国が「新産業」として定義!ロビイングの機能と将来像をあらためて考える

「企業から社会を動かす行動学」第3回
マカイラ株式会社 マカイラ公共政策研究所所長
  • 経産省が5月下旬、「新市場創出サービス」報告書でロビイングを取り上げる
  • 報告書では「イノベーションの社会実装に必要な外部環境の構築」と紹介
  • これからのロビイングが向かう将来像はどうなるのか?
y-studio/iStock

先週5月27日、経済産業省が大変興味深い調査報告書を公表しました。これはロビイングやルールメイキングとは何かを考えるうえで必読と考えます。

国内のロビイング市場規模「130億円超」

実はこの報告書で経産省は『新市場創出サービス』を定義したのです。これは、ロビイングやルールメイキングが担う機能を産業としてとらえたものといえます。具体的には、

中長期的な社会・経済の流れを利用して、問題設定やストーリーテリング等を通じてステークホルダーの共感を獲得し、協力を集めることで、顧客が目指すイノベーションの社会実装に必要な外部環境(規制、基準、規範、共通認識等)の構築を支援するサービス

としています。これは前回紹介した石山アンジュさんのロビイング2.0の概念と通じます。

  • 現在の新市場創出サービスには、戦略コンサルティング、PR会社、政策コンサルティング、法律事務所、規格策定機関等のプレーヤーが各々の得意分野を中心に参入しており、国内市場は130億円超と試算できるとしています。
  • 新市場創出サービスのそれぞれの機能領域に、どのようなサービス提供者が存在しているかを産業マップ(カオスマップ)に整理しています。手前味噌ですが、私が所属するマカイラ株式会社もリストアップされています。

これからのロビイングが向かう将来像

それでは我が国のロビイングはどうなっていくのでしょうか。上記の整理や今までの連載を踏まえて、筆者は、以下のように予想します。

①企業側・社会側の意識変革の予感

企業側は、狭義の意味での市場分野には入りきらないものを非市場分野として新たに認識していきます(非市場戦略としての経営戦略)。

また、外部環境を外在的なもの、所与のものとせずに、自ら『構築』するものだと考えるようになります。

②企業の役割

自らが思い描くイノベーションの社会実装を目指して、外部環境を『構築』しようとする企業は、消費者・生活者の視点であるべきサービスやその使い方、結果としての社会への影響を考えるようになります。結果、経営に直結する政策渉外担当の専門家『Chief Public Policy Officer』を置くようになります。

Yagi-Studio/iStock

③新市場創出サービスの役割

上記②を各企業が行おうとするとき、企業は法令・商慣行・社会的認識等の壁にぶつかります。その壁を突破して新たな外部環境を作り出す支援をしていきます。

  • 非市場戦略としての経営戦略のグランドデザイン作成の支援
  • 法令の改変提案、行政との連携、社会の支持獲得など実際の実行レベルでの支援
  • 人々の共感を生み出すクリエイティブ活動の支援

④新たな政策形成過程の構築

各企業の経営者及び政策渉外担当者、新市場創出サービス関係者、消費者・生活者、政治家、官僚等による政策コミュニケーションが深化していくことで、イノベーション創出により効果的な政策が形成されるようになります。企業側は、自分の要望を単に陳情して、『あとはまかせた』ということにするのではなく、関係者と討議を重ねながら、具体的な精緻な提案や制度を共創するという視点をもつことが必要です。

第4次産業革命により縦割り構造が完全に崩壊します。その中では、いろんなことの知見が幅広く集約される『仕組み』を意図的に作る必要があります。すべての事象に通じている人は存在しないため、種々の領域の専門家を『架橋』する人材の育成、架橋する組織や討議の場の仕組みづくりが必要というのが筆者の考えです。

その中で、いわゆるロビイストと呼ばれる人(企業各社に存在する政策渉外分野の人間と、新市場創出サービスに所属する人間)の役割は大変重要になってきます。21世紀最もセクシーな職業はデータサイエンティストという言われ方をよくします。筆者は、ロビイストもそれに匹敵すると思っております。

【次回予告】
ロビイング業務に求められる素養など実践を書いていきます。
(6月末予定)

 
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