“ハマのから騒ぎ”…横浜市長選の報道、ストーブリーグの監督人事彷彿

リーク記事、読み手としての心構え
2021年05月31日 06:00
SAKISIRU編集長
  • 横浜市長選で著名人の名前が続々と浮上。雑誌報道のウラにあるのは?
  • 現職の林氏は実績で強み。出馬ならIR反対で劇場化など「小池流」説
  • スポーツ紙の監督人事報道と似た構造。野球記者の経験から見えること

横浜市長選(8月8日告示、8月22日投開票)に誰が出馬するのか、憶測報道がヒートアップしている。週刊誌系メディアで厚労副大臣の三原じゅん子氏説がしばらく唱えられていたところ、5月後半になってFACTAが参戦。去る19日にタリーズコーヒージャパン創業者の松田公太氏が急浮上したと特報して波紋が広がると、FACTAはきのう(5月30日)朝、今度はフリーアナウンサーの渡辺真理氏の名前が突然出てきたと報じた。

3氏は、自民党内部でのリストアップ段階の話に過ぎないが、現職の政治家である三原氏はともかく、著名人の名前を打ち上げ花火のようにめまぐるしく連発するあたり、スポーツ紙がプロ野球の来季監督を占う「ストーブリーグ報道」を彷彿とさせるものがある。

松田氏出馬報道、本人を直撃

「噂の人」松田氏と筆者は、本サイト創刊スペシャル企画で対談したばかり。いまの政治についてかなり熱く語られていたので、政界復帰へひょっとしてと思わないでもなかったが、実のところ最初から筆者は懐疑的だった。松田氏は6年前に国会から民間に復帰。本業の飲食経営だけでなく自然エネルギーへの投資など幅広い活動をしていたが、昨年来のコロナ禍で飲食事業が存亡の危機に。エッグスンシングスの社長に復帰して陣頭指揮をとり、銀行から運転資金の緊急融資を受けるなど、政治家に簡単に戻れる状況には見えなかった。

とはいえ万一本当なら大変だ。記事が出た直後に確認すると、ご本人は「政治家引退後もありがたいことに、さまざまな出馬依頼をいただくことはありますが、私からお話することはありません」とコメントした。一方、ほかに複数の政界関係者に取材をしたところ、先週末、横浜がお膝元の菅首相と、坂井学内閣官房副長官、自民の横浜市議重鎮らが極秘に横浜市長選の候補者について協議。その段階では、三原氏、松田氏がリストアップされ、自民が独自に行った情勢調査をもとに、誰を候補者にするか検討されたという。

記者たちの間では、松田氏が三原氏を支持率でやや上回ったという情報が駆け巡っていたが、やはり現職の林氏が知名度と安定感で頭ひとつ抜けているようだ。林市長はBMWの販売員時代、5年で400台を売りまくった伝説の営業ウーマン。かつて経営再建中だったダイエーのCEOも務めるなど、民間での経営手腕を期待され、2009年に横浜市長選に出馬し初当選。待機児童ゼロ達成などで存在感を示した。

IR構想が浮上する横浜市のみなとみらい21地区(xavierarnau/iStock)

林氏出馬なら「小池流」選挙?

しかし近年はIRをめぐって、当初は「カジノは白紙」を掲げて3選するも、その後一転して誘致を表明したことで物議をかもした。FACTAも指摘するように、自民党の内規で政令市長選で4期目をめざす候補者には公認や推薦は出さない。ここにきて、林氏は自民と距離を置いており、IRに反対を掲げて出馬する可能性もとりざたされている。横浜市政を知る関係者は「林氏がIRに反対するのが自民にとってもっとも怖いシナリオ」と指摘した上で、もともとの知名度を生かしてIRを争点化しない戦略もありうるとの見方を示す。

「コロナ禍の都知事選で小池(百合子)氏が選挙運動をあえてやらなかったように、コロナ対応の公務に集中することをアピール。市民の間に『コロナだからいま市長を変える必要はないのでは』という機運をつくろうとするのではないか」(前出関係者)。

IRで反旗をひるがえすなら、2016年の都知事選のような劇場化だ。淡々と公務に専念する場合でも林氏は「小池流」というわけだ。

なお、ほかに取り沙汰されている顔ぶれを見渡すと、野党では、立憲民主党の江田憲司代表代行や、元神奈川県知事の松沢成文参議院議員(現在は日本維新の会)らの名前があがっている。ともに神奈川県内での知名度は抜群だが、江田氏は野党内の再三の打診を固辞。むしろ松沢氏が色気を見せて江田氏と接近しているとの話もあるが、維新にとっては、首都圏への勢力拡大をはかって2年前の参院選で公認・当選したばかりで、大阪の党首脳陣が松沢氏の市長選出馬に難色を示しているとの情報もある。

しかし、自民党にしろ、野党にしろ、誰を擁立しても、林氏が出馬すれば、彼女を中心に選挙戦が展開する構図は避けられず、林氏の動向をにらみながら苦慮しているのが実情だ。渡辺真理氏の名前が出てきたのは、林氏と仕事を通じて近しい関係にあり、渡辺氏なら林氏が引退して「禅譲」できるのではとの期待もあるようだ。しかし、全国区の知名度があるとはいえ、経歴はアナウンサーのみ。横浜市という大都市の経営手腕があるのか未知数で、横浜市民のお眼鏡にかなうのか、ハードルは小さくなさそうだ。

スポーツ紙の監督人事報道と似たウラ

FineGraphics/写真AC

FACTAの記事の書き方をみても、冒頭であげたように、プロ野球のストーブリーグ恒例、スポーツ紙の次期監督ネタ記事に似ている。つまり、球団やチーム事情(=横浜市や市政事情)との親和性をやたらにあげている割に本人の意向はつかめているのか微妙だ。往々にしてこういう「にぎやかし」記事が出るときはリーク元の観測気球としての思惑があったり、あるいは対立陣営への揺さぶりがある。

12年前、当時、野球記者だった筆者はロッテ担当。バレンタイン監督の退任が決まり、後任人事をめぐってさまざまな名前が取り沙汰された。結果的には最初に西村徳文ヘッドコーチの昇格を特報した日刊スポーツが「正解」だったが、報知は江川卓氏、スポニチは与田剛氏、サンスポは野茂英雄氏などの名前を挙げた。筆者は、一般紙の記者だったので、後任が完全に内定しない限りはそうした特ダネ合戦とは距離を置いていたが、自由な立場だっただけに、あるとき、裏事情を知る機会があった。人事をリークした側は、それぞれのスポーツ紙と親和性のある名前を出して記者たちの顔を立てる配慮もあれば、対立する派閥がもう一方の派閥が推す名前をつぶすための思惑もあったようだ。

そのときの経験を踏まえると、今回の横浜市長選の名前に関するリークも、おそらくは林市長に対するゆさぶりも含めた思惑があるのではないか。政局的な駆け引きは政治につきものだが、横浜市政の課題はIRだけではない。コロナの感染対策、飲食などの打撃を受けた業界への対応などをどうするか。港南区、青葉区など郊外の住宅エリアは高齢化が市中心部より加速している。市民は、建設的な政策論争を望んでいるはずだ。

 

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