衝撃の事件から一夜明け、各党最後の訴え。安倍元首相の急死で“保守票”どう動く?

【参院選2022最終日ルポ】「岸田離れ」の傾向変わるか
SAKISIRU編集長

安倍晋三元首相が凶弾に倒れて急死した翌9日、参院選は選挙戦の最終日を迎えた。

政治的には真逆の立場の共産党でも志位委員長が早朝に「民主主義の破壊を決して許さない」とツイート。安倍氏銃撃が報じられた前日午後から与野党の大半の陣営が選挙活動を取りやめていたが、この日は「暴力には屈してはならない、言論を止めてはならない」(国民・玉木代表)と活動を再開。各地で党派を超えてリアルやネットで民主主義や言論の自由の意義を訴え、候補者は街頭で声を枯らした。

首相時代の安倍氏(19年12月)官邸サイト

自民・生稲氏「あの優しい笑顔を…」

とはいえ、否応なしに世間の注目を集めたのが自民党の動きだ。中でも安倍元首相が応援演説に駆けつける予定だった東京選挙区の生稲晃子氏の陣営はまさに「弔い合戦」の様相だった。この日17時から、銀座4丁目の交差点で23区の最終街頭演説会を実施。ともに東京都連所属で、安倍氏の腹心でもある下村博文元文科相や萩生田光一経産相らが続々と駆けつけた。

萩生田経産相は「昨日、私たちはかけがえのないリーダーである安倍晋三元総理を失った。この選挙戦、改めて民主主義の大切さ、政治の大切さを、都民の皆さん、国民の皆さんに訴えていきたい」と声を張り上げ、「安倍元総理が最後に見出した国会議員の候補は皆さん、生稲晃子さんです」と紹介すると、大勢の聴衆から拍手を浴びた。

最後の訴えで声を張り上げる生稲氏と応援に駆けつけた萩生田氏(写真:日刊現代/アフロ)

生稲氏は安倍政権時代、首相の諮問機関である働き方改革実現会議で民間議員を務めた。自ら5度のがん手術を受けた経験から、がん患者が仕事と治療を両立できるよう、職場と医療機関、コーディネーターの三者による「トライアングル支援」を提案し、採用された経緯がある。このときの活躍から東京選挙区の候補者として白羽の矢が立った。

生稲氏は演説の途中、何度も感極まるのを堪えるように声を絞り出しながら「あの優しい笑顔を忘れることができません」と安倍氏との思い出を語り、「安倍先生が思い描いていた日本を、残された私たちは、引き継いで行かなければならない」と訴えた。

“岸田離れ”の保守層の動向は?

会場には、元衆院議員で、自民都連最高顧問の深谷隆司・元通産相の姿も。およそ半世紀政界で過ごしてきた深谷氏が演説で指摘していたのが、1980年、史上初の衆参同時選挙中に病死した大平正芳首相のケースだ。このとき苦戦が伝えられた自民は同情票を集めて一気に大勝に持ち込んだ。深谷氏のようにリアルタイムで経験せずともこの選挙との類似性を想起する政界関係者は少なくない。

ただ、今回の参院選は政権与党が高支持率をほぼキープして選挙戦に突入した点が往時と異なる。自民党や報道機関による情勢調査からは、自民が各地で堅調に支持を集め、「改選過半数の63議席を上回り、70議席台に乗る勢いを維持」(FNN)といったように与党が圧勝する可能性が伝えられてはいた。

他方、岸田政権の高支持率とは裏腹に、安倍政権時代に自民党が掘り起こしてきた「岩盤保守層」が、岸田首相が率いる宏池会のリベラル路線を嫌気し、反グローバル化などの強硬な保守路線を打ち出す、参政党に一部が流れつつある動きが指摘されてはいた。岸田首相のお膝元、広島県内のある自民市議は「コロナ禍明けで久々に挨拶に行った支持者がいつの間にか参政党支持に変わっていた。こんな地方にまで浸透しているのに驚いた」と目を見張る。

選挙戦中、参政党は、各地の演説会場で新興勢力とは思えない規模で動員力を発揮してきたが、この日、集大成の舞台に選んだのは東京都港区の芝公園。公式発表で7000人を集め、SNSからは“フェス”状態となったことが窺える。

事務局長で自らも比例に立候補している神谷宗幣氏は「去年の12月に記者会見した時の戦力に比べたらここまで来ていること自体が奇跡なんですよ」と感慨深げ。「なんとしても5議席取らせてください!」と政党要件獲得を目標にぶち上げた。

維新・猪瀬氏「岸田リスク」強調

安倍氏から岸田氏へのパワーシフトに伴う自民支持層の揺らぎを狙っているのは、全国への党勢拡大を図る日本維新の会も同じだ。こちらは参政党とは逆の意味で、新自由主義路線からの決別を謳う岸田首相に興醒めした「改革志向」の保守中道層の取り込みを目指す。最終日の19時台、東京・新橋駅前で東京選挙区の候補者、海老澤由紀氏のマイク収めには、維新が「ミスター改革」と持ち上げる、比例候補者の猪瀬直樹元都知事も駆けつけた。

筆者撮影

猪瀬氏は演説で投資家が「日本に3つのリスクがある」と指摘していたことを紹介。国際紛争の「ウクライナリスク」、円安とスタグフレーションが進む「為替リスク」を挙げた上で、「投資家の間でこれは困ると言われてるのは“岸田リスク”なんです」と強調。「(岸田首相は)無策は無敵だと思ってるから、何もしないと支持率はいいと思ってる」と岸田政権の消極的な姿勢をあげつらい、「日本には政治の世界にもベンチャーが必要なんです!」と、改革勢力としての維新をアピールしていた。

選挙戦終盤、保守政治家として稀代のリーダーだった、安倍元首相が直面した非業の最期。前出の自民市議は「安倍元総理の不慮の死で、自民から離反しかけていた保守層が戻るのかどうか」と注視する。前代未聞の事態が、保守層の投票動向にどう影響するのか。投票日の一つの注目ポイントになりそうだ。

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