参政党、初陣で大健闘の秘決は?全国比例で1議席と政党要件確保

元結党メンバー渡瀬氏「現在の主張には共感しないけど凄い」
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

10日の参院選で、初めての国政選挙となる政治団体の参政党が比例で1議席を確保し、得票率も政党要件となる2%以上を見込む大健闘を見せた。20年4月に結党してから2年3か月。途中、地方選に挑んだ党員が落選したり、結党メンバーが入れ替わったりするなどの紆余曲折もあったが、一気にブレイクした。

選挙戦終盤には安倍元首相が銃撃されて殺害される大事件があり、安倍氏への同情から“岸田離れ”していた保守層の自民回帰も予期したが、支持層のハートを最後まで鷲づかみし続けた。

選挙戦最終版の7/9、銀座で街頭活動中の参政党(編集部撮影)

マスコミの泡沫視を覆す大躍進

特に驚異的だったのは、昨年12月の参院選出馬表明以後も、マスメディアはおろかネットメディアですらほとんど取り上げることがなかった中で、党組織を順調に拡大させてきた点だ。ネットで地道に発信。立ち上げ時点で3000人も党員がいたことだけでも驚きだが、いまや8万人を超え始めた。野党第一党の立民は昨秋の代表選で投票した党員数が10万人だったことを考えても、ゼロから立ち上げた政治団体の急成長ぶりがわかる。

ボードメンバーを中心に用意した8000万円の選挙資金も、半年余りで全国各地の党員が続々と寄付に応じ、約5億円にまで急増。選挙戦に入ってからは、街頭演説会などに、自民や立民など組織を擁する政党よりも大勢の支持者が集結することも多く、それまで泡沫扱いで見向きもしなかったマスコミ各社も選挙戦中盤から慌てて取材を本格化。NHKニュースサイトの政治マガジンは投票日当日になってようやく特集記事を掲載した。

ご存知の方もいるかもしれないが、筆者は結党メンバーの渡瀬裕哉氏の紹介で草創期の参政党のイベントに登壇したり、勉強会の講師として招かれたりしたことがあった。その後、渡瀬氏らが党運営から離れたこともあって疎遠になってしまったので、他のメディア関係者より付き合いが長いことを誇示するつもりなど毛頭ないが、党の体制変更を経ても維持された「本質的な価値」にこそ、今回の躍進の秘訣があるように思えてならない。

参政党は「政党DIY」を唱え、「活動も政策も人材も自分たちで作り上げていく」という基本理念だ。「ゴレンジャー」の愛称で比例に立候補した事務局長の神谷宗弊氏ら5人は確かに独特のカリスマ性を持つものの、党組織の運営のあり方はボトムアップを徹底している。今回の参院選の候補者選びも、党内の予備選挙を勝ち抜いた人物を公認し、全国45選挙区に擁立している。

「ゴレンジャー」の姿をプリントした参政党の選挙カー(9日、東京・銀座で=編集部撮影)

既存政党にないガチンコ予備選の意味

この予備選方式は、ボードメンバーの面接で最低限の候補者としての資質を審査した上で実施。面接に対する評価はさまざまあるだろうが、既存政党に比べればかなりオープンで選考過程も透明化しているのは確かだ。

日本の既成政党の候補者選びは、党本部から地方組織まで一部の幹部らが決めてしまったり、公募制を謳いながらも蓋を開けてみれば世襲や組織団体出身の人物が擁立されるという「密室型」が多い。これは日本がしばしばロールモデルにしているはずのイギリスとは真逆の形態で、保守党も労働党も党員による予備選を実施して候補者を選び抜いている。本番の国政選に出る前から真剣に論戦をかわしているので、党勢拡大にも繋がりやすい。

橋下徹氏が以前の著書で、旧民主系野党復活の方策としてガチンコでの予備選導入による自民との差別化を提案したことがある。かつて英労働党も労組が候補者選びを牛耳っていたことが党の低迷につながっていたが、野党時代の80年代に党改革に着手。これが後年のブレア政権誕生の下地になった経緯がある。

一方で筆者は渡瀬氏らが離れるきっかけとなった、過激とも言えるコロナワクチンへの反対論や反グローバル政策には違和感もある。国政に橋頭堡を現実に築いた今後は政策的な責任が要求されよう。3年前に旋風を巻き起こした、れいわの右派バージョンともいうべき特異なポジショニングだけではどこかで行き詰まりも出てくる気がする。ただ「急進的」とも言える政策や理念を打ち出してきたことで、短期間にたくさんの支持者を獲得した経緯からすれば、既存政党のカンフル剤としてとどまるのか、さらに中堅政党へと脱皮していくのか、試練の段階があるかもしれない。

過激な主張に眉をひそめる人は多いだろうが、ひとつ大きな「功績」があるとすれば、予備選の形骸化という日本政党のガラパゴスぶりに風穴を開けたところだ。袂を分かった渡瀬氏も昨晩のツイッターで「現在の主張には共感しないけど、頑張ったな。凄いと思う」と快挙に評価はしていた。

なお、個人的に注目したのは、自民がわずか3000票差で野党に敗れた沖縄選挙区で2万票余りを獲得したことだ。自民が僅差で敗れた要因の一つだ。

この保守票に影響を与える「キャスティングボート」を秋の知事選でどう使うのか。近年の新興政党の中では党員組織が特に強固なのが特徴的だ。議席数の割に政局において影響力を発揮する局面が意外に早く訪れる可能性もある。

 
タグ: ,
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

関連記事

編集部おすすめ

ランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

人気コメント記事ランキング

  • 週間
  • 月間

過去の記事