プーチン、金正恩…「独裁者の終わりの始まり」示す兆候を読み解く
筆者が膝を打った、英ジャーナリストが指摘する「その時」- プーチンと金正恩、独裁体制の「終わりの始まり」の兆しを読み解く
- ウクライナとコロナ…思うように行かなくなった2人の「焦り」
- 「独裁体制は、はたから見ると滑稽」…筆者が感心した至言とは
3月4日の拙稿「4つの誤算!プーチンは戦略的な敗北へと向かっている」の中で、「これまでは北大西洋条約機構(NATO)とは距離を置いていた北欧のフィンランドとスウェーデンも、NATO加盟に傾く可能性がある」と指摘していたが、それから3か月も経たない5月18日、この両国がNATOに対して加盟を申請した。
プーチン大統領の焦り

両国は、これまで軍事的非同盟の方針を長年にわたって維持してきたが、ロシアによる(一方的に軍事力を行使した)「ウクライナ侵略」という現実を目の当たりにして国民の意識が激変し、今回の行動を促したものと見られる。
特に、ロシアと約1,300kmに及ぶ国境を共有するフィンランドは、世論調査でNATO加盟を望む国民が、2月の侵攻開始以前の約3倍となる4分の3以上に達し、同国議会における議決の結果、議員200人のうち188人という圧倒的多数でNATO加盟が承認された。
これらの動きに対してロシアは、16日に自国主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO:Collective Security Treaty Organization)」の首脳会合(サミット)をモスクワで開催した。これについてロシアは、CSTOの締結30周年記念のサミットだと称していたが、ウクライナ侵攻で(ロシアの意に反して)NATOの結束と拡大(の傾向)を招いた結果、これに対抗する旧ソ連6か国(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アルメニア)の団結を誇示する必要に迫られ、これら同盟国の首脳を呼集したというのが実際のところだろう。。
結束促すプーチンに、同盟国の本音は…
しかし、これはどうやら逆効果であったようだ。
首脳会議冒頭の演説で、ロシアのプーチン大統領は、「ウクライナではネオナチと反露主義が横行し、欧米もこれを奨励している」などと主張したが、各国首脳からは同調する発言も出ず、唯一、ウクライナ侵攻でロシアに協力して(実態はさせられて)いるベラルーシのルカシェンコ大統領が、「西側の制裁圧力を背景に、我々の団結や連帯は必ずしも機能しなくなっている」と、他の加盟国を批判することで、何とかプーチン大統領の面目を保っているようなありさまであった。
それもそのはずで、ロシアとベラルーシを除く4か国は、ロシアのウクライナ侵攻に対して「中立」の立場をとり、国連総会のロシア非難決議の採択でも棄権していた。早い話が、このロシアがいうところの「特別軍事作戦」について同調し、西側から制裁の火の粉が降りかかるなど「真っ平ごめん」というところなのであろう。
そのような同盟国の本音が各国首脳の困惑した表情に読み取れた時、筆者は思わず吹き出してしまった。
プーチン大統領のいきり立った表情と、「こんな泥船に乗れといわれてもなあ…」というような(特に前述4か国)首脳の「勘弁してほしい」という気持ちが見え見えの苦り切った顔が、なんとも滑稽で可笑しくて仕方がなかったのだ。
そういえば、先月の拙稿「ショイグ国防相との“茶番劇”のウラで、泥沼にハマるプーチン大統領」の際にも、異様に接近して向かい合ったプーチン大統領とショイグ国防相のツーショット(写真)を見た時に、なぜか思わず笑ってしまった。この可笑しさは、一体どこから来るのであろう。

そう考えていた時、膝を打つ名言に出会った。それは、「140字の戦争―SNSが戦場を変えた」の著者であり、英国のジャーナリストである、デービット・パトリカラコス氏の次のような言葉である。
「独裁体制は、はたから見ると滑稽なことが多い。恐怖政治によって覆い隠されているが、人々が恐れるのをやめると、滑稽さだけが残る。その時が終わりの始まりだ」
全くそのとおりだ。まさしく、プーチン大統領の姿がかくも滑稽に映った理由は、そこにあったのである
金正恩委員長の焦り
そしてもう一人、最近その姿が滑稽に見えて仕方ない人物がいる。言わずもがな、北朝鮮の金正恩委員長である。

朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は5月14日付紙面で、新型コロナウイルスの感染者が確認されたとして、「4月末から5月13日までの全国の発熱者総数は520,440人であり、うち240,630人が完治、280,810人が現在も治療を受けており、これまでの死者数は27人である」、と伝えた。また同紙(13日付)によると、首都ピョンヤン(平壌)で12日にも全国で18,000人の発熱者が新たに発生し、6人(うち1人がBA.2と確認)が死亡したとのことである。また同日、朝鮮労働党の政治局会議が開催され、「金委員長が最大緊急防衛態勢に移行することを決定した」模様である。
北朝鮮は、これまで新型コロナウイルスの感染者はゼロとしていたが、そんなことは誰も信じてはいなかっただろう。事ここに至り、その猛威の激しさに(元々脆弱な)医療体制が崩壊し、とうとう危機的状況に陥って隠し切れなくなったというだけのことだ。
会議の席上、眉間にしわを寄せてタバコを燻らせ、いらついた面持ちで党の幹部らを𠮟責している金委員長の姿がその焦りの大きさを窺わせていた。また、会議の終了後、金委員長は平壌のある薬局を直接訪問し、ここの若い女性販売員の前で「薬局が本来の機能を果たすように準備されておらず、販売員が衛生服装もきちんと備えられていない」などと指導した。
映像に映っている人物の中で、ただ一人だけ二重にマスクをつけた金委員長が感情をあらわにしてこの女性販売員の前で、身振り手振りを加えてまくし立てている(朝鮮中央通信の)この映像を見て、筆者は思わず吹き出してしまった。
すでに新型コロナのオーバーシュート(爆発的患者急増)が発生して手が付けられない状態に陥り、医療品も衛生服装も全く足りていない状況の中で、この若い女性販売員に一体何ができるというのだろう。今にもべそをかきそうなこの女性販売員を前に、意気揚々と指導するこの独裁者の姿が喜劇でなくて何であろう。
責任逃れする金委員長
そもそも、4月末以来52万人もの発熱患者がいたというならば、少なくとも4月初め頃にはその兆候があったはずである。4月に大規模な祝賀行事を計画していた金委員長のもとには、各方面からすでにその報告が上がっていたのではないか。側近らも、金委員長肝いりの行事を、「縮小又は延期しましょう」などと諫言できるような雰囲気にはないのだろう。
いずれにせよ、この感染拡大を甘く見て、祖父の故金日成主席の生誕110周年に合わせ、4月15日前後には様々な祝賀行事を(参加者はマスクなしで)大々的に行うとともに、25日の朝鮮人民軍の創設90周年の記念日には、過去最大規模の軍事パレードを挙行するなどして、首都を中心にこの感染を拡大させた張本人は金委員長自身ではないか。
これは、自分の意図に沿った偏向情報と、これをもとにした過大な自己過信に基づく判断によって無謀な戦争を始めたプーチン大統領の誤算と同じである。
このような状況にもかかわらず、北朝鮮は近いうちに長距離弾道ミサイル(ICBM)や核実験を行う準備をしている模様である。いくら核・ミサイルで武装を強化しても、「この国を守る将兵や経済を支える人民が機能しなくなれば、体制は維持できない」ということを金委員長はもはや忘れているのではないか。
独裁者の行方が問題

ウクライナ侵略が失敗して泥沼にはまったプーチン大統領と、人民をないがしろにして核・ミサイルに突き進む金委員長は、それぞれ「戦争」と「伝染病」という災厄を自ら招いたことによって、国家の脆弱性をさらけ出してしまった。この顕在化こそが滑稽な姿を露呈させたのである。
「悲劇を通り越すと喜劇になる」というが、まさに両国の指導者はこの段階に突入したと思われる。ただ、気を付けなければならないのは、喜劇も度を過ぎると「惨劇」となる可能性があるということである。
これら両独裁者がどのような結末を迎えるのか、現時点では予想がつかないが、決して惨劇に至らないように、民主主義国家は政治的にも軍事的にも緊密に協力して、これら両独裁者の所業に適切に対応していくことが求められよう。
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