累積赤字309億円!ネット民怒りのクールジャパン統廃合検討、元凶は何だったのか?
そもそもから解説、海外放送事業は「やればやるほど赤字」- 官民ファンドのクールジャパン機構が累積赤字309億円で統廃合検討へ
- 2013年に発足した当初から「汚いカネ」と批判された官製ファンドの実態
- 電通関係者「やるほど赤字が増える」と嘆く事業も。元凶を突き止めると…
財務省の財政制度等審議会は6月20日の分科会で、官民ファンドのクールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)について、“赤字体質”の改善が見込めない場合、組織の統廃合を念頭に整理すべきだとする方針を示した。このニュースは即日、ツイッターで批判や怒りの声が相次ぐなど、ネット上でも大きな話題になった。
同機構の2021年度末時点における累積赤字は309億円。コロナ禍で投資先の企業の売り上げが大きく落ち込むなど、20年度末の赤字が231億円に達したことに伴い、昨年5月に改善計画を公表。それによると、21年度末の赤字を257億円にとどめる目標だったが、計画よりも52億円も赤字が膨らんでしまうという体たらく。当然ながらこの赤字は国民の血税であり、ここまで野放図に赤字を垂れ流していれば統廃合もやむなしだろう。

「汚いカネ」と批判された官製ファンド
クールジャパン機構はアニメや日本食など、わが国独自の魅力ある商品やサービスを海外に売り込む事業を支援するため、13年に国と民間企業の出資で設立された。“クールジャパン”は前年12月に誕生した第二次安倍政権が掲げるアベノミクスの成長戦略の1つで、同機構の設立は内閣府と経済産業省の肝煎りとも言えるものだった。経産省が絡んでいることからもわかるように、同機構はコンテンツへの補助金を配分するような文化事業を行う機関ではない。国と民間が資金を出し合って基金を作り、投融資による配当や収益を分配する官民ファンドである。
当初から指摘されたのが、クールジャパンの中身の“薄さ”。要は外国人がクール(かっこいい)と感じる日本のコンテンツであるわけだが、経産省ではマンガやアニメ、ゲーム、ファッション、食、伝統文化、デザイン、ロボット、環境技術などを具体例として挙げている。だが、マンガとアニメを除けば日本独自のものは乏しく、官製クールの薄っぺらさがかえって浮き彫りとなり、それ故にスタート時からその先行きを不安視する向きもあった。
また、当時は国が中心となって民間の企業やプロジェクトに投資する政府系ファンドの設立が相次いでおり、クールジャパン機構もその1つ。当時、設立されたファンドの総資金量は4兆円にも及んだそうで、まさに「ブーム」と呼ぶに相応しい乱立ぶりだった。当時、「官製ファンドは汚いカネ」とファンドブームを批判したのが、エコノミストで楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏だ。
そもそも潤沢な資金量の官製ファンドが投資ビジネスに参入すれば、資金面で劣る民間ファンドは太刀打ちできない。山崎氏はこうした“民業圧迫”の観点からだけでなく、“官民ファンドのお金は、官僚と特定の民間企業・民間人とが癒着してメリットを分け合うための種ゼニなのであり、「汚いカネ」と言うしかない”と批判を展開した(「ダイヤモンドオンライン・山崎元のマルチスコープ」)。

電通関係者「やるほど赤字が増える」
そして18年4月、会計検査院による「官民ファンドの投資損益調査結果」が公表されるに至り、クールジャパン機構のデタラメぶりが白日の下に晒されることとなる。アベノミクスの推進役として相次いで設立された全14の官民ファンド(17年3月末時点)の4割強に当たる6つのファンドが損失状態になっていることが判明したのだ。中でもクールジャパン機構の損失は突出しており、17年3月末時点での投融資17件、総額約310億円のうち損失は約44億円にも上るという目も当てられぬ状況だった。
17年4月時点におけるクールジャパン機構の出資金は政府出資586億円、民間出資107億円で総額693億円に上っていた。投資対象は①メディアコンテンツ②ライフスタイル③食・サービス④インバウンド⑤分野横断――の5ジャンルだったが、設立から満4年を経過した時点で25件、約529億円が投資されていた。ところが投資案件の4割に当たる事業で、赤字が累積しているという惨状だった。特に、海外における日本の魅力的なコンテンツ展開の要だった放送事業「WAKUWAKU JAPAN」と全館クールジャパンの百貨店「ISETAN the Japan Store」といった代表的案件がともに迷走状態にあったのだ。
前者はコンテンツ自体の質的問題などから、番組の視聴率が低迷。電通関係者が「やればやるほど赤字が増える」とこぼすほどの実情だった。一方の後者はマレーシアのクアラルンプール中心部に地下1階・地上4階という日本製品だけを展示したデパートとしてオープンしたが、自治体によるアンテナショップの拡大版でしかないというのが現地の評価で、歓迎されたのは開業当初だけだった。
当時、現地ではマレーシア進出の日本企業は3年以内に7割が撤退すると言われており、そもそも成功の可能性も薄かった。政府系ファンドは政府出資や保証付き債券発行など、リスクを取らずに資金を調達することができるため、事業見通しも甘くなりがち。仮に焦げついたとしても、投資計画をつくった官僚たちも時が来れば出向先から元の所属官庁に戻るのだから、責任など取ろうはずもない。
見通しの甘さと無責任さ――。コロナ禍というインバウンドにとっての不運もあったかもしれないが、経緯を振り返ればクールジャパン機構の失敗は官僚体質が招いた必然だと言える。統廃合だなんてむしろ遅きに失したくらいだ。
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