物価上昇加速でマンション価格もさらに上昇?インフレと不動産価格の意外な関係

見え隠れする「⻩信号」のサインとは?
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士
  • 「値上げラッシュ」は高値続きのマンション価格にも影響するか?
  • 住宅関連品は深刻な値上がり。インフレと住宅価格の歴代相関をみると…
  • 建材高、住宅設備高の住宅価格への影響は?新築住宅市場の今後は?

「値上げラッシュ」が加速している。とくに食品の値上げが目立つ。世界的な即席めんブランドである日清食品では、即席袋麺や即席カップ麺などの製品価格を、6月1日の出荷分から5~12%アップ。味の素も家庭用の一部製品の出荷価格を6月1日から約2~13%引き上げた。帝国データバンクの調査によると、食品主要105社が年内に値上げを計画(既実施分含む)している製品は「1万品目」を超えるという。

食品値上がりの理由は、世界的な食料品相場の上昇、原油価格の高騰による物流費や原材料費の値上がり、急激な円安など、コストの増加が止まらないためだ。だが、コスト増による値上がりは食品にとどまらない。電気料金、ガス料金、家具や家電などの日用品、文房具、紙製品など、多くの生活必需品やサービスがすでに値上がり、若しくは今後値上がりしていくと見込まれている。

なかでも、住宅関連品の値上がりは深刻だ。

y-studio /iStock

ウッドショックによる木材高騰、給湯器やトイレ製品など住宅設備機器、壁紙やサッシ等の各種住宅建材など、住宅に関するありとあらゆるものの値上がりが昨年から続いている。建設工事で使用される資材の総合的な価格動向を示す「建設資材物価指数」(※)は、建設総合で前年同月比プラス15.7%、建築部門は前年同月比プラス20.2%と大幅に上昇している(いずれも今年4月分、データ出所は一般財団法人 建設物価調査会)。

建築材料・住宅設備機器業界最大手のLIXILは取扱製品の一部を昨年から値上げしているが、なかには最大で約40%値上げした製品(浴槽等)もある。

インフレになると住宅価格も上昇?

5月20日に公表された消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.5%の上昇となり、与野党ともに急激なインフレだとして大騒ぎしている。しかし、生鮮食品とエネルギーを除くと未だ前年同月比で0.8%の上昇にとどまっている。つまり、現時点では本格的なインフレが始まったとは言い難い。

ただ、これから様々な物やサービスが値上がりを続け、本格的なインフレ状態となる可能性も大いにある。では、インフレになるとマンションなどの不動産価格も連動して値上がりするのだろうか。

答えは「No」である。少し意外に思われるかもしれないが、インフレやその逆のデフレ下においても、不動産価格は物価動向と少し違う値動きをする場合がある。もちろんインフレ下では住宅価格が上振れしやすく、デフレ下では下振れしやすい傾向はあるが、物価動向と住宅価格は常に連動するわけではない。

ここに面白いデータがある。過去の政府統計データを見ると、平成バブル景気で土地の値上がり率が最も高かったのは1988年。前年比プラス46.6%(地価公示、三大都市圏)で、過去に類を見ない大幅な上昇となった。しかし、1988年のCPIは0.7%と、かなりの低水準であり、バブル期でCPIが最も高かった1991年でも3.3%にとどまっている(※2)

※2 参考:国土交通省 地価公示総務省統計局 消費者物価指数

また、デフレ下でも不動産価格は値上がりする場合がある。下のグラフが示すとおり、リーマンショック以降、長期デフレ下においても不動産価格は緩やかに上昇を続けている。とくにマンション価格は上昇が顕著なのが分かる。

出所:不動産価格指数 国土交通省
※不動産価格指数とは:国土交通省が年間約 30 万件の不動産の取引価格情報をもとに、全 国・ブロック別・都市圏別等に不動産価格の動向を指数化したデータ。

このように、インフレであってもデフレであっても、需給バランスや社会情勢によって不動産価格は物価動向と完全には連動しない場合があるのだ。

建材高、住宅設備高が住宅価格に与える影響は?

物価高と不動産価格が常に連動しないといっても、実際に建築コストが増せば、住宅供給事業者はその分を販売価格の値上げで対応するか、販売価格に転嫁できない場合は利益をコスト増分だけ減らすしかない。だが、首都圏を中心に不動産価格が値上がりを続けている現在は、建築コスト増を販売価格に転嫁しやすい時期だといえるだろう。

しかし、その値上がり状態にも「⻩信号」が見え隠れし始めた。

公益財団法人 東日本不動産流通機構のデータによると、首都圏中古マンションの成約件数4か月連続で減少、在庫件数は3か月連続で増加しているのだ。(※いずれも前年同月比)

今のところ成約価格と成約㎡単価は前年同月比でプラスとなっているが、今後も在庫数が増え続け、成約件数が減少していくとすれば、いずれは価格の調整局面を迎えることになるだろう。

中古マンション市場が価格調整局面に入れば、昨年の平均発売価格がバブル期の平均発売価格を超え、今なお好調な新築マンション市場にも影響を及ぼしかねない。中古マンション市場が価格調整局面を迎え、新築マンションの価格が市場原理により「上げ止まり」すれば、建築コスト高を販売価格に転嫁しにくくなるだろう。

首都圏各地でマンション建設は進むが…(Yuzu2020/iStock)

新築住宅市場の今後は?

4月の新築マンション初月契約率は79.6%で、3か月連続の70%台をキープし、堅調といえる状況が続いている(※不動産経済研究所調べ)。

新築戸建も値上がりを続けている。不動産情報のプラットフォーム事業を展開するアットホーム(本社:東京都大田区)の調査によれば、首都圏の新築戸建の平均価格は4,312万円で、前月比プラス1.0%と上昇(2022年4月期)。6カ月連続して調査対象の全8エリアが前年同月を上回るなど、上昇傾向が続いている。

ただ、首都圏を中心に戸建分譲事業を展開する中堅戸建デベロッパーの営業管理職はこう話す。
昨年に比べて、発売開始から成約までの時間が少し長引くようになった。反響(問い合わせ)の数も少し減ったようだ

コロナ特需とも言われた住宅需要にも一服感が出てきたようだ。様々なモノやサービスのインフレ元年になるかもしれない今年。マンション、戸建ともに未だ価格上昇傾向が続く新築住宅市場の動向に注目したい。

 
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士

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