住宅ローン支払い拒否、銀行詐欺…中国の不動産・金融「崩壊」最悪のシナリオとは?

世界経済の大きなリスク、何が起きているのか
住宅・不動産ライター/宅地建物取引士
  • すでに崩壊しつつある中国の「不動産神話」の現状は?
  • 住宅ローン返済拒否問題が孕む「最悪のシナリオ」とは?
  • 巨額の銀行詐欺事件も追い打ち。不動産と金融「ダブル危機」

現在、中国ではマンションを購入した人が住宅ローンの支払いを拒否するケースが頻出している。一般的に中国の住宅ローンは建物が完成してからではなく契約時にスタートする。

しかし、マンションの建設工事がストップし建物が完成せず、物件が引き渡されないためにトラブルが起きているというわけだ。

中国国内で建設中止が続出(画像はイメージです。YUGE WU /iStock)

昨年から続く不動産不況の影響によって、不動産会社の資金繰りが悪化し、建設工事が中断。完成して引き渡しを受けるどころか、工事再開の見通しすら立っていない物件も少なくないという。

この状況が続けば、不動産開発業者への信頼はさらに低下し、消費者の住宅購入マインドは下がり続け、底の見えない不動産氷河期に突入する可能性もある。中国の販売用建物(マンションなど)は昨年中頃から現在まで販売面積、売上高ともに下がり続けている。

「販売用建物の面積と売上高の推移」 ※黄線が販売面積、青線が売上高
(出所:中国国家統計局

住宅ローン返済拒否がもたらす最悪のシナリオ

日本同様に信じられてきた中国の「不動産神話」はすでに崩壊しつつある。2020年末ごろから中国政府は高騰しすぎた不動産価格を抑制するために、不動産融資規制や購入制限などを行い、その狙いどおり都市部の不動産は過熱感が抑制された。

しかし、政府による市場への介入は日本の平成バブル崩壊と似た構図を作り出すことになった。不動産関連融資を制限したことによって、不動産会社の資金繰りは急激に悪化。その象徴となったのが中国の不動産大手、恒大集団の経営危機問題だ。昨年、恒大集団の総額約2兆元(約40兆円:現在レート)という巨額負債が明らかになり、世界経済全体のリスクとして危機感が強まったことは記憶に新しい。

LewisTsePuiLung /iStock

だが、資金繰り悪化によって経営危機に瀕しているのは恒大集団だけではない。

中国不動産大手「世茂集団」は、今年7月3日が満期だった米ドル建ての債務10億ドル(約1350億円)に関する支払いができず、債務不履行(デフォルト)となった。

恒大集団、世茂集団だけではなく、他の不動産会社についても資金繰り悪化が続けば、マンション建設工事のさらなる遅延や、なかには事実上、工事中止となるマンションも出てくるだろう。

販売不振、経営悪化、工事のストップという負のスパイラルが広がりつつある中、さらに事態を悪化させているのは住宅ローンの支払い拒否による不良債権の増加だ。

報道によれば、返済拒否の公表を確認できた開発案件は300カ所を超えるという。工事の停止で引き渡しが遅れているマンションに関連して不良債権化する住宅ローンは、最大で2兆4000億元(約47兆2000億円)にのぼるとみられる。これらが実際にすべて不良債権となれば、恒大集団の負債を大幅に上回る巨額不良債権が生み出されることになる。国内不動産市場のさらなる信頼低下はさけられず、現在でも困難な不動産会社の資金調達はますます難しくなっていくだろう。

※下図は不動産開発企業の資金調達額の推移。1月から5月までの不動産開発企業の資金調達額は6兆404億元で、前年比で25.8%減少。

「不動産開発企業の資金調達額」(出所:中国国家統計局

銀行詐欺事件がもたらした金融不安

中国経済をけん引してきた産業の一つである不動産市場への不信感が広がる中、中国で社会不安をさらに高めているのが、被害額が約400億元(約7850億円)ともいわれる巨額の銀行詐欺事件だ。この事件は、河南省の投資グループ、「河南新財富集団」が地銀5行と結託して違法な資金集めを行った巨額詐欺事件である。

今年の4月下旬頃から河南省、安徽省などの5つの地方銀行(村鎮銀行)が、システムの更新を理由に預金の引き出しを拒否した(※実際には当局の捜査の一環として5行の口座が凍結されたためとみられている)。

預金が急に引き出せなくなったことに怒った預金者が、地元政府の銀行監督当局庁舎の付近などで「金を返せ」などの横断幕を掲げ、連日大規模な抗議活動を行った。しかし、集まった人たちがコロナ対策の目的で当局から排除され、その様子がSNS上で拡散されたことで世界にこの騒動が知られることになった。

中国当局のコロナアプリ悪用で、河南省では預金引き出しができなくなる事態に(写真:Featurechina/アフロ)

さらに、抗議のために河南省の省都・鄭州市を訪れた預金者たちのコロナ防疫アプリ「健康コード」が、感染の恐れが高く隔離対象となる赤色の表示となり、実際に隔離されたり追い返されたりしたことで、当局が抗議デモを封じるためこのシステムを操作したことが発覚。抗議の声はさらに強まった。

抗議活動の沈静化を図るため、現在は当局が関与し、預金の一部払い戻しを始めたが、まだ事件の全容は明らかになっておらず、全面解決の見通しも立っていない。

この事件の舞台となった村鎮銀行(町や村の銀行)は、かねてから資金集めの方法(高い利率をうたいネットで預金を集める)等、リスク管理の脆弱さが問題視されており、この問題の収束結果如何によっては、中国国内すべての中小銀行に対する預金者の信頼を大きく揺るがせる事態になりかねない。

経済だけではなく、市民生活にも大きな影響を及ぼす不動産と金融。中国政府がこの2つについてかじ取りを誤れば、中国国内で社会不安が一気に広がる可能性もある。そして、中国の不動産と金融の不安定さは、世界経済全体にとっても大きなリスク要因になることはいうまでもないだろう。

 
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