【参院選2022】史上最大の激戦!東京選挙区を占う2つのキーワード

乙武氏、山本太郎氏参戦で一大カオスに見えるが...
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 参院選東京選挙区、乙武氏と山本太郎氏の参戦で一気にカオスの様相
  • 当選ラインは?過去のジャイアントキリング候補に見る乙武氏の展望
  • 今回の選挙で筆者が挙げる2つのキーワード「リア充リベラル」「世代交代」とは

参院選の東京選挙区(定数6)は、公示まで1か月となった先週後半、乙武洋匡氏(無所属)と山本太郎氏(れいわ新選組)という2人のビッグネームが相次いで参戦を表明したことで、歴代稀に見る劇場型の大激戦が繰り広げられることになった。

乙武氏の得票目安は?

東京都の有権者数は今年3月時点で約1149万余り、3年前の選挙よりは10万程度増えた。ここまでの主要政党と擁立予定の候補者数は、自民2、公明1、立民2、維新1、共産1、都民ファーストの会(with 国民)1という大乱立戦でもあり、最後の6人目を争う当選ラインは「これまでの50万を割って47くらいになるのでは」(野党幹部)と見立てる政界関係者は少なくない。

そして、今回選挙初挑戦となる乙武氏の得票数の目安だが、注目したいのが東京選挙区は、組織のない無所属の著名人候補者による「ジャイアントキリング枠」がある点だ。

2007年は薬害エイズ事件の被害者で知られた川田龍平氏、13年は選挙デビューだった俳優出身の山本氏が勝ち抜いた。また、2010年には、みんなの党公認候補ではあったが、支持団体の大組織がない著名人という点では、タリーズコーヒージャパン創業者の松田公太氏もこの枠に準じて良いだろう。

得票数(4ケタ以下割愛)を見ると、川田氏(68万)、松田氏(65万)、山本氏(66万)はおおよそ同数の結果で当選しており、乙武氏のベンチマークは60万であろう。そして山本氏が今回名乗りを挙げる前の時点では、筆者の乙武氏の得票予想は、ベストセラー「五体不満足」などで培った知名度をプラス、スキャンダルでのマイナスを勘案して「65〜70万」ではないかと見立てていた。

ところが“ジャイアントキラー”の先達である山本氏が参戦を表明したことで、計算の前提が崩れた。山本氏は政治家として未知数だった9年前とは一変、今やベンチャー政党の党首であり、政治家としての“実績”(プレゼンスという意味での)は政界屈指だ。全国比例に回った19年参院選は落選したものの、全国で99万票を集めた。政界復帰をかけた昨秋の衆院選の比例東京ブロックでは36万票を集め当選。労組に支援された国民の30万票を上回るなど集票力の高さは健在だろう。

2016年参院選東京選挙区のポスター風景(electravk /iStock)

キーワード①「リア充リベラル」

乙武氏、山本氏という知名度のある2人が無党派層やライトな政党支持層から票を奪い合い、ここに衆院選比例東京で85万票を集めた維新や、小池知事に後押しされた都民ファとの乱立戦による目減りも考慮すると、それぞれの得票数も過去のデータや事前予測より減少する可能性はあるが、立民や共産などのリベラル層をどこまで侵食するかという点で衆目は一致している。この点で筆者が一つ目のキーワードにあげたいのが「リア充リベラル」だ。

今回、乙武氏について自民党からの出馬を6年前に断念した経緯もあってか「保守系無所属」と書く人もいたが、「リベラルか保守か」のラベリングで言えば、障害者やLGBTなどのマイノリティにも開かれた目線で「あきらめなくていい社会」をうたう点から、やはりリベラルに根ざしている。

ただし、ロボット型義足を使いこなすなどテクノロジーにもフレンドリーで、自身もNPO活動に従事して、経営者やアスリートから最先端の話を常に聞いているあたりは、明らかに旧来型左派とは異なる。本人は「右でも左でもない」と述べており、この言葉には違和感もあろうが、リベラル層の中でも「リア充」な人たち、旧民主党の支持層の中でも中道寄りに親和性があるように感じられる。

その意味では過去2回100万票台を叩き出したものの、人気のピークアウトもささやかれる蓮舫氏にとって乙武氏は脅威のようにも思える。

一方、山本氏は過去の選挙では、支持世代が40代以下に強い傾向があり、特に就職氷河期に苦しんだ非正規雇用の人たちの支持はかなり集めているとされる。立民や国民の支持母体である労組はやはり正社員の既得権確保が優先してしまうことを考えると、非正規雇用の人たちが新興のれいわに流れていくのは仕方がない。

共産と競合していると思えるのは、山本氏が東京選挙区からの出馬を表明した直後、警戒・反発した共産支持者が現職の山添拓氏を後押ししようと、ツイッターで「#山添拓に投票しない理由がない」というハッシュタグ運動を仕掛けたのは見ればわかりやすい。何を持って「リア充」かは人それぞれだが、少なくとも経済的には「リア充ではない」と感じている人も少なくあるまい。

果たして移り気な都民の選択は?(Mlenny /iStock)

キーワード②「世代交代」

2つ目のキーワードとして挙げたいのが有権者の「世代交代」だ。これは昨年衆院選の直後にも、新興の維新とれいわがそれぞれ伸ばした背景として、筆者は「団塊世代の影響力が弱まり、ロスジェネが影響力を増した」傾向を指摘し、中田智之氏も人口動態に見る政策トレンド変化をもとに「有権者の脱団塊」シフトを論じた。

雇用格差や世代間格差の是正、DX推進に代表されるように、有権者の政策ニーズの世代間での差異が見える化しつつあり、このあたりの変化の兆しは、自民や立民でも30〜40代の若手で嗅覚の鋭い議員は気づいている。

東京は、選挙区の特性として、地縁が特に薄く、投票率が上がれば、地縁や組織など「古いコミュニティ」に基盤を持つ自民や立民が思うように支持を伸ばせず、逆に新興政党や著名人が大多数の無党派層の支持を集めてジャイアントキリングを起こしやすい構造なのは周知の通りだ。

コロナによる転出超過が一時期あったが、今年1〜3月は再び転入超過の傾向に逆戻りしている。都知事選が典型だが、勃興する「新しいコミュニティ」に浸透した者勝ちという側面は否めない。

そうした社会構造、人口動態の変わり目にあって、乙武氏や山本氏がどこまで票を伸ばすのか。維新や都民ファが食い込むのか。それとも自民や立民、共産が底力を発揮するのか。組織的な支援のない全国区の著名人が2人も参戦するという異例の熱戦を占う上で、ここまで述べた視点で筆者は注目している。

いずれにせよ、これまで政治に見向きしていなかった層も関心を惹くような、闊達な政策論議を期待したい。

東京選挙区の主要候補予定者(敬称略)は以下の通り(5/22時点。政党は参院の議席数順、続いて諸派、無所属。数字は当選回数)。

  • 自民:朝日健太郎①、生稲晃子(新人)
  • 立民:蓮舫③、松尾明弘(新人)
  • 公明:竹谷とし子②
  • 維新:海老澤由紀(新人)
  • 共産:山添拓①
  • れいわ:山本太郎①
  • 社民:服部良一(新人)
  • N党:猪野恵司(新人)
  • 都民ファ(国民推薦):荒木千陽(新人)
  • くにもり:安藤裕(新人)
  • 幸福実現:及川幸久(新人)
  • 自由共和:青山雅幸(新人)
  • 無所属:乙武洋匡(新人)

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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