共同親権、安倍元首相が急死の3週間前に語っていた「問題の本質」

【追悼スクープ特集】親権問題 〜 安倍晋三、知られざる「次の挑戦」#1
ノンフィクション作家/フリーライター
  • 安倍元首相追悼スクープ特集。密かに乗り出していた親権問題の解決
  • 亡くなる3週間前、安倍元首相が語っていた「問題の本質」とは
  • 「共同親権法制化」巡る複雑怪奇な事情。そして安倍氏は…

参議院選挙戦が終盤を迎えていた7月8日、悲劇は突然訪れた。奈良県で応援演説をしていた、安倍晋三元首相が凶弾に斃れたのだ。享年67歳。

まさに道半ばの死であった。というのも2020年に辞任した後も、安倍氏はやり残した宿題の解決に意欲を見せていたのだ。憲法改正や安全保障については広く世間に知られていた。その他、安倍氏はある問題の解決のため、密かに布石を打ち始めていた。それは国家を構成する最少の組織である、家族に関する問題の解決を目指すものであった。

安倍氏が亡くなる直前に取り組んでいた親権問題の解決、その挑戦について3回に渡って記してみたい。(第1回)

「平成30年8月2日 宮城県訪問」(首相官邸ホームページ)を加工して作成

死去3週間前、2人の来客

安倍氏が亡くなるちょうど3週間前の6月17日、2人の男性が安倍氏の事務所を訪れた。ともに日本の親権制度に問題意識を持ち、法改正のため、精力的に動いていた弁護士だ。

現行の家族法では、離婚した夫婦の1人しか、親権を持てない離婚後単独親権制度となっている。この制度をとっているのは先進国では日本だけ。そのため国際結婚が破綻し、日本人の親が子供を連れて勝手に帰国したということで、日本人の親が国際手配されたり、欧州議会で日本が非難決議がなされたりしている。また国内においても、突然、わが子に会えなくなり、喪失感に苛まれる人が少なくない。自死を選ぶ人も中にはいる。

21世紀に入る頃から、男女のあり方が変わってきた。男女双方が働き、そして子を育てるという家庭モデルが当たり前となってきた。しかも、3組に1組が離婚する現代だけに、子連れで離婚すると揉めることが多い。

離婚=親子の別れとなり、親権も持てない、というそれまで当たり前とされていた、親権制度が社会の実情にあわなくなってきたといえるだろう。

だからこそ、離婚する際、子供の監護権(子育てする権利)という最も重要な権利を含む親権を求める人が近年は増え、共同親権法制化の機運が高まるようになった。

安倍氏が喝破した「本質」

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話を6月17日に戻す。2人は、安倍氏に、家族法の問題を話した。それは昨年春に出版された『実子誘拐ビジネスの闇』(飛鳥新社)にもとづくものであった。

別れようとしている夫婦のうち、どちらかの親が、もう一人の親の許可なく、子供を連れて出る(実子誘拐)という行為。それが離婚弁護士の収入源になっている。証拠がなくてもなんでもDVがあるとして、離れて暮らしている親に会わせなかったり、養育費から一部をピンハネして不労所得を得る……といった弁護士のやり口を紹介し、問題視するというものだ。

2人はそうした「実子誘拐ビジネス」のカラクリを安倍氏にレクチャーした。
すると安倍氏は意外にも次のように言った。

「『実子誘拐ビジネスの闇』、読みましたよ」。

その上で安倍氏は続けた。

「ビジネスというより、私は思想対立だと思っている」。

いきなり、本質を喝破する安倍氏に2人はあっけにとられた。安倍氏は続けた。

「報酬を度外視して、貧乏でも戦う共産党活動やゲリラ活動をしている人間もいる。だからこれ(実子誘拐に関係する弁護士と連れ去った側の当事者の動き)をもって、ビジネスとか、お金儲けをしてるというのは、あんまり説得力ないんじゃないの? 私は、ビジネスというのを強調しすぎるのはどうかと思う」。

そのとき、そのうちの1人はハッとしたという。確かにそうだ。「親権を取りたかったら子供を連れて家を出なさい」と悪びれずウェブサイトに掲載する離婚弁護士の中には、“流れ作業”で親子を引き離していく弁護士もいる。しかし、一方で強固な左翼思想を元に、採算度外視で、活動している弁護士もいることに、彼は思い当たった。そして、安倍氏が思いのほか、この問題に詳しいことに驚いた。

NiseriN / iStock

「共同親権法制化」巡る複雑怪奇な事情

その3日後である6月20日、毎日新聞に見出しが躍った。

離婚後の共同親権を提案へ 法務省、法制審部会に 8月にも試案

記事の中には、「離婚しても子が普段は同居親と生活し、休暇中は別居親と過ごすといった良好な親子関係もあるため、共同親権を前提に、両者が監護者になる「離婚後の共同監護」も選択肢として示される見通し」とあり、これまでの単独親権以外も選択肢となることが示された。この報道に共同親権を切望する当事者たちは驚き、そして喜んだ。ツイッター上では、待ち望んでいた共同親権の法制化の実現がいよいよ進むと考えられた。腰が重かった法務省もやっと前向きになったのかと。

さらに翌21日には『自民が古川法相に離婚後の共同親権・共同監護を提言』(産経新聞)と報道された。これは自民党法務部会による提言で、北村晴男弁護士らが立ちあげた民間法制審の案を元にしたもの。法務省の法制審案より、さらに踏みこんでおり、原則共同親権を謳っていることが特徴となっていた。

前日の法務省に関しての報道があったばかりなのだ。自民党法務部会の提言は、法務省案を後押しするものだという印象を世の中に与えた。共同親権法制化の動きはこれでまちがいない。多くの当事者はそう考えた。

自民党本部(kawa*******mu /PhotoAC)

しかし、実態はまったく違っていた。一筋縄で行かない複雑な事情が実は存在していた。

1つは、法務省法制審議会の案と自民党法務部会の案(実質的な民間法制審案)が対立しているということだ。

前者は共同親権と単独親権どちらかの選択制で、後者は原則共同親権。単独親権制度を支持する人たちを牽制するために、まずは選択制をとるというものではない。実質的な単独親権制度を維持するため出されたもの。一方、後者は前者が採用されないために、北村弁護士らが民間法制審を急遽立ちあげ、まとめ上げたものというのが本質なのだ。

もう1つの問題は双方の案に関係し、どっちつかずの議員が存在しているということだ。民間法制審案の作成に関わった関係者は言う。

「女性の味方と称して法務省の顔色をうかがっている複数の議員がいる。彼らは完全に法務省寄りのロビイストだ」。

安倍氏は事情を把握していた。法務省法制審議会と自民党法務部会の案が対立していること、さらには自民党の中に法務省と繋がっている議員が複数いることを。そして彼は法務省案が採用されないように、事前に布石を打ち始めていた。(#2に続く

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