「オール沖縄退潮」でも自民党は知事選に勝てない?明るみに出た杜撰な候補者選び

「政治の季節」突入寸前も...自民沖縄に勝つ気あるか?
批評ドットコム主宰/経済学博士
  • 沖縄県知事選、自民の候補者最終選考で「ずさん」なドタバタ劇
  • 名前の挙がったアナウンサー、局側が「立候補の意志がない」
  • 演説会日程も知らされていなかった可能性。自民に勝つ気はあるのか?

この5月15日に復帰50周年を迎えた沖縄県だが、復帰をお祝いするムードもあまり盛り上がらないまま、7月10日に実施される見通しの参院選、9月11日に実施される県知事選に向けていよいよ「政治の季節」に突入する。

お祝いムードが盛り上がらないのは、普天間飛行場の辺野古移設をはじめ、基地負担をめぐる問題がいまだ県民の喉に引っかかっているからである。

沖縄復帰式典に参列した岸田首相、玉城知事ら(官邸サイト)

26年間1ミリも動かない「普天間」

玉城デニー現知事は、「50年経っても沖縄の基地負担は変わらない」という認識の下、普天間飛行場の辺野古移設を進める政府に対して移設を断念するよう求める「建議書」を5月7日に提出した。普天間飛行場の返還が日米間で合意されたのは1996年春のこと。クリントン大統領(当時)に返還を要求して成功した橋本龍太郎首相(当時)によれば、5年から7年(2001年から2003年)で返還・移設のプロセスはすべて終了するはずだったが、この26年間、普天間飛行場は1ミリも動かなかった。1972年の本土復帰を起点にすれば、その半分以上の歳月が、政府と沖縄県のあいだの移設をめぐる係争に費やされた。

26年間におよぶ政府と沖縄県の係争関係が、復帰50年を超えて今後いかに展開するかを占うのが今回の知事選だが、現職の玉城デニー氏はまだ出馬を正式に表明していない(5月25日現在)。が、事前の世論調査によれば玉城氏の人気は高く、9月の選挙戦も有利に進められると予想され、出馬は確実とみられている。支援母体であるオール沖縄会議内から玉城氏の出馬に異論が出る気配はない。

候補者選考は動きだしたが…

対する自民党は、公明党の全面的な協力を得て、沖縄県議選、衆院選、名護市などの主要な首長選で連続して勝利を収め、知事選には万全の態勢で臨む構えだったが、予定通りに進んでいない。3月末までに知事選の候補者選びを終え、7月の参院選候補(古謝玄太氏)とセットで選挙戦を展開することになっていたが、候補者選びは遅れに遅れて、5月1日に設置された自民党沖縄県連の候補者選考委員会(委員長・松本哲治浦添市長)が、3回目の選考委を終えて「候補者の候補」を記者会見で発表したのは5月21日のことだ。

それによれば候補は7人。名が挙がったのは、前宜野湾市長で2018年の前回知事選に立候補した佐喜真淳氏(57)、宮崎県副知事で伊江村出身の永山寛理(ながやま・ひろたか)氏(50)、沖縄県医師会理事の玉城研太朗氏(46)、沖縄県議会議長の赤嶺昇氏(54)、元沖縄県保健医療部長の砂川靖氏(62)、ボクシング元世界チャンピオンの平仲信明氏(58)、琉球放送(RBC)アナウンサーの比嘉俊次氏(49)の7人。

5月14日に開かれた2回目の選考委で11人の名が挙がり(自薦、他薦含む)、その後本人の意向確認などを進めた上で7人に絞り込んで21日の発表に至ったという。14日の段階では選考委員長を務める松本哲治氏(54)と西銘恒三郎沖縄担当相(68)の名も挙がっていたが、両氏は辞退している。記者会見では5月28日に公開演説会を開いた後、選考委で最終候補者を決定することが併せて発表された。

次々脱落する有力候補

出馬を否定した比嘉氏(RBC琉球放送サイトより)

ところが、である。記者会見当日の午後になって、比嘉俊次氏が勤務する琉球放送が報道各社にプレスリリースを配り、「9月11日投開票の県知事選に立候補する考えはなく、5月28日開催の公開演説会にも出席しないとの報告を受けている」と発表した。たちまちケチが付いた恰好だ。

この間の事情を5月22日付けの沖縄タイムスは、『比嘉氏に立候補の意志がないとのニュースに、選考委員長の松本哲治浦添市長は絶句。自民県連の島袋大幹事長は「まさかでしょ」と疑った。会見に出席したある選考委員は「本人が固辞したとの報告を受けていたので、会見資料で氏名を見て驚いた」と話す。比嘉氏に立候補の意志を確認したのは国場幸之助衆院議員という。県連によると、発表前日の20日午後10時ごろ、県連の中川京貴会長へ候補者に加えるよう電話で報告があったと伝えている。はっきりいって無茶苦茶である。意思疎通が全く図られていないのだ。

筆者は、比嘉氏が立候補する可能性が強いことをひと月ほど前に聞いていた。比嘉氏はニュースキャスターとして知られており、県民のあいだで人気の高い玉城知事と互角に渡り合える希有な候補だと思った。が、蓋を開けてみればこの体たらくである。前回知事選の時も、候補者選びの段階でゴタゴタが続いたが、今回も同じ轍を踏んだ。比嘉氏が出馬しないのは、琉球放送が有力なスポンサーでもある沖縄県に遠慮したからだというが、比嘉氏自身にもただちに辞職して出馬するほどの意欲はなかったのかもしれない。

さらに、翌22日になって、やはり有力候補だった宮崎県副知事の永山氏も、「副知事の公務に専念するため28日の公開演説会には出席しない」ことを明らかにした。公開演説会への出席は候補者決定の要件とされているため、永山氏もリストから外れたことになる。各社の報道によれば、永山氏は、「公開演説会の準備ができない」ことにも触れていたので、演説会の日程も予め知らされていなかった可能性もある。

自民党に勝つ気はあるのか?

自民党県連関係者は、「候補者には自薦もあり、他薦もあるが、決められた申込みフォーマットもなく、出された書類はみなバラバラ。日程などもしっかり周知されていなかった」という。公開演説会にも詳しい開催要項はなく、スピーチの中身は各人に委ねられることになっている。率直にいって新人にとっては驚くほど不親切な候補者選考だ。

記者発表された7人の候補のうち有力2候補が発表直後に欠けてしまった経緯を見ると、出馬に強い意欲を示している佐喜眞淳氏に肩入れするための選考委員会だったのではないかとも疑いたくなる。実際、「今後の選考は佐喜真氏を軸に行われる」と漏らす県連関係者もいる。

自民党は2016年知事選で佐喜眞淳氏を擁立、応援に小泉氏を投入も敗れた(撮影:新田哲史)

筆者は佐喜真氏が選ばれることに異議を申し立てるつもりはまったくないが、最近の世論調査を見ると(たとえば朝日新聞、沖縄タイムス、琉球朝日放送の合同調査)、現職の玉城氏は調査対象者の6割以上の支持を集めている。オール沖縄の退潮は明らかとはいえ、玉城氏の個人的な魅力がそれを相殺して上回っているのが現状だ。

したがって、2018年の知事選のときに396,632票(得票率55.07%)を集めて勝利した玉城氏に、316,458票(同前43.94%)で敗れた佐喜眞氏が雪辱を果たすためには、玉城氏の知事としての失点を突くだけでは不十分で、佐喜真氏は「プラス・アルファ」の魅力を求められる。その魅力をあと3か月で生みだすのは容易ではない。

自民党県連のなかには、この点を心配して、これまでにない魅力を備えた新鮮な候補者を玉城知事にぶつけたいと願っている人も多いが、有力候補者を早々失ってしまったこれまでの選考過程を見るかぎり、その試みは失敗に終わりそうだ。

ただし、残された他の候補に魅力がまったくない、というわけではない。県医師会理事の玉城研太朗氏も出馬に対してきわめて意欲的で、この4月に地元の有力出版社であるボーダーインクから『夢と希望に満ち溢れた沖縄県の未来を創る、というお話』という著書を出版している。自著を用意してまで出馬に臨む新人候補者はきわめて稀だ。まだ47歳と若い乳がん専門医である玉城氏の政治的手腕は未知数だが、辺野古に明け暮れた沖縄のこの26年を取り戻そうという強い意思は感じる。

中央政界「知事は玉城氏でいい」説も…

県政与党であるオール沖縄から反玉城知事派(野党)に転じて、県議会内部の力関係から議長の座を射止めた赤嶺氏、世界チャンピオンだった平仲氏、県の幹部職員だった砂川氏も固い決意を持って候補に名乗り出ているから、彼らの存在もけっして侮れないが、自民県連の今回の選考過程の杜撰さを知ると、「自民党は本気で玉城知事に挑むつもりがあるのか?」と問いたくなる。「最初から佐喜真氏ありきの仕組まれた失敗」という声さえ聞こえてくる。

他方、「自民党は最初から負けるつもりじゃないか?」という意地悪な観測もある。それによれば、永田町、霞ヶ関、市ヶ谷(防衛省)には、「玉城氏が知事でいる限り、悪いことは玉城氏のせいにできる。彼はあまり強く反論しないから都合がいい。反対に良いことを自公の手柄にしても玉城氏は黙っている。それに、玉城氏はもともと自衛隊に親和的な政治家だから、政府の辺野古以外の防衛政策に厳しく対立することはない。だから知事は玉城氏でいい」という見方があるという。

こういう話を聞かされると愕然とする。目先の政治的利害に囚われて大局を見失い、民主主義を蔑ろにする悪しきご都合主義だ。せめて、今後の候補者選びと選挙運動は汚点の残らないようしっかりやってもらいたい。知事選の最終候補者を決める公開演説会はオンラインで中継されるという。そこにアンフェアな要素が少しでもあれば、筆者は黙っていないつもりである。

 
批評ドットコム主宰/経済学博士

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