「子どもに会いたければ正論はダメ」実子誘拐被害者を追い込む、裁判所実務

「疎外」された末の残酷な選択とは
2021年05月25日 06:00
ジャーナリスト
  • 一方の親に子どもを連れ去られる被害者に裁判所実務が強いる理不尽さについて
  • 単独親権制で、子どもと一緒にいるほうの親が親権を得るのに有利な制度や慣習
  • 子どもとの関係が不当に破壊される「片親疎外」。問題提起すら許されない実情

(編集部より)注目度が上がっている「実子誘拐」の問題。子どもを連れ去られた親を待ち受けるのは裁判所の理不尽な慣習もあるのだという。今回は司法の狭間で苦境に立つ当事者を直撃する。

Bet_Noire/iStock

一方の配偶者にある日突然子どもを連れ去られ、離婚を申し立てられ、大切に育ててきた子どもとの関係を絶たれてしまう実子の連れ去り問題。現在の日本は「単独親権制度」で、離婚後は父母の「どちらか」が親権者となる。その際に親権獲得に有利になるよう相手方を問題のある親に仕立て上げる「でっちあげDV」が横行していることは前々回の記事で述べたとおり。

2018年夏に連れ去られ、現在5歳になった子どもと会えなくなってしまった父親・吉川弘大さん(仮)は、連れ去られた当時、同じような目に遭った当事者が集まる団体の交流会で、「子どもに会いたければ、どんなに理不尽でも、相手方の言い分に決して反論してはいけない」とアドバイスされたのだそうだ。

おかしいところを指摘したり、「正論」を通そうとすればするほど、「攻撃的で問題のある親」とされて、余計に子どもと会えなくなってしまうからだという。「それでも、おかしいものはおかしい」と主張することにした吉川さんのケースを元に、裁判所の理不尽と言わざるを得ない実務慣習を紹介したい。

「連れ去りは容認、連れ戻しは違法」の裁判所

吉川さんの場合、2018年7月に理不尽な連れ去りにあうも、離婚調停が始まる前までは、お互い連絡を取り合い、仲介役をはさんで子どもに会うことができていた。

母子の別居先である妻の妹の自宅は、台所や風呂場が使用できない状態で、当時1歳半の息子に対して母親側は、食事はほとんどすべてコンビニで済ませ、おでんの汁をそのまま飲ませていたという。また、風呂も2日に1回、部屋の床には猫の毛が溜まっているなどといった不衛生で劣悪な生活環境だった。吉川さんはこれを心配し、「こんなところに子どもを置いていたら大変だ」と指摘すると、それ以降、相手方から「もう会いに来ないでください」と言われてしまった。

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離婚後、どちらか一方の親に親権を定める「単独親権制」を取る日本の裁判所では、たとえ連れ去りであっても、子どもと一緒にいるほうの親が、親権を得るのに有利となる「継続性の原則」という慣習がある。

一方で、連れ去られた子どもを取り戻すために、連れ戻しを行う場合、未成年者略取罪などに問われることがあることが、最高裁の判例(2005年12月6日)として示されている。はじめの「連れ去り」は容認し、それを「連れ戻す」行為は違法とするアンバランスな状況なのだ。

このため、子どもと一緒にいる側の親が優位な立場となって、別居親側がその問題を指摘すると、「攻撃的」「言いがかり」などとされ、子どもとの面会にも不利な要素になってしまう。

冒頭の「相手方の言い分に決して反論してはいけない」という当事者交流会の先人のアドバイスに対し、「自分の性格上、おかしいことはおかしいと言わなくては居られない」という通り、吉川さんはこのアドバイスを到底受け入れられず、相手方に対して、「なぜ理由なく子どもに会えないのか」「納得できない」「子どものことが心配だ」と自身の主張を率直に表し続けた。

「もう会いに来ないで」と言われた後も、子どもが心配で別居先に会いに行くと、警察を呼ばれた。離婚は成立しておらず、双方に親権がある状態にもかかわらずだ。その時に、一目でも子どもの姿を確認できればと、外から子どもの名前を大きな声で叫んだことなどから、「危害を加える恐れがある」とされ、母子はDVシェルターに入ることに。吉川さんは、母子の居所もわからなくなってしまった。

ツイッターでの問題提起が裏目に

こうして「問題のある親」とされた別居親が、裁判所を通して子どもと会う「面会交流」の取り決めをした場合、公益社団法人「家庭問題情報センター(通称:エフピック)」を利用することになるケースが多い。

実際に、エフピックを利用する場合、ケースにもよるが、面会交流は第三者の立会いの下「月に1回2~3時間」、費用は「15,000 ~ 25,000円」でたいていは別居親が負担するなど、自然な親子の対面交流とは言い難いものだ(参照:エフピック公式サイト)。

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吉川さんの場合も、横浜家裁でエフピックを使っての「月1回2時間」の面会交流が取り決められた。4回目の交流の際に、子どもが父親の顔を見るなりうずくまって泣き出した。その画像をTwitterにアップしたところ、それが「ルール違反」と第三者からエフピックに指摘が入り、相手方に知らされ、それが元で面会交流が停止されてしまった。

画像は、息子の様子がおかしいと気づいた吉川さんが心配し、「片親疎外」の証拠として問題提起のために公開したものだった。片親疎外とは、子どもと同居している親が別居親の誹謗中傷や悪口といったマイナスのイメージを子どもに吹き込むことで、別居親と子どもとの関係が不当に破壊されたり、それによって子どもが情緒不安定になることなどを指す。

「ルール違反なのは認めるが、そこでしか息子に会えないのに、息子に起きた異常事態をどう外部に伝えればいいのか」と吉川さんは訴える。そうした訴えも裁判所の実務ではすべて裏目に出てしまい、今年3月の横浜家裁の審判では、この「ツイッターに画像をアップしたこと」が、「ルール違反をする親」の証拠として、子どもの面会を取り消しする判断が下された。子どもが父親の顔を見て泣き出すという片親疎外については、一切考慮されなかった。

「ツイッターに画像をあげる行為は、完全に子どもに会えなくなるほどの重大なルール違反なのだろうか」と吉川さんが語る通り、実の子に会えなくなる理由としては、あまりにも不釣り合いではないだろうか。この点、相手方の弁護士にも取材を試みるも、応じてもらえなかった。

強いられる酷な選択

はじめの「連れ去り」を容認し、連れ去ってから一緒にいる時間を「継続性の原則」として親権獲得に有利に判断する。起点がそこにあるので、それに対して正当な反論をすればするほど「同居親を非難する攻撃的な別居親」と認定され、子どもと遠ざけられてしまう。正論を通そうとするほど、子どもに会えない。

吉川さんは、同じように連れ去りに遭った人には「正論を言うとどんな目に遭うのか、反面教師として見ていただければ」と苦笑いする。だが、自身は、「このような子どもの利益を最優先にしているとは考えられないおかしな実務がまかり通る裁判所とは、徹底的に戦っていく」と高裁での争いを準備中だ。

子どもに会いたければ正論を言ってはいけない。おかしな状況を「おかしい」と言えば、子どもに会えない。実の子を連れていかれた別居親が、そのどちらかを選択しなければならないとしたら、あまりにも酷な状況ではないだろうか。

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