自民・生稲晃子選対が猛抗議、池上彰氏とテレ東に「おごり」はなかったか

「全面戦争」をもたらしたコトの本質は?
SAKISIRU編集長
  • 参院選で初当選した自民・生稲氏の選対がテレビ東京と池上氏に抗議文
  • 理由は選挙特番での池上氏とテレ東記者の発言。ネットでも生稲氏の炎上招く
  • 取材で問題の発言があったのは事実だが、本来向けるべき矛先は…

参院選で初当選した自民・生稲晃子氏の選対事務所が11日夜、前夜のテレビ東京の選挙特番の内容を巡り、局側と司会の池上彰氏に対し、抗議文を出す事態が起きた。

選挙戦最終日の9日、声を張り上げる生稲氏と応援に駆けつけた萩生田文科相(写真:日刊現代/アフロ)

テレ東と池上氏に謝罪と訂正要求

番組内で生稲氏が個別中継の出演に応じなかった理由として、選対事務所の関係者が「国会議員としての資質、勉強が圧倒的に足りないから」と発言したなどと報じられたことでネットで大炎上。抗議文では、「公共の電波を使って真偽不明の情報を流し、特定の個人を貶める行為は報道倫理にもとるものであり、貴社のメディアとしての姿勢を疑わざるを得ません」と激烈な文面で怒りをぶつけている。なぜこのような「全面戦争」に発展してしまったのか。

抗議文やネットに残る動画によると、番組内では池上氏とテレ東政治部の篠原裕明記者との間で次のようなやりとりがあった。

池上氏「自民党の生稲候補に関してはですね、安倍さんの事件が起きる前に是非この番組に出演していただきたいとお願いをしていたんですが、この番組だけではなく。すべてのテレビ局のインタビューに応じては頂けないという結果になってしまいました。さあ、どうしてなんでしょう?」

篠原記者「本日、どうして生稲さんが中継に出ていただけないのかということを陣営の関係者に取材したところ、匿名を条件に答えてくれましたね。陣営の方が『生稲さん国会議員としての資質、勉強が圧倒的に足りないから』だというふうに仰っていた。陣営の内部の方が仰っていた」

これに対し、選対は以下のように反論。

  • 生稲氏はマスコミ各社の共同インタビューを受けていた
  • 選挙結果から当落判明に時間がかかる情勢になっていた
  • その結果、全局の入り中継(番組内での中継)に対応するか、対応しないかの二択になった
  • 選対は八重洲の事務所と立川の開票センターを設置、それぞれ集まっている支援者に生稲氏が挨拶に行く予定にしていた。
  • 広報担当者間の協議で、担当の都議(川松真一朗氏)が当選後の時間の読めない状況で「入り中継」に全社対応していると時間が読めなくなるとの指摘があり、各局個別対応はしないとの結論に至った

抗議文ではこれらが「事実」だとして、テレ東と池上氏に対し、謝罪と訂正を求めている。

テレ東の選挙特番は近年、池上氏が司会を務めるようになり、歯に衣着せぬ発言で、政治家に中継で突っ込むシーンが視聴者に大ウケし、ネットでは“池上無双”の異名をとった。同局史上初めて民放各局で視聴率ナンバーワンになったこともあるほど注目度が高い。池上氏と篠原氏の今回のやりとりで出てきた「国会議員としての資質、勉強が圧倒的に足りないから」は、SNSで瞬く間に反響を呼び、ネットニュースの格好の材料となって拡散、配信先のヤフーニュースに載った記事の中には、一晩で数千のコメントが書き込まれた。

騒動に残る違和感の正体

選挙戦を振り返れば、生稲氏の炎上は初めてではない。ただでさえ「元おニャン子クラブのタレント出身」という経歴から興味本位で見られがちだったところへ、NHKのアンケート質問に無回答の対応をしたという騒動があり、すっかりネット民の標的になっている。銃撃事件で亡くなった安倍元首相が特に支援していた候補者であることから、終盤は露出も増えたことで早い時間での当確、上位当選を予期する声もあったが、蓋を開けてみれば6議席の5番目。得票数も61万票と陣営が期待したほどの伸びに欠けた。何度もネットで叩かれたこととの影響があった可能性が高い。

今回、抗議相手に知名度の高い池上氏が入ったことでそちらに注目がされがちだが、スタジオの池上氏の発言の根幹を支えているのは本人の取材に加え、特にリアルタイムの情報は現場記者の取材に基づいている。篠原記者が取材した「陣営関係者」が「(生稲氏が)国会議員としての資質、勉強が圧倒的に足りないから」と述べたことは事実かもしれないし、テレビ記者としては“おいしい”パワーワーディングであることは確かなのだが、いくつか解せない点もある。

陣営側が公式見解として抗議文にあるようなスケジュール上の理由を篠原記者に伝えていたのかは判然としないが、十分に伝わっていなかった可能性もある。しかし、いずれにしても、この件に関して生稲氏本人から出演しない理由を聞き出せたわけではないのに、候補者本人に矛先を向けるのには違和感が残る。

ただでさえ人生を賭けて18日間の選挙戦に身を投じてきた中で、当落がまだ判明していない段階で候補者が極めてセンシティブになっていることくらいは、官邸キャップを務める篠原氏ほどのベテラン政治記者なら熟知しているはずだ。ましてや今回は、終盤に安倍元首相の不幸という前代未聞の重圧を受けている。こちらの情報源の“陣営関係者”は、「池上氏やテレ東は高視聴率でおごっているのではないか」と憤懣やる方ない。

生稲氏の最終演説会で安倍元首相に黙祷を捧げる支援者ら(9日、東京・銀座で。筆者撮影)

本質は「誰の発言なのか」

一方で、篠原記者に対し「資質、勉強が圧倒的に足りない」と発言した人物は生稲氏に対してかなりの「上から目線」だ。これは推測ではあるものの、日頃の取材で付き合いがある都連所属の相応の地位にあるベテラン国会議員の可能性が高い。篠原記者が「陣営の関係者」とソースをぼかしているのにも名前を出せない微妙な“後ろめたさ”も感じる。選対本部長を務めた下村博文元文科相の発言であれば「公式見解」であり、下村氏の名前を出しても良いはずだ。

選対側の抗議文の激烈な反応を見る限りは、公式見解でないのは明らかだ。匿名文化は、永田町政治部報道の悪しき慣習であるとはいえ、なぜソースをぼかすのか。スタジオの池上氏も限られた時間なので難しいだろうが、永田町取材文化に染まっていない社会部目線でむしろ「誰の発言なのか」を篠原記者に聞いてみてもよかったのではないか。

公平に見てみると、選挙中に炎上案件が重なった生稲選対も、指揮命令系統が十分に機能しておらず、選対内部に組織的な決定事項を遵守しなかったり、配慮しなかったりする人がいた可能性が伺える。ある意味、テレ東側にその結束の乱れを突かれた面はあるのだろうし、ジャーナリズム側としてはその綻びを指摘することで、候補者や陣営が公職に適格なのか視聴者に判断してもらう材料を提供することは責務だ。

いずれにせよ、「資質、勉強が圧倒的に足りない」を発言した人物は、生稲氏本人に対する最低限の敬意や配慮が足りないのではないか。テレ東や池上氏についても「おごり」があったとまで言えるかは議論の余地があるだろうが、矛先を向けるべきは候補者を過保護にしたり、あるいはコマのようにしか見ていなかったりする、永田町の体質だったのではないだろうか。

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