バイデン大統領は知的財産権を守れるのか…WTOで暗躍する中国の影

WTOで議論される「アリの一穴」に危惧
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
  • アメリカの国益の源泉となっているのが莫大な収入を生む知的財産
  • 知財は経済成長の要だが、WTOで「アリの一穴」になりうる議論が…
  • ワクチンの知財一時放棄を求める途上国。その裏にはあの国が…

オバマ元大統領とトランプ前大統領は違いが強調されることが多い。しかし、両者の共通点として明確に挙げられる点もある。それは知的財産権を守るということだ。アメリカの知的財産権収入は増加しており、ライセンスフィーによる莫大な収入を守ることは彼らの国益となっている。

知財はイノベーションの要

Natali_Mis /iStock

オバマ元大統領はTPP加盟を通じて成長著しいアジア太平洋地域における知財保護を徹底させることを望み、トランプ前大統領は中国に対して知財を巡る不公正な慣行を是正するように強く求めた。

バイデン大統領政権でも同様に新たに発足したIPEFでは知財保護も重要なテーマの1つとなっていくだろう。IPEFの特徴としては中国に次ぐ人口・経済大国であるインドを含めた形で知財保護が議論されることが注目に値する。

知的財産権はイノベーションを促進する要となるものだ。現代社会では生産設備の有無による優位性は限定的であり、先進国企業は莫大なリソースを注ぎ込む研究開発がもたらす恩恵は大きい。そして、その研究開発費用を回収するための仕組みが知的財産権によるライセンスフィーである。したがって、知財保護がなければ人類の産業発展を望むことは困難となる。

しかし、途上国にとっては先進国の知的財産権は“手が届く場所にあっても自由に食べられない”リンゴだ。

実は日本も戦後復興の際に知財管理が甘かったアメリカの技術を利用することで経済成長を実現した経緯がある。その後、アメリカは対日政策の反省を受けて知財管理を強化し、中国など後発の国は知財窃盗に手を染めざるを得ない状況となった。知財を獲得することはその国の経済的成功に直結する問題だ。

現在、WTOで議論されているTRIPS協定(≒知財保護)の免除の議論は、先進国の知的財産権保護を無力化していくためのアリの一穴となる可能性がある。

知財管理にヒビ入れ狙う中国

インドと南アフリカが提案した新型コロナに対するワクチン及び治療薬に対する知財の一時的放棄は極めて重要な問題だ。NGOや途上国などは人道上の問題を主張し、先進国の製薬企業に対して知的財産権を事実上放棄するように求めている。

しかし、本来は知的財産権保護を実現するためのWTOで知財の放棄を求めることは筋違いも甚だしいと言えるだろう。当然であるが、このような動きの背後には知的財産権の管理体制にヒビを入れたい中国が存在している。

バイデン氏(副大統領時代)と習近平氏(米国務省flickr:2015年)

中国は国際機関における影響力を確実に強めており、西側の国際秩序を形成する知的財産権保護の枠組み自体を弱める動機を持っている。WTOのような国際機関が知的財産権保護ではなく、その放棄を求める場となることは極めて由々しき事態だ。

したがって、日本政府は先進国の一員として、センチメンタリズムに流されることなく、アメリカの知財保護の取り組みに協力するべきだ。その方針は自国の利益になるだけではなく、結果としてイノベーションを守ることで世界全体の利益を促進することに繋がることになる。

知的財産権管理を緩め、研究開発費にリソースを割く企業がなくなれば、人類全体の社会問題を解決しようとする動機が社会の構成員から失われることになる。

我々は現代社会におけるリンゴは、野生のリンゴではなく、手間暇かけて開発された特別なリンゴであることを認識しなくてはならない。

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