障の指標とすることにはかねてより異論がある(例えば、外務省「食料安全保障に関する研究会」報告書、2010年)。
戦後直後は自給率100%だったが食糧難に陥ったわけで、自給率が高ければ安心ということはない。むしろ貿易可能な平時には日本の農地に適した作物を作って農業の競争力を高め、同時に、いざ輸入途絶などの有事に備えて最低限の食料供給を確保する体制を整えておくことが肝要だろう。
この観点では、自給率の低迷以上に重大な問題は、その背後で農業の基盤が失われてきたことだ。農業従事者の減少と高齢化が進み、後継者不足に伴い耕作放棄が拡大し、農地は縮小している。耕地面積は1961年(609万ha)をピークに減少を続け、2000年(483万ha)から2021年(435万ha)の間にも1割以上減少した。人口千人あたりの耕地面積は今や35haしかない。これは、米国(479ha)やフランス(278ha)などの農業国はもちろん、ドイツ(140ha)や英国(90ha)などと比べても各段に小さい。
これでは、有事に国内供給を拡大しようとしても限界がある。食料安全保障は危うく、しかも年々危うくなっているのが現実だ。
企業参入を忌避し続けてきた農業政策
これまでの農業政策がすべて失敗というわけではない。農地の集約化は一定の成果をあげ、農地全体が縮小する中ながら農業生産額はコロナ以前の数年は上昇の兆しもみられた。
しかし、日本の農業政策で明らかに欠落していた要素が「企業参入」だ。
本来、農地が格段に小さく、従事する人も高齢化している日本では、生産性を高めることが何よりも重要だ。しかるに、日本生産性本部のレポートによれば、農林水産業の労働生産性は米国を100とすれば2.9、ドイツと比べても5.8と(いずれも2017年データでの比較)、これまた極めて低水準にとどまる。
数十年前から「日本は農地が狭いので機械化が進まない」と言われてきたが、そんな言い訳を続けている場合ではない。日本に適した技術向上を図り、機械化やスマート農業導入を進めないことには、日本の農業の未来はない。
そして、そうした投資を拡大するためには、組織力と資金力を有する企業の参入が不可欠なピースのはずだ。
ところが、日本の農業政策は、企業参入をともかく忌避してきた。一般企業(出資比率が50%未満などの要件を満たす農業生産法人を除く)の農地所有は農地法で禁止されている。農地を借りれば参入できるものの、いずれ返還する農地では機械化などに向けた投資は難しい。本格的な企業参入は制約され続けてきたわけだ。
安倍内閣のもとで2016年、国家戦略特区制度を用いて兵庫県養父市限定で特例的に企業の農地所有が認められたが、これを養父市以外に広げることには強い反対があり、いまだに養父市限定のままだ(参照拙稿:「養父の農業特区は失敗」として、利権勢力に加担する朝日新聞の大誤報=アゴラ2021年1月21日)

養父市にとどめ置かれるポテンシャル
なぜ反対が強いかというと、長年唱えられてきた理由は「企業は儲け優先だから、いったん参入して儲からないとなれば、すぐ耕作放棄したり産廃置き場にしてしまう」というものだ。
筆者からみれば「個人農家なら耕作放棄しないが、企業は耕作放棄する」というのは現実離れした言い分にみえるが、とはいえ懸念はわからないでもない。懸念を払しょくする解決策は、「耕作放棄するような不埒な企業は排除する制度を作ったらよい」ということだ。
養父市の場合は、条例で「企業が耕作放棄した場合には市が買い戻す」という仕組みを設けた。実際にそのもとで参入して成功を収めているのは、地域の農業を支えようという志を持つ、いわば「不埒な企業」イメージとは対極にあるような企業だ。
例えば、タイル外装事業を営んできた山陽アムナックは、「組織力のある自社が平地で農業を営み、条件の悪い農地を個人農家に残すわけにはいかない」と考えて、あえて急斜面の農地を購入した。機械化・スマート農業に取り組み、徐々に収益があがりつつある。地元で50年間印刷・製本工場を運営するナカバヤシは、自社でにんにく生産に取り組むとともに、近隣農家からも買い入れて六次産業化に取り組み、さらに地域の雇用も創出している。
(養父市の現状について、詳しくは以下の動画も参照いただきたい)
適切な制度設計を行えば、「不埒な企業に地域を荒らされる」といったリスクは取り除き、企業参入のメリットは活かして耕作放棄を解消し、後継者不足を乗り越え、農業を再生していくことが可能だ。これを養父市だけにとどめているのはあまりに勿体ない。
そして最近挙がる反対理由として、新たに「企業参入を認めたら、外国資本が農地を買い占めてしまう」との意見も聞かれるようになった。先にいってしまうと、こちらは「外資規制は導入したらよい」というのが答えだ。
(後編に続く)
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