「憲法改正は必要なくなった」安倍発言は本当か?田原総一朗氏の取材を検証する

【追悼特集】安倍批判ファクトチェック #1
ライター・編集者

【編集部より】安倍晋三元首相の生前の政治スタイルには毀誉褒貶が続きましたが、批判された言動の中にはにわかに信じがたい報道や論評もありました。暗殺事件からきょうで1か月。安倍氏に何度も取材をしてきたライターの梶原麻衣子さんが、確かなエビデンスに基づき、安倍氏に対する「巷の批判」を多角的な視点から検証します。

第1回は、田原総一朗氏が「秘話」として語ってきた、あの安倍発言を取り上げます。(3回シリーズの1回目)

※安倍氏の演説は首相官邸サイトより加工して作成。田原氏は編集部撮影

「憲法を改正する必要は全くなくなった」

「安倍さんは『憲法改正の必要はまったくなくなった』と言ってたようだけど。まだやるのかな」

青山学院大学教授の中野宏昌氏がツイッターでこうつぶやいたのは2022年7月30日のこと。1000件を超えるリツイートと、2500件ものいいね、がついている。

論拠となっているのは、『世界』(岩波書店)2020年1月号に掲載された、田原総一朗氏の連載の一説だ。

2016年の9月、私は首相官邸で安倍首相にあった。もちろん一対一の場である。そして問うた。

「衆参両院で、自公両党合わせると三分の二以上を確保しました。いよいよ念願の憲法改正ですね」

すると、安倍首相は、ちょっと間をおいて、声を低めて、次のように答えた。

「……大きな声では言えませんが、実は、憲法を改正する必要は全くなくなったのです」

田原総一朗氏(撮影:武藤裕也)

以下、これまでしきりにアメリカが憲法改正を求めてきたが、2015年の平和安全法制の成立により集団的自衛権の行使が可能になったことで、アメリカからの憲法改正要求はなくなった、「だから憲法は改正しなくてよくなった」と安倍元総理が言った、というくだりが続く。

筆者も『世界』発売当時(2019年12月)、この個所を読んで驚いた。憲法改正を政治主張の柱に据え、その実現のためのリーダーとして安倍総理を評価してきた保守派にとって、もしこの「改憲はもはや不要」発言が本当なら一大事だと思ったのである。そこで筆者は、ある時、田原氏にこの件の真偽について尋ねてみたところ、田原氏は「僕は聞いた、間違いなく彼はそう言ったんだ」と断言した。

もはや安倍元総理本人に確かめることはできない。事は重大かに思われた。

安倍発言は「続き」があった

ところがである。

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