沖縄の安全保障問題で、中国・北朝鮮より日本を脅威に論じてしまう「自己中」な人たち
「安全保障センスのない」彼らに決定的に欠けていることは?- 沖縄本土復帰50周年に際し、「安全保障のセンスのない」人たちの言説が横行
- ウクライナ危機で国防論議の盛り上がりを警戒。彼らのメンタリティの特徴とは?
- 軍拡競争の負のスパイラルを恐れているが、彼らにとって不都合な現実とは?
先月15日は沖縄本土復帰50周年であった。このイベントをきっかけに、大手メディアでは基地問題で揺れる現地からのレポートを始めとして、見応えのある報道がいくつかあった。
ところがごく一部メディアやコメンテーターたちの論評には、実に視野の狭い、まるで安全保障や戦略に関するセンスのない論評や発言があった。
なぜセンスがないのか。
結論だけいえば、脅威を及ぼしてくる存在が完全に忘れられているか、完全に無視されているからだ。これは沖縄の問題を考える上で非生産的なだけでなく、むしろ危険なものであると考える。以下で簡潔に説明してみたい。
一体「誰」が脅威なのか?
今回の復帰問題と関連付けて議論されている中で多く聞かれるようになったのが「台湾有事は日本有事」というフレーズだ。
おりしも現在進行中のウクライナ危機もあって、日本では中国の習近平国家主席をロシアのプーチン大統領になぞらえる議論が盛り上がっている。
だが「安全保障センスのない」彼らはそのような議論の盛り上がりを警戒する。そして「日本有事」は実質的には「沖縄有事」でもあるのにも関わらず、その議論の中に「沖縄県民の意思」が出てこないことを問題視するのだ。
たとえばその典型的なものは、毎日新聞の論評欄に掲載されたジャーナリストの渡辺豪氏の意見である。彼は現在の台湾有事の議論をこう一蹴して見せる。
沖縄住民の犠牲をよそごとのように捉え、非現実的な「国防」を論じるメンタリティーは77年前と何ら変わっていない。
このような「沖縄住民の犠牲」を強調する議論は、日米が抑止に失敗したら沖縄が戦場になる蓋然性の高さから考えれば、実に説得力のある議論のように感じる。ところがこのような議論の前提に決定的に欠けているのは「誰が脅威を及ぼし、誰が戦争をしかけようとしているのか」という視点だ。
もし「台湾有事」であるとすれば、最大の問題点は、少なくとも台湾を軍事的に侵攻しようとしている中国の政策やその姿勢となるはずだ。だが、彼らの議論の中では中国(や北朝鮮)の役割はまったく考慮されておらず、とにかく「日本政府が心配だ」となってしまうのだ。
「日本さえ軍拡しなければOK」なのか?
さらに興味深いのは、そのような脅威に対して日本が(アメリカと共に)軍備を増強させようとすると、その動きを異様に警戒することである。
彼らの中では「日本政府は常に判断を誤る」という考えがあるようで、まるで日本側が何も仕掛けなければ安全は自動的にもたらされる、と言わんばかりだ。
このような議論は、専門用語で「安全保障のジレンマ」(Security Dilemma)と呼ばれる概念を援用したものだ。元はジョン・ハーツという学者が唱え、先ごろ亡くなったコロンビア大学のロバート・ジャーヴィスという学者が70年代に再興した概念だ。
そのエッセンスを言えば、一方が安全を得ようとして軍事力を拡大すると相手の不安を巻き起こし、それによって相手の軍事拡大のインセンティブは高まり、そこから軍拡競争の負のスパイラルに入る、という考え方である。
彼らがこの概念を正確に理解しているかどうかはわからないが、いずれにせよ「こちらが仕掛けると状況は悪化する」という考え方がベースにあり、しかも「軍拡してくる相手」は、はじめから存在しないことになっているため、結果として「日本さえ軍拡をしなければOK」という結論になる。
ところが現実は異なる。不都合なことに、その肝心の「相手」は、国防費を30年にわたって毎年2ケタレベルで増大させ、日本の防衛費の4倍を支出して領海・領空侵犯を頻繁に行ったり、あるいは、日本国民を拉致し、核弾頭が搭載可能なミサイルを開発し発射実験を繰り返している国なのだ。
むしろ危険を呼び込む危険性が…
「本物の脅威を及ぼしてくる相手」が存在しないことになると、日本の行動いかんで世界の安全保障の状況が劇的に変わる、もしくは日本の影響力はアメリカ並みに大きい、という想定になってしまう。日本さえ何もしなければ平和は維持されるが、日本が少しでも軍拡すれば国際社会に戦争を引き起こす、というのだから、これも一つの「自国中心主義」というほかないだろう。
日本、とりわけ沖縄に最大の脅威を及ぼしてくる相手は中国(や北朝鮮)であり、その相手の意志や行動を考慮にいれない、もしくは完全に無視して議論をすることは、そもそも状況を正確かつ客観的に捉えられないということだ。
そしてそれは、単なる知的怠慢というだけでなく、日本の安全を真剣に考えられなくなるという意味で、逆に危険な状況を呼び込むような態度であると言えないだろうか。
「敵を知り己を知る」ことは、孫子の言葉を引用するまでもなく、国際関係における安全保障や戦略環境を知る上では欠かせないセンスそのものなのだ。
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