いまだに残るT医大事件の謎、調査報告から「女子学生差別の手口」を解剖する

【前編】「属性調整」と「個別調整」不公平の極み
朝日新聞創業家
  • T医大入試での女性差別事件を村山氏が引き続き独自検証し本質に迫る
  • 入試や採点方式、不正の手口など複雑にたどった経緯を整理
  • 報告書にもある2つの不正の手口「属性調整」と「個別調整」を解説

前回に引き続いて2018年に起こったT医大入試での女性差別事件を、同大の公表した「第三者委員会調査報告書(一次)(二次)(最終三次=引用せず)」をもとに分析していきます。この前の結論では、「本質は女性差別というより不正入試」、「女子と浪人はそのトバッチリを受けて不合格にされた」、「多くのメディアは女性差別ばかりに目を向けていて本質を見落としている」というものでした。

今回、報告書の精査をしたところ、結論の趣旨は変わりませんが、女性差別もその他の不正も、もっと巨大で複雑なものである可能性が出てきました。

recep-bg /iStock

最初に記事を書いた感想を言いますが……無茶苦茶大変でした。入試自体も不正の方法も多種多様で複雑怪奇な上、わずか6年の間に採点方式も二転三転しています。また、3つの報告書相互のデータの引き継ぎも悪く、データが年度ごとにまとめられている部分と、不正の手口ごとにまとめられている部分などが混在しており、さらに誤解を招きかねない表現もふんだんにあります。

細部まで見ればこの記事にも、報告書の誤読に基く内容があるかも知れません。また、新聞・テレビなどが、分かりやすい「二次試験での女性差別」ばかりに飛びつき、他の問題に光が当たらなかったのも仕方ありません。たとえ記事が不正確でも急所をはずしていても、今回ばかりは彼らを朝日脳呼ばわりする気にはなりません。

検証の前提:そもそも入試方式は?

今回は、その調査報告書の内容を「差別の手口」という観点で整理してみました。あくまで手口の話なので、大きな紙数が割かれている「なぜ差別はいけないのか」や「再発防止策の提言」などのポエム……じゃなかった……内容は扱いません。もし今後、この事件に関して何か発言される方は、この記事やメディア報道だけではなく、もとの報告書にも是非あたってください。観点を変えて読めば、また新たな発見があるように思います。

最初に、入試全体の流れを解説します。T医大入試には3つのコースがあります。一般入試、センター利用入試、推薦入試の3つです。さらに推薦入試のなかには、公募と地方枠がありますが、いずれも受験者が少なく、もともと合否に主観がはいるため不正の判定が難しいこともあり、軽く触れるのみに止めておきます。ただし、どの推薦コースでも、かなり男子の成績が女子を上回っていることも付け加えておきます。

全コースとも、入試は一次と二次の2回で行われますが、配点は一次の重みが大きく、実質的には一発勝負と考えるべきです。今回報告書が触れている2013年度(原文は元号表記;以下同様)から2018年度までの期間では、一次試験の配点は一般入試が(英・数・理)400点満点、センター利用入試は950点満点で、二次での小論文100点がこれに加わります。

また、同じ二次での面接・適性検査および調査書は、合格者の中から明らかな不適格者をはずすためのみに行われています。ちなみに、こういうシステムは、国公立大学を含むほとんど全ての医学部で実施されています。

合格定員は120名(一般75名、センター15名、推薦30名)ですが、国公立などの他大との併願組からは例年大量の入学辞退者が出るので、予めそれを見込んで定員の3倍前後を合格者としているようです。ここまでは、私自身もかかわっていた普通の私大入試とほぼ同じです。ただし、定員と入学者数とのずれが許されにくいという医学部の特性があり、最後の最後まで補欠からの繰り上げ合格制度が機能し、2017年度と18年度は、定員通りの120名が、実際に入学したようです。

女子学生差別 2つの手口

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さて、今回行われた不正の手口ですが、報告書にもあるように「属性調整」と「個別調整」の二つに分けられるようです。
まず、この医大の「属性調整」は、比較的わかりやすい手口で、全員の小論文の点数を一定の比率で圧縮し、「現役・男子」など大学側がヒイキをしたい属性をもった受験生全員に、機械的計算して加点する方式です。

加点の大きさは年度によって違いますが、現役男子の場合2013、14、18年度が20点、15、16年度が10点、一浪男子にはその80%程度、二浪・三浪生にも現役の半分以上の点数が与えられた年度もありました。差別だと言われるのは当然の話です。

一方、「個別調整」の方は、特定の受験生を有利になるように運用するもので、主に歴代の幹部数名が、直接、入試担当者に指示する形などで行われていました。「適正に問題あり」とされかけた受験生を、「(この学生は)関係者です」の『鶴の一声』で救済したり、補欠の繰り上げ順位を入れ替えたりと、要はなんでもありなんですが、一番影響が大きいのは、特定受験生の特定科目の得点の水増しです。

答案用紙から入試採点用パソコンにデータを入力する事務職員に、横から学長が「A君の数学に5点」とか「あと20点、B君の英語cに行こう」などと指示を出すわけです。入試業務というより、笑点大喜利の司会者と座布運びのヤマダ君みたいです。

ただし効果は絶大で、最大で58点(500点満点中)も加点があり、さらに30%以上いる女子たちが「属性調整」とやらで蹴散らされるのですから、まともな受験生なら落ちようがなくなります。翔太師匠の座布団運用(一回答一枚が原則)のほうが、よほど公平公正だと思います。

この「大喜利」調整(と以後呼びます)が、主に一般入試の一次で、年度によっては二次の小論文でも「属性」調整とは別に行われました。というのが調査報告書にある手口の概要です。

しかしこれでもまだ、実際の結果と報告書の想定した「差別のない状況」との間の矛盾やズレが消えないのです。

後編に続く

 

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