五輪組織委元理事がAOKIから現金受領発覚、アベガー期待の一大疑獄に発展するのか
スポーツビジネス界のドンの疑惑、永田町も注視- 五輪組織委元理事の高橋治之氏がAOKIと現金授受、特捜部が捜査中と判明
- 「スポーツビジネス界のドン」高橋氏の来歴や人物像は?
- 今後の捜査の展開、“アベガー”が期待するような状況になるのか
東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の高橋治之元理事が、大会スポンサーだった紳士服大手、AOKIホールディングスからコンサル費用として少なくとも4500万円の現金を受領していた事実が判明、東京地検特捜部が「みなし公務員」である理事職の収賄罪を視野に捜査していることが20日、明らかになった。
折りしもこの日、政府は安倍元首相の国葬開催を9月27日に東京の日本武道館で開催する方向で調整していることが判明。立民や共産など左派野党や朝日新聞などのメディアも加わって国葬開催への反対論が強まる中、いわゆる“アベガー”勢力にとっては政権を攻撃する格好の材料が飛び込んできた。
スポーツビジネス界のドン
高橋氏は慶應義塾大学卒業後の1967年、電通に入社。大衆的な知名度こそないが、オリンピックやサッカーW杯の商業化の波をいち早く捉え、電通のスポーツビジネスを変革、いや、日本のスポーツビジネスを世界的にスケールアップさせた立役者として“知る人ぞ知る超大物”だ。実弟の治則氏(故人)はリゾート開発の実業家としてバブル時代に名を馳せ、その後の破綻・起訴の転落劇で注目された。
一方で、オリンピックをはじめとする国際大会はビジネス的な「闇」もつきまとった。記憶に新しいのは2018年12月の事件だ。フランスの検察当局が東京オリンピック・パラリンピックの招致活動で、日本側がIOC委員に買収工作をした疑いで、JOCの竹田恒和会長(当時)を贈賄容疑で本格捜査を開始。竹田氏は疑惑を否定するも騒動の責任をとって辞任したが、この時、注目されたのが高橋氏との関係だった。
高橋氏も竹田氏も慶應出身で、竹田氏の次兄が高橋氏の同級生という古くからの縁。オリンピックの馬術選手だった竹田氏が引退後、経済的に苦労した時期を高橋氏は支えたとされる。やがて竹田氏はJOC理事、会長として日本のオリンピック運営の看板となり、高橋氏がビジネス面から仕切るという構図が完成。2人の“蜜月”は絶頂期を迎え、竹田氏が理事になった1991年以後の四半世紀余りにも及んだが、フランス当局がメスを入れようとしたIOC委員の買収工作疑惑は、自国開催の代償だったとも言えよう。
五輪1年延期の火付け役
陽の竹田氏に対し、影の高橋氏とも言える関係だったが、竹田氏が表舞台から退いたことで高橋氏に少しずつ光が当たるようになる。特に高橋氏自らが“火中の栗”を拾うようにメディアの矢面に出てきたと感じたのが、20年3月の出来事だ。
当時、新型コロナの感染拡大で東京オリンピックの開催が危ぶまれつつあった。そんな時、高橋氏は米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の単独取材に応じ、「1~2年延期するのが最も現実的な選択肢」とのシナリオを持ち出した。しかも中止できない理由として、日本の大手メディアにとってはタブーに近い放映権料に言及したことが衝撃を与えた。
一方で、その時、筆者は、めったに表に出ない“オリンピックの陰のドン”が、突然、世界的経済紙のWSJの取材に応じただけではなく、放映権がらみの裏事情もあけすけに語ったことに、ある種の観測気球を国内外に対してあげる役割を高橋氏が担ったのではないかと推察。当然、官邸(当時は安倍政権)とも気脈を通じて大会延期のキャンペーンを始めたのではないかとの論考を執筆した。
取材モノの記事ではなく、ある種の分析モノとして情報不足の中を自分なりに工夫して書いたものだったが、自民党の関係者から「悪くない筋読み」と言われ、その後の関連情報の収集につなげた。最終的な断定材料は入手できなかったものの、実際、その後の1年延期へと動かすきっかけとなった。何が言いたいかと言えば、高橋氏はそれだけのキーパーソンだということだ。
では、だからと言って左派野党・メディアなどの“アベガー”が、岸田政権に致命的なダメージを与えるほどの“一大疑獄”として期待しているのであれば、今の時点では拙速ではないだろうか。
“アベガー”がまだ喜べないワケ
“アベガー”たちの本音中の本音を推察するに、彼らが疑惑の“本命であってほしい”対象は、世間的には無名の高橋氏ではなく、当時の政権中枢、安倍元首相や菅元首相、及びその周辺であろう。それでないと朝日新聞はともかく野党にとっては、政権与党の大物政治家に疑惑が及ばなければ倒閣などの政治的な実益に結びつかない。
しかし、あくまで現時点では特捜部の標的は高橋氏だ。その先に政治家への資金還流を視野に入れていることは否定できないが、大会組織委の大物理事1人を収賄罪で摘発するだけでも特捜部にとっては久々の大手柄だ。少なくともいまの時点では、特捜部と“アベガー”の目指すところにズレはある。
一方できのうの報道が特捜部のお家芸、新聞リークによる空気作りがまた始まった可能性があることも留意すべきだ。近年は裁判の結果、無罪になったり、有罪に持ち込んでも捜査時の見込みと異なるショボい結末に終わったりしたケースが何度かあったことも忘れてはなるまい。
もちろん特捜部も“勝算”が出てきたから読売や産経などにリークしている。高橋氏も、AOKIの青木拡憲前会長も現金の授受があったこと自体は認めている。読売の夕刊続報に至っては、特捜部の聴取に応じたAOKI幹部の「高橋氏からの紹介や助言で、ライセンス商品がスムーズに販売できるようになることを期待した」という供述まで報じている。
このように、贈収賄に繋がる事実の基盤があるという世間の心証が形成されつつある。この記事が公開される21日朝にも追い打ちする続報が出るだろう。しかし問題のコンサルフィーについて、高橋氏や青木氏らが争う姿勢を見せ、無罪請負人の腕きき弁護士を起用。取引に実態があると主張し、相応に反証材料をあげる可能性が全くなくなったと言えるのだろうか。昨日の初報を見た限りでは、個人的にはもう少し推移を見守りたい気がしている。
末筆ながら政局的な観点で検察の動向を見ていくなら、安倍政権時代の検察庁法改正に代表される、官邸VS検察の人事抗争のリベンジとして動き出しているのかどうか。このあたりの生々しいポイントは新聞よりも来週発売の週刊文春や週刊新潮の見どころなのかもしれない。
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