選択的夫婦別姓のリアル② 稲田朋美「別姓・同姓原理主義者が変化を遅らせる」
「旧姓」に法的根拠を- 稲田朋美氏インタビュー2回目。「別姓原理主義者」とは一線を画す旧姓使用制度
- 最高裁でも問題は指摘。稲田氏「旧姓に法的根拠、法改正は避けて通れない」
- 「姓の問題を観念的政治闘争案件にすべきではない」と稲田氏
議論再沸騰の選択的夫婦別姓、自民党・稲田朋美氏の独自案に迫るインタビュー連載。旧姓使用の「実用性」と、家族としての「氏」を両立させるなどした稲田氏の「婚前氏続称制度」について前回は狙いを聞いたが、旧姓使用の拡大だけで不便を解消できない人が実際にいる中で、党内保守派が強行に同姓にこだわる背景は何か。稲田氏の見解は?
(#1はこちら)
――むしろ、稲田議員の案であれば「実用面」「実務面」で通称(旧姓)を使うことができるため、「選択的夫婦別姓制度」に移行しなくても対応できる場面が格段に増えますよね。それによって社会で女性が結婚前も結婚後も、継続的に活動しやすくなる一方で、ファミリーネームとしての「氏」を守ることにもつながる。
しかしこれに反対している保守の立場の方は、「アリの一穴」的に、ここから家族のあり方や戸籍制度が瓦解するという危機感を持っています。
【稲田】確かに「夫婦が同姓になることを強制するな」とか、それ自体が人権侵害だ、と主張する別姓原理主義のような人もいます。が、私の案はそうした主張とは一線を画しています。私的領域での家族としてのつながりを大事にしつつ、社会における個人としての活動もやりやすくしよう、社会の変化に合わせて、変えられるものは変えようという立場です。これまでは「家か、個人か」という考え方でしたが、これからは「家も、個人も」という発想が必要。家と個人の立場は対立するものではなく、同時に双方を尊重することは可能ですから。
「民法を改正するのは戸籍制度の解体につながる」という反対意見は確かにあるのですが、私の案の場合は、戸籍への記載を変えるとしても、旧姓も明記できる、という点くらい。選択的夫婦別姓制度の導入を提唱している人たちも、ほとんどの場合は戸籍制度までなくすべきだとは言っていません。戸籍そのものではなく、「書き方」の問題に過ぎないんです。
社会の変化に合わせて変えるべきところは変えながら、必要なものを残していく。「婚前氏続称制度」は、私が国会議員になってから一貫して掲げている「伝統と創造」の理念にも基づくものです。
しかしこの案を保守派の方々にお話ししても、「通称の拡大で足りるじゃないか、一体何が困るのか理解できない」と言われてしまう。「最高裁で、ローンが組めない、契約関係が結べないなどの問題点がすでに指摘されていますよ」といっても、ピンと来ていない様子です。
――そういう人たちには「旧姓を法的に使えないことで実際に困っている人」が見えていないのでしょうか。
【稲田】そういうことなんでしょうね。旧姓が法的に使えないことで困っている事例を縷々、説明した直後に「で、一体何が困るんですか」と言われたこともあります。「だから今、言うたやん!」と徒労感を覚えることも少なくない(笑)。
――どうしてそうなってしまうんでしょう。
【稲田】一つには、確かに「(選択的)夫婦別姓」の議論が「家族か個人か」を争うイデオロギー的な論争から始まっていた面があるでしょう。別姓反対の人たちは「別姓の推進は、家族を解体して個人個人に切り離すための運動だ」と言う。そういう時代も確かにあったし、今でもそうした考えに基づいて運動を展開している人はいるかもしれない。「だからこの戦いで折れるわけにはいかない」と思いこんでしまう。
しかし現実問題として、「家族も個人も大事にしたい」「個人として結婚前から積み上げてきた実績を、結婚後も同じ名前で継続したい」という人が「なんとかなりませんか」と声を上げている。そうした人たちに結婚後も社会で責任ある仕事をしてもらうために、「旧姓」に法的根拠を持たせる議論は、避けては通れないと思うんです。

――先進国で、旧姓を法的に使用できないのは日本だけ、という事実には驚きました。
【稲田】残念だけれど、本当のことです。
――実際に困っている人たちを前に、実用的な解決策を提示するか、それとも理念としての「家族」「家名」を守ることに固執するか、という話になりかねないですね。
【稲田】そうした、ある種狭量な姿勢は「選択的夫婦別姓」推進派の人たちにも見え隠れしています。自民党内で「選択的夫婦別姓を考える議連」ができたのですが、私は「その名称にしてしまうと、夫婦別姓か否か、という二択になってしまうし、姓の問題は夫婦だけではなくて、子供も含めた家族の問題のはず。『令和時代の新しい家族の姓の在り方検討議連』などとした方がいいのではないですか」と提案しましたが、却下されました(笑)。それで、その議連には結局入りませんでした。
「選択的夫婦別姓」を取り入れるか否かという二択になって、観念的、政治的な闘争になってしまうと、物事が進まなくなり、今現在、困っている人が救われなくなってしまう。
別姓反対原理主義の人たちにも言いたいことですが、現在この件が裁判で争われていて、昨年12月に最高裁の小法廷3つのうちの2つが大法廷回付しています。今年中に最高裁判決が出ると言われていますが、判決で「別姓を選べないことは違憲である」という判決が出たら、いきなり選択的夫婦別氏にならざるを得ません。
ならばせめて、「婚前氏」に法的根拠を持たせる法改正をしておけば、「少なくとも実用面で生じる不利益はカバーできている」ということになるはずです。……いい案だと思うんだけれど、どうも孤立しているんですよね(笑)。せめて検討の俎上には載せてもらいたい。
(最終回に続く。稲田氏へのインタビューはこのあと同性婚問題などにも及びますが、その前に次回は稲田氏の意見に対する異論をご紹介します)
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