「アナログ規制」4000件見直しも、岸田政権が「普通の規制改革」をやるのか疑問のワケ

「手続きのデジタル化」だけに終わるのか?
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • デジタル臨調が「アナログ規制」約4,000見直しへ。岸田政権の改革本気度は?
  • 渡瀬裕哉氏「現在の規制改革は手続きをデジタル化するだけのものに終わる」
  • 規制改革で問うべき本質的な問題とは?

政府のデジタル臨時行政調査会(臨調)が先週3日、目視や実地での検査などを義務付ける「アナログ規制」約4,000を見直し、9月末までに各省庁が工程表を提出する方針を明らかにした。

見直される規制の代表例としては、ドローンを使ったダムの目視点検や、建設や造船現場でモバイルカメラを活用した遠隔監視による巡視などが挙げられている。政府としてはGDPの伸び悩みがデジタル化の遅れと捉え、少子高齢化が進む今後を見据えた技術革新に対応したい考えだ。

seregalsv /iStock

デジタル化だけで終わる?

問題は政府、いや岸田政権がどこまでこの「規制改革」に本気なのかだ。岸田首相自身は昨年9月の自民党総裁選で「小泉政権から続く新自由主義からの転換」を掲げ、就任最初の所信表明演説で「改革」という言葉を「創る」「拓(ひら)く」などへの言い換えに終始するなど、“反改革”的な言動が多かった。ちなみに1970年代以降の歴代首相の所信表明演説で「改革」の2文字が消えたのは初めてのことだった。規制改革に熱心な人たちからは、政権の“出自”からして首相自身の姿勢に疑念がつきまとってきた。

百歩譲って、岸田首相個人の思いとして、小泉首相のような派手なパフォーマンスに象徴されるように「改革」の文字を振りかざすことよりも、実効性を挙げていくことにこそ意味があるというつもりかもしれない。

牧島規制改革担当相が3月にデジタル臨調に提出した資料によれば、見直しの対象となる約4,000のアナログ規制は、4万を超える法令から「アナログ的な規制を洗い出し」たものだ。実はアナログ規制だとジャッジしたものは、全部で5354もあったが、直ちに見直すべき対象として3895を選んだ。

一方で、ほとんど誰も指摘しないが、総務省が2018年度まで公開していた各省庁の「許認可等の統一的把握結果」では、15,475の規制があった。個々の規制について定義や集計の仕方が違うから一概に比較するつもりはもちろんないが、この数字を分母とすると、3,895/15,475で4分の1の規制を変える計算にはなるが、日米の規制改革に詳しい早稲田大学招聘研究員の渡瀬裕哉氏は「デジタル庁を中心に進めている現在の規制改革は、国民の経済活動・社会活動を縛る規制自体の削減ではなく、あくまでもその手続きをデジタル化するだけのものに終わる」と警鐘を鳴らす。

令和になっても政府のヤル気が微妙な件

渡瀬氏もSAKISIRUで過去に指摘しているが、そもそも政府の規制は増える一方だった。「許認可等の統一的把握結果」は以下のように小泉政権以後の20年近くで10,621→15,475と1.5倍増しだった。この間、当の小泉政権をはじめ「規制改革」を力説する政権や政治家はいたが、数だけはダラダラと積み重なる結果が残っている。

総務省行政評価局

「許認可等の統一的把握」は、中曽根政権時代の1985年の閣議決定に基づき、定期的に実施されていたものだが、ここにきて問題なのは、この根拠条項数も「令和になってからは政府は数えることすら“放棄”するようになった」(渡瀬氏)ことだ。確かに総務省の発表は、2018年前を最後に止まったままだ(下記)。

今回のアナログ規制見直しで各種の規制を総点検した際、4万を超える法令があったというが、調査の定義が違うにせよ、政府が「これは規制である」と正確に認識しているのか、不安がつきまとう。まさかそんなことはないとは思うものの、万が一、規制をかける側ですらあやふやな実態があるのなら、規制に縛られる民間サイドが盲目的に振り回される構図が固定化しかねない。それではイノベーションを生む土壌などできるわけがない。

デジタル臨調で発言する岸田首相。隣は牧島デジタル相(3日、官邸サイト)

果たして規制改革に対し、岸田首相は「手続きのデジタル化」にとどめず、ガチンコでやるのか。雲行きが怪しくなったのは、農業のように族議員や抵抗勢力が多い分野に対しての姿勢だ。

本サイトでも3月に報じたが、菅政権時代、農水族の抵抗で「企業による農地取得」の全面解禁を見送る代わりに、せめてもの実施が閣議決定されていた「企業の農地取得に関するニーズ調査」が、期限である2021年度間際になっても行われていないことが、年度末間際に維新・柳ヶ瀬総務会長の国会質問で発覚したことがあった。

渡瀬氏は「より本質的な問題は、およそ1日1つのペースで増え続けてきた規制を減らす努力が必要で、それが他の先進国で行われてきた普通の規制改革だ」とも指摘する。アメリカやイギリスなどでは、新しい規制を1つ作る際には、2つの規制を廃止する「2対1ルール」を導入して成果を上げてきたが、いまの政府では、「アナログ→デジタル」の側面に光が当たりすぎている。

規制絡みの政策論議は“玄人向け”で、一般国民はもちろん野党もマスコミも積極的にやっているとは言い難いが、参院選に向けて、岸田政権の規制改革の姿勢を問い詰める動きはもっとあってもよい。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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