高齢者の自宅売却トラブル増加、老後資金のための「リースバック」に潜む落とし穴とは?
住宅市場活性化のウラに悪質業者...国が喚起する4つの注意点- 高齢者が老後資金確保の自宅を「リースバック」で売却するケースが増加
- しかし消費者センターに相談する事例も増加。悪質業者の手口とは?
- 実態は「オーナーチェンジ物件の売買」。国が提起する4つの注意点とは

近年、高齢者が老後の資金確保や介護施設への入所資金を捻出するために自宅を「リースバック」という仕組みを利用して売却するケースが増えている。リースバックとは、自宅を売却して現金を得て、売却後は毎月賃料を支払うことで、そのまま自宅に住み続けられる仕組みのことだ。
リースバックサービスを提供する事業者のホームページには、「リースバックで得た資金は使途制限無しで自由に使えます」「自宅に住み続けながらまとまった資金が手に入ります」「借り入れではないので金利がかかりません」など、魅力的なフレーズが並んでいる。
しかし、全国の消費生活センターには、高齢者からの自宅売却に関する相談が多く寄せられている。とくに、70歳以上の相談者は年々増加し、2020年度は、相談全体に占める70歳以上の相談割合が52.3%にのぼっている。
高齢者を狙う悪質業者
全国の消費者センターに寄せられた相談事例のなかには、明らかに高齢者を狙った悪質なものも少なくない。
一人暮らしの高齢者宅を突然、不動産業者が訪ねて来て、長時間に渡り売却を勧めるケースや、精神疾患を抱える高齢者の自宅を強引に買い取り、その場で賃貸借契約を結ばせるケースなどもある。
他にも、「このマンションは10年後に取り壊される」などと嘘の説明によって不当に安い価格で売却をさせられたケースや、認知症の症状がある高齢者が売買契約を結ばされてしまったケースなどもある。買取金額が安く、住み続けるための賃料が高い場合は、わずか数年で売却資金が枯渇して賃料が支払えなくなり、自宅を出ていかなければならい状況に陥るケースもあるという。
これらのケースでは、自宅売却の売買契約を結ばされてしまった高齢者が相手方の業者に契約の解除を申し入れたが、無条件で応じる業者はいなかった。
民法では、認知症などで意思能力がない人の場合、契約行為は「無効」または「取り消す」ことができるとされている。また、消費者契約法では事業者が一定の重要な事項について虚偽の情報を提供し消費者がその事実を誤認して契約締結をした場合に取消権を認めている。
しかし、それ以外のケースで一旦結んでしまった自宅の売買契約を取り消したり解約することは難しい。基本的に自宅売却の契約は「クーリングオフ」ができない。
クーリングオフは、売主が事業者で買主が消費者の場合に適用される制度だ。消費者(買主)保護を目的としているため、売主が事業者ではなく、買主が事業者(主に不動産会社)の場合は適用外となるのだ。
リースバックは「自宅を売る」ことだ!
自宅に住み続けながらまとまった資金を得られるリースバックは、リタイア後の高齢者の目にはとても魅力的なサービスに映るだろう。とくに、老後の生活資金に不安を感じている高齢者なら尚更だ。
ただ、リースバックは一見すると新しいサービスだが、この仕組みは従来からある「オーナーチェンジ物件の売買」と同様の取引だ。例えば、中古アパート等を売買する場合、一般的には賃借人が入居したままの売買となり、賃借人との賃貸借契約を新しい買主が貸主として引き継ぐことになる。
オーナーチェンジ物件は、新しい買主がその物件を自己利用(その物件を自分の居住用として利用すること)することができないので、売却価格は賃料収入の額によって大きく変わってくる。戸数が多い賃貸マンションやアパートなら賃料収入が多く見込めるため、売却価格もそれに応じて高くなるが、基本的に賃借人が1世帯である一戸建てや区分マンションの場合は賃料収入も多くは見込めない。つまり、売却価格もそれに応じて低くなってしまうのである。

あくまで一般論だが、リースバックの場合、自宅の買主は事業者(主に不動産業者)となるケースが多いため、一般市場で売買するよりも売却価格は低めになる。買い取った事業者は、自宅を再販売するかしばらく所有し続けるかになるので、どちらにする場合でも賃料設定は高めにしておく必要がある。
これらの点を踏まえれば、どうしても自宅に住み続けたいという理由がない限り、自宅をオーナーチェンジ物件として売却するよりも、自己利用ができる一般的な住宅として売却する方が経済的には有利だといえる。
リースバックは新たな自宅活用法である一方、従来通り「自宅を売る」ことを意味するのだと認識すべきだろう。
国がリースバックのガイドブック策定
高齢者の自宅売却トラブルが増加している状況を踏まえ、国は今年6月24日、リースバックの特徴や注意点などを取りまとめた「消費者向けリースバックガイドブック」を策定し公表した。
参照:国土交通省「住宅のリースバックに関するガイドブック」。
このガイドブックのなかでは、主に4つの点について注意喚起している。要旨は以下の通り。
- 自宅に住み続けながら一括で資金を受け取れるが、通常売却や融資等と比較・検討することが重要
- 所有に伴う固定資産税等の支払いは不要だが、家賃等の支払いが生じる
- 自宅が自分の持ち物ではなくなり、自由に設備を改変・設置したり、希望通りの期間住み続けたりできるとは限らない
- 広告等で買い戻せると表示される場合もあるが、契約条件等に注意
急速に進む高齢化社会においてリースバックは、老後資金の確保だけではなく、多様なライフスタイルの実現や既存住宅流通市場の活性化、空き家の発生防止等、住宅利活用の新たな選択肢として注目されている。
同時に、高齢者がその仕組みと特徴を理解しないまま取引に臨めば、慣れ親しんだ「終の棲家」を追われる事態にもなりかねない。リースバックが高齢化社会に呼応する新しい自宅活用法のひとつとして社会に定着するためには、消費者側がこの仕組みをしっかり理解することと同時に、悪質事業者の排除のための消費者保護の枠組み作りが必要だといえるだろう。
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