急落するビットコインだが、その真価がこれから問われると思う理由

ここにきて米資産運用大手が401kに組み込む意味とは?
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
  • 止まらぬビットコインの価格下落、インフレヘッジのはずがリスク資産化
  • 世界的にインフレが高進する中で、米資産運用大手が401kに採用した背景
  • 仮想通貨の時代で世界的インフレは初。ビットコインに再度期待される点は?

ビットコインは昨年11月に史上最高値を付けた後、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)が金融政策を引締めに転じたことから下降トレンド入りし、下落傾向が現在まで続いている。今月初めにアメリカの5月の消費者物価が前年比8.6%と1981年以来の上昇を記録した際には、ビットコインの価格は大きく下げた。

Vertigo3d /iStock

インフレヘッジのはずがリスク資産化

もともとビットコインは、国家の信用の裏付を必要とせず、あらかじめ発行額の上限が決められた有限なものということなどから金に類似した性質を持つとされ、デジタルゴールドとも呼ばれている。このため資産をビットコインにして持てば金のようにインフレ対策(インフレヘッジ)になると考えられて来た。言い換えれば物価が上がればビットコイン価格も上がるはずだった。

しかし上記の通り現状では、消費者物価が上昇するとFRBのさらなる金融引き締めが意識されてビットコインの価格が下がるため、まったくインフレヘッジになっていない。金が1オンス=1800ドル台で底堅い動きを続けているのと比べると、金とビットコインの値動きには相関が全然みられず、むしろビットコインの値動きは、アメリカの株価、特にハイテク銘柄の比率が高いNasdaq取引所の指数との相関が高くなっている。これはとりもなおさずビットコインが株や債券などと同様にリスクを取って値上がり益を狙うリスク資産になっているということだ。

筆者作成

なぜそのようなことになったかということだが、ここ10年以上デフレ傾向の経済を刺激するために主要国の中央銀行がこぞって超緩和的金融政策を採用し続けた結果、過剰流動性が発生し、それが株、債券、不動産に止まらずビットコインなどの仮想通貨市場にも流入して価格を押し上げ、それが値上がり益を期待する新たな資金の流入を呼び込んでさらに価格が上昇するという循環の中で、ビットコインもリスク資産化してしまったのだ。

ビットコイン401K採用の裏読み

それでは今後もビットコインはリスク資産であり続けるのかということだが、私はそうは思わない。ビットコインの値下がりが続く中で、これから短期の値上がり期待の投資家は市場から退出して行くので、ビットコインのリスク資産としての性格は薄れていくだろう。

そしてその一方で、上記の通りアメリカの消費者物価が前年比8.6%と1981年以来の上昇を記録し、欧州でもユーロ圏の消費者物価が過去最高の前年比8.1%となるなど世界的にインフレが高進する中で、これまでリスク資産性の陰に隠れていたビットコインのインフレヘッジ機能に人々の目がより向くようになり、それとともに現在下がり続けているビットコイン価格も底打ちをするのではないだろうか。

ニューヨーク中心部にあるフィデリティ本社(FinkAvenue /iStock)

レジェンド投資家のレイ・ダリオやポール・チューダー・ジョーンズをはじめとする超富裕層が、インフレヘッジ目的で資産の一部にビットコインなどの仮想通貨を組み込んでいることはよく知られているが、最近ではアメリカの大手資産運用会社のフィデリティが、企業に勤める人たちの退職プログラムの401kでビットコインに投資することができるようにすると発表している。

もっともこれについては米労働省がハイリスク資産のビットコインを401kに入れることに強烈な懸念を示し、イエレン財務長官も9日に開催されたニューヨークタイムズのイベントで質問に答えて「私は、これを退職後に備えて貯蓄している多くの人々に勧めたくはない。非常に高リスクの投資だ」として401Kに組み入れることを批判した。しかしフィデリティとしてはビットコインに対する人々のニーズの高まりを感じ取ったからこの決定を下したのだろう。やはり、最近のインフレの高進は、人々に「何とかして資産を守らなくては」と思わせるのに十分なのだ。

インフレ時代本格化に初めて直面

この思いが切実になっているのが、高率のインフレで日々お金の価値が溶けて行っている国の人たちだ。例えばアルゼンチンでは、4月の消費者物価指数は前年比58.0%の上昇と高率のインフレが続いているが、国民は米ドルなどの外貨を買うことも制限されているため、ビットコインを買って自己防衛している。前年比70%以上のインフレが続くトルコでもそうだ。

また、アメリカの大手暗号資産取引所のジェミニ(Gemini)が昨年11月から今年2月にかけて世界20か国の約3万人を対象にアンケート調査した結果によれば、自国通貨のレアルがドルに対して過去10年間で200%以上減価したブラジルでは、アンケートの回答者の41%が仮想通貨を保有しており、またアメリカでは既に仮想通貨を保有している回答者の40%が仮想通貨はインフレヘッジになると考えているそうだ。

このようにインフレが進む中で、ビットコインのインフレヘッジ機能への期待は今後ますます高まることと思われる。もっとも期待どおりのインフレヘッジ効果が上がるかどうかは今後のビットコインのパフォーマンス次第だ。ビットコインはこの世に生まれてから10年ちょっとしかたっていない若い通貨で、この間に主要国はインフレを体験したことがなく、むしろデフレないし低インフレの時代が続いていた。これから世界がインフレの時代に入っていく中で、ビットコインがインフレヘッジ機能をしっかり発揮するかどうか、その真価が問われるのはこれからだ。

 
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

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