北朝鮮がウクライナでロシア支援?朝鮮半島を揺るがし始めたロシア情勢
【後編】「ウクライナ」で様変わりする朝鮮半島- 再び緊張する朝鮮半島情勢。米韓の連携とともに日米の軍事連携も深化
- ロシア情勢も大きく影響。「北朝鮮から軍事支援の同意を取り付けた」と一部報道も
- 日米韓が軍事連携を密にして日本海で活発に活動する本当の背景とは
対北強硬派の韓国新政権発足と並行して、軍事面でも米韓連合軍の軍事連携も深化してきていることは前回述べた通りだ。
そして、このような動きは米韓のみにとどまらず、日米でも同様な軍事連携の深化が見られる。
日米の軍事連携も深化
5月7日から同13日まで米空軍による機動展開訓練「ACE:Agile Combat Employment」を主体とした演習「ビバリーサンライズ22-04」を実施し、この最終日の13日には、米空軍三沢基地において、日米共同による「エレファントウォーク」が行われた。
参照:のりものニュース「空自&米空軍、米海軍も 青森三沢で30機強による大「エレファントウォーク」実施」
また、6月29日には米戦略爆撃機「B-2」2機に対して、航空自衛隊の戦闘機12機がエスコート(援護飛行)する訓練が日本海などで実施されたほか、7月に入って6日、11日及び12日の3日間にわたって、航空自衛隊の戦闘機20機、米空軍のF-22やF-35及び米海軍の哨戒機など30機が参加した大規模な日米共同演習が日本海などで行われた。
陸自の動きとしては、今年(2022年)4月以降2回にわたり、陸上自衛隊第1空挺団による米空軍機からの降下訓練を実施したほか、7月6日から8日にかけての訓練では、初めて米空軍機からの物料投下も行った。
ロシア情勢の影響
朝鮮半島情勢が以上のような状況に至っているのは、韓国の政権交代だけではなく、ロシア情勢も大きく影響している。
ロシアが一方的にウクライナへ軍事侵攻した約1週間後の3月2日(日本時間3日未明)国連総会緊急特別会合は、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議を賛成多数で採択した。内訳は、193カ国中、賛成は141カ国。反対はベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、ロシア、シリアの5カ国、棄権は中国やインドなど35カ国だった。つまり、アジアで唯一北朝鮮だけが反対票を投じたのである。
そして、4月にはウクライナのメディアが、ショイグ国防相が極秘に中・朝を訪問して「北朝鮮から軍事支援の同意を取り付けた」と報道した。真偽のほどは不明であるが、もし事実なら由々しき事態である。
北朝鮮は、この開戦以来一貫してロシアを支援する態度を表明しており、7月14日付の朝鮮中央通信は、北朝鮮がいわゆる「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の「独立」を承認したと伝えた。つまるところ北朝鮮は、自らも厳しい経済制裁を受ける中で、ロシアの国際的な孤立化に乗じてかの国に寄り添い、恩を売ることで実質的な利を得ようとする思惑があるのだろう。
このあと、北朝鮮に駐在するロシアのマツェゴラ大使が、「ウクライナ東部で破壊されたインフラ施設の復旧作業にあたって、勤勉で忍耐強い北朝鮮の労働者が大きな助けになる」と述べたことから、北朝鮮はウクライナ東部に「労働者」を派遣することを予定しているものと見られるが、これは軍から兵士が派遣される可能性が高いと思われる。
アメリカが北朝鮮を叩く可能性
現在、日米韓が軍事連携を密にして日本海で活発に活動するのは、北朝鮮に対するけん制の意味合いだけではない。ウクライナへの無差別攻撃を繰り返すロシアに対する警告でもある。
欧州ロシアに戦力を集中させているロシア軍にとって、反対正面の極東ロシア周辺での日米韓による軍事行動はかなり目障りなものだろう。脅威に感じてもいるはずだ。もし今、米韓が北朝鮮を電撃的に攻撃しても、ロシアはこの地域で軍事的に対応できる状態にはないだろう。へたをすれば、日本海北部で活動する極東ロシア軍の航空機や太平洋艦隊の艦艇がこの戦闘に巻き込まれ打撃を受けるだけだ。
ただなすすべもないまま、北朝鮮がこのまま核・ミサイル開発を加速し、戦略兵器が量産されるような事態に進展し、ロシアや中国との連携が深められて行けば、ますます朝鮮半島情勢は混迷を深めることになろう。事態は米韓にとって悪化する一方だ。もうあまり猶予はない状態に来ている。力による現状変更を試みるロシアや中国に対する見せしめのためにも、この際北朝鮮を一気に切り崩すことは米国の戦略にとっては妥当である。そのための準備もほぼ出来上がっているように見受けられる。
仮に、北朝鮮の弾道ミサイルなどがロシアに渡り、ウクライナで使用されるようなことがあれば、アメリカはこれを座視しないだろう。すでに、人的戦力でロシア側に支援しようとしている北朝鮮であるが、前述のウクライナの報道が事実ならば、今後武器支援の可能性もある。そうなれば朝鮮半島情勢は急変するかもしれない。わが国もこの事態の推移を注視しておく必要があろう。
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