ペロシ訪台に猛反発…中国の台湾に対する「強圧的行動」の原理とは?

佐々木れな『国際問題:リアルとセオリーの結節点』#6
ジョージタウン大学外交政策学修士課程在学
  • ペロシ米下院議長訪台で強まる、近年の中国の強圧的行動を理論的に考察
  • 国際関係論の「強圧的行動」とは?中国の強圧的行動の増加に対する3つの説明
  • 日本は中国とどう向き合うべきか

この連載の目的は、今世界で起きている国際問題を、国際政治学の理論やフレームワークで説明することである。理論やフレームワークは、今起きている国際問題の複雑な情報を構造化し、論理的に思考する一助となる。

第6回は、台湾を巡って中国のより強硬な行動が懸念される中、近年の中国の強圧的行動の背景にある行動原理を取り上げる。

台湾に対する中国の強圧的行動

8月2日のペロシ米下院議長の台湾訪問を発端に、台湾を巡り緊張が走っている。中国の王毅外相は、「米国は台湾海峡の平和と地域の安定のための『最大の破壊者』になった」ことを証明したと述べ、この訪問を強く非難した。中国外交部の報道官は、「ペロシ訪台によって生じるすべての結果は、米国側と『台湾独立』分離主義勢力が負わなければならない」と警告した。

ペロシ議長と会談した蔡英文総統(蔡氏ツイッターより)

中国は、ペロシ訪台に対する台湾への威嚇・牽制を意図した数々の強圧的な措置を発表している。柑橘類から一部の魚類、ビスケットに至るまで、台湾からの何千もの食品輸入をブロックし、台湾への天然砂の輸出を停止している。また、中国からと思われるサイバー攻撃により、台湾政府のウェブサイトが一時的にダウンした。

しかし、最も深刻なのは、8月4日から始まった台湾を事実上包囲する大規模な軍事演習である。注目すべきは、この実弾演習の一部が台湾の東側で行われており、ミサイルが台湾上空を通過したとの指摘があることだ。さらに、中国が演習のために指定した地域のいくつかは台湾の領海と重なっており、商業船舶に影響を与える可能性もある。これらの軍事的威圧は、1995年から96年にかけての台湾海峡危機の際に行われた演習の規模を上回るものとなっている。

この事態は日本にとっても他人事ではない。軍事演習が実施されている領域は、与那国島など日本の南西諸島に近接しており、現に8月4日には、人民解放軍の弾道ミサイルが5発、日本の排他的経済水域(EEZ)にはじめて打ち込まれたのだ。

強圧的行動とは何か

2010年代前半から、中国の「強圧」(assertiveness)または「強圧的行動」(assertive action)が注目されるようになった。国際関係論において、「強圧」という国家行動に対する統一的な定義はないとされる。

他方で、中国外交政策研究の第一人者であるハーバード大学のアラステア・イアン・ジョンソンは、強圧的行動を他のアクター(国家)対して、以前よりも明らかに高いコストを課すと明確に脅す行動として定義した。

ジョンソンの論文は、2013年に発表されたものだが、中国の強圧的行動の事例として、2010年の米国の台湾に対する武器売却承認に対する、激しい反発(軍同士の連絡停止、台湾に武器を提供した企業への制裁宣言)、ダライ・ラマとオバマ大統領の面会に対する猛批判、南シナ海で占拠している島を核心的利益と宣言したことなどを挙げている。

中国の行動の背景にあるパワーシフト

中国がなぜこのような行動をとるのかという理論的な説明として、メンデル大学のリチャード・Q・ターシャニの分析フレームワークがある。ターシャニは、国際社会が強圧的とみる中国の行動は、中国の国家としてのパワー増大があると主張する。

国家のパワーは、3つのレベル(国際・構造、国家・政府、国内・社会)と8つのパワーの源泉(国際制度・機関での地位、国際経済における地位、地政学的環境、軍事、経済、国家資源の活用効率、国内的正当性、ソフトパワー)に分類されるという。

筆者作成

ターシャニは、国家のパワーの基本は、軍事力や経済力に代表される国家・政府レベルの能力であるが、国際・構造レベル、国内・社会レベルも国家の能力を促進又は制限すると説明する。

このパワー・モデルに基づき分析した結果、ターシャニは、中国のパワーは、特に経済と軍事に関して大きくなっているが、国際経済における地位、国内的正当性、国家パフォーマンスの面でも大きくなっていると結論付けた。一方、中国のパワーの弱点は、地政学的環境とソフトパワーであるという。 

中国の強圧的行動の増加に対する3つの説明

台湾沖で連日、中国軍の演習が繰り広げられたが…(画像はイメージです。AntaresNS /iStock)

ターシャニは、中国のパワー増大により、中国が他国の主張・利益と真っ向から衝突しても新たに手に入れたパワーを活用して強圧的な行動をとることが増えたという説明が最も有力であるとしたが、他にも代替的な説明を二つ提示している。一つは、中国が、自国の現在のパワーを脅かす行動を他国がとった時に、積極的に反応し自己主張するというものである。

その他の説明としては、中国のナショナリズムの高まりが挙げられている。中国政府は国内の強い国家を求める世論に押されて自己主張の強い行動をとっているというものである。

では、これらの説明を今回の台湾危機に当てはめるとどうだろうか。

パワーシフト

中国は、大幅に増強された軍事力と、他国の中国に対する経済的依存を背景に、台湾を包囲する領域で前例のない大規模な軍事演習を実行し、台湾に対して様々な経済制裁を科した。

第3次台湾海峡危機の時に米空母2隻を派遣されて引き下がったころと比較すると、明らかに自国のパワー増大に対する自信が今回の強圧的行動の背景にあると考えられる。 

リアクション

一方で、中国が今回の危機を始めたわけではないのも事実だ。中国の首脳レベルを含む再三の警告にも関わらず、米軍の護衛のもとペロシ下院議長が25年ぶりに現役下院議長として訪台したことは、中国からすれば「一つの中国原則」という現状に対する挑戦に対する反応的自己主張ともいえる。

ナショナリズム

中国のナショナリズムが中国の強い反応を後押ししていたのも事実である。中国のSNS微博では、ペロシ訪台が取りざたされるや、中国は今すぐ台湾を武力統一するべきだとの声が高まった。中国外務省の華春瑩報道官が国民に「理性的な愛国者」となるよう呼びかけたことは、国内世論から中国政府がより強い行動をとるプレッシャーを受けている表れだろう。

日本は中国とどう向き合うべきか

今回の台湾を巡る危機での中国の強圧的な行動は、中国の軍事的・経済的パワーの増大、米国による中国が重視する原則への挑戦、沸騰するナショナリズムの全てが影響していると言える。もちろん、実際に行動を起こせるのは行使できるパワーがあるからだが、中国の行動がパワーだけで規定されているわけではないという点にも注意する必要があるだろう。

今回の危機から明らかになったのは、中国は、自国の利益のためには、迷わず強圧的行動を選択し、またその強圧の度合いは今後強まることはあっても、弱まることはないということだ。

EEZへのミサイル着弾を受け、垂駐中国大使が、「日中関係の局面が大きく変化することになる」と抗議した。まさにこの姿勢のとおり、日本は、中国がより平和的な問題解決を選好するようになるという期待を持たずに、強圧的行動を起こす口実を与えないよう立ち回るべきだ。

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