“ワクチン敗戦”と河野前統幕長の憂い:危機意識なき国家の体質が露呈

これで実戦に耐えられるのか
2021年05月27日 06:00
元航空自衛隊情報幹部
  • 河野前統合幕僚長が政府のコロナ政策について「危機管理として失敗」と指摘
  • 憲法に「緊急事態条項」がない日本。パンデミックに消極的な対応に終始
  • 米国などとワクチン接種にも大きな差。米国は戦略物資として備えてきた

(編集部より)先進国のなかでもワクチン接種に大きく出遅れ「敗戦」の様相をみせた日本のコロナ政策。危機管理のプロである自衛隊OBから数々の提起がなされます。この1年余りの政策が機能不全に陥った、失敗の本質について考えます。

記者会見する河野前討幕長(日本記者クラブYouTubeより)

前統幕長「危機管理に失敗」

5月12日に日本記者クラブで行われた(オンライン)記者会見において、河野克俊前統合幕僚長は、同クラブの個人会員である朝日新聞OBなどから「新型コロナに関わるワクチンの大規模接種センターに、自衛隊の医務官や看護官を動員することについてどう受け止めているか」、「コロナパンデミックは、国家安全保障に対する国民の有事感覚をどの程度変えると思うか」などと質問されたことに対して、次のように(一部抜粋)答えた。

これは危機管理の問題だ。私の認識は今のコロナをめぐる日本の状況は有事だと思っている。すでに、自衛隊の各病院で2千人程度のコロナ患者を受け入れており、あまり余裕はないと思うが国家的危機なので自衛隊には頑張ってほしいと思う。

私も政府側にいた人間なのであまり言いたくはなかったのだが、ここに至って申し上げたい。最悪の事態を考えてそうならないように手を打っていくのが危機管理だ。今やっているのは危機管理の逆行だ。その場その場であて盛り(泥縄式)にやっている。ワクチンの接種にしても、平時の厚生行政としてやっている。これは国家安全保障の問題として捉え、自衛隊を出すにしても国家安全保障会議で協議して決めるべきだった。危機管理として失敗している。

まさに、おっしゃる通りだと筆者も思う。

この記者会見の中で河野氏も触れておられたが、今年の夏に東京でオリンピックが開催されることは、延期が決まった昨年3月末の時点で分かっていたことである。

何としてもオリンピックを安全に開催しようという決意があるならば、わが国は国内における新型コロナの拡大を今年の前半までには最低限に抑えておかなければならなかった。

このような国家の非常事態に際し、わが国には憲法に国家緊急権を定めた「緊急事態条項」がない。そのため急きょ、「新型コロナウイルス対策の特別措置法」を昨年3月13日に成立させ、これに基づき(その多くを国民の善意に期待するような)「緊急事態宣言」を4月7日に発出し、まずは拡大を抑制しようとした。

しかし、この新型コロナの世界的なパンデミックの状態を見る限り、このような消極的な対応だけで乗り切れるはずがない。一時的に収まっても必ずまた次の波が来る。早急に有効なワクチンを大量に入手し、これを広く全国民に接種する態勢を整備しない限り、この新型コロナを克服できないということは明らかだった。これができて初めて「人類が新型コロナに打ち勝った証し」と大手を振って東京オリンピックが開催できるというものだ。

recep-bg /iStock

にもかかわらず、現在のわが国のワクチン接種状況は他の先進国よりもはるかに低く、英オックスフォード大などの(5月16日までの)調査によると、少なくとも1回投与された人の割合は約3%にとどまり、世界平均の約9%にも及ばず、発展途上国レベルの世界110位前後に低迷しているという。

ワクチン接種が100人当たり80回を超えた米国では大方の人がマスクを外し始めている。また、同じくワクチン接種が進むイスラエルや英国などは、大半の規制を解除して日常の生活に戻りつつある。わが国も、本来ならば現時点でこの程度のレベルになっていなければならなかった。いったい何がこのような差をもたらしたのだろう。

これらの例を見ても、やはり国家安全保障が高いレベルにある国は、この新型コロナのパンデミックにも強いということなのだと感じる。そして、これにはそれなりの理由がある。

ワクチンは戦略物資

今回の新型コロナワクチンの開発について見れば、欧米や中国の製薬企業は昨年10月の時点で臨床試験の最終段階にあり、昨年末までにはすでに承認を得て接種を始めていた。特に、米バイオ企業モデルナ社については、昨年3月にはすでに臨床試験を開始していた。なぜこんなに早く試験が始められたかというと、このモデルナ社のmRNAワクチンは、米軍兵士が派遣先で感染症が発生した場合に使用するために開発された、いうならば「軍用ワクチン」なのだ。2014年からモデルナ社はワクチン開発に参入したが、この開発にあたり米国防総省傘下の国防高等研究計画局(DARPA: Defense Advanced Research Projects Agency)が資金援助を行っている。

mRNAワクチンは、遺伝子情報を基に人工的に造った「m(メッセンジャー)RNA」を用いて、人の細胞内で抗原たんぱく質を作り免疫を誘導する仕組みとなっており、遺伝子情報が分かれば短期間で開発でき、化学合成を通じて量産できるメリットがある。正に有事に迅速に適応可能なワクチンだ。つまり、今回のワクチン開発の迅速性は、米軍が平時からこのような企業に毎年数千万ドルにおよぶ資金を投資し、常に有事に備えていたという結果なのだ。

一方、ワクチンを輸入に頼るイスラエルがなぜここまで迅速に多くの国民に対して接種が行われたのか。

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