“河野太郎を飼い殺す” 岸田首相の目論見(?)は当たるのか
行革・規制担当相は外されているが...- 岸田改造内閣、閣僚復帰の河野氏が霊感商法対策で早くも存在感
- デジタルと行革、規制改革の兼務ではなく「飼い殺し」との見方もあるが…
- 岸田首相が政局重視で飼い殺すほど浮き彫りになる政策的な「矛盾」とは
第2次岸田改造内閣は、祝日明けの12日、副大臣・政務官人事が行われ本格始動へ一歩踏み出した。ただ、この日も政治ニュースの話題の主は、菅政権退陣以来、約1年ぶりの入閣となった河野太郎氏だった。
この日、デジタル庁で行った就任記者会見では、いきなり消費者担当相として統一教会問題で注目されている「霊感商法」対策で検討会立ち上げを発表、報道各社がいち早く速報し、ネットでは反響が広がった。
デジタル相の前任からの異変
発信力と突破力が政界随一の河野氏らしく、スタートダッシュで健在ぶりを見せつけた格好だが、どこまで本領を発揮できるか危ぶむ声が政治関係者や有識者から指摘されている。というのも、デジタル相の前任、牧島かれん氏が兼務していた行政改革担当相と規制改革担当相のポジションは任命されなかったからだ。
この「異変」を最初に指摘した1人が規制改革に詳しい渡瀬裕哉氏だった。渡瀬氏はツイッターで「分離されたので事実上何もできない」と酷評。また日本維新の会の音喜多駿政調会長も「片翼をもがれた?」とのタイトルのブログを投稿、以下のように懸念を述べた(太字は筆者)。
岸田総理が肝いりで行政改革・規制改革とともに後押しをしていかなければデジタル化も進まず、結局は自身のライバルである河野太郎氏を閣内で「飼い殺した」というだけの結果に終わる恐れも高いのではないでしょうか。
また手足となる官僚や権限の不足もすでに指摘されている。デジタル相である河野氏は、デジタル庁の職員という「手勢」こそ備えるものの、霞が関では新参者の少数勢力に過ぎない。他のポストは内閣府特命担当大臣は、高橋洋一氏もニッポン放送の番組で指摘していたように人事権もないので、求心力に限界が出るというのが政治・行政のプロの見方として出てくるのは定石であろう。
今回の改造人事を政局的な視点で見れば、昨年の総裁選で争った河野氏と高市早苗氏を内閣に取り込むことで、岸田首相としては謀反の芽を摘み取り、安倍派の影響力も削いで、麻生副総裁との“宏池会系タッグ”で主導権を確保する狙いがあったのは明らかだ。ただ党内事情や政局的な面を重視すればするほど政策的な矛盾が浮き彫りになってくる。
浮き彫りになる岸田政権の矛盾
なぜデジタル相と行政改革担当相、規制改革担当相という“三輪車”を同時に乗りこなさなければならないのか。昨年11月、政府内で然るべき人から然るべき会議体に提出された資料にこのような文言がある。
○今世紀に入ってから、我が国の官民を通じたデジタル化の遅れは深刻。既存の規制や行政などの構造は維持されたままで、経済、社会、産業全体のデジタル化につながらず。
○デジタル庁設立でデジタル改革の推進体制は整備されたが、規制・行政のあり方まで含めて本格的な構造改革をしなければ、デジタル化の恩恵を国民や事業者が享受し、実感することは困難。
まさにこの意気込みは至極真っ当な課題意識だが、この資料を作ったのは何を隠そう、岸田政権でデジタル相に任命された牧島氏であり、資料は、国策としてのDXの方向性を討議する「デジタル臨時行政調査会」に論点(当時は論点案)として提出されたものだ。
つまり岸田政権が初期に仕込んだ問題設定や課題解決の方向性として考えていたはずの「デジタル原則を踏まえたデジタル・規制・行政の一体改革」に、今回の人事が矛盾する可能性が高い。
代わりに規制・行政改革を担務する岡田氏は他にも沖縄北方、地方創生、クールジャパン、アイヌ施策の各特命担当に加え、デジタル田園都市国家構想担当、万博担当をも兼務することになる。ただでさえ岩盤規制や因習を突破するのが困難なのに、これだけの役職を岡田氏1人に負わせること自体が、岸田首相の「反改革」志向を浮き彫りにしているとすら感じられる。
突破力と発信力のある河野氏が牧島氏と同じく「デジタル・規制・行政」3大臣兼務であったならば、前例踏襲、縦割り利権護持の官僚が震え上がることになるが、それでは岸田首相が嫌いであろう菅政権カラーそのものだ。
このまま飼い殺される!?
岸田首相(およびブレーン)は人事だけは異様に才能があると何度も書いてきた。政局的にも政策的にも、岸田首相の河野氏の「飼い殺し」の狙いがハマったように見える。しかし、筆者は、菅政権を支持していた「改革派」志向の人たちが諦めるのはまだ早計だと思う。
昨日の霊感商法の検討会の件は、官邸とどこまで呼吸を合わせていたかはわからないが、統一教会問題で対策に取り組む姿勢を打ち出すことは、支持率が下落傾向の岸田首相にとっては悪い話ではないし、この役目は河野氏でなければできまい。逆に河野氏としては岸田首相と利害が一致するところから反転攻勢への流れを作っていくことは可能だ。
もし「岸田丸」の沈没を回避する転換点になれば、河野氏としては岸田首相に貸しを作ることもできる。実効力のある対策を実装できれば、当然その頃には国民の河野待望論が再燃し、その先の改革テーマで結果をまた積み上げていくことでペースを取り戻せる。
もちろん、復権を模索する菅前首相にとっても河野氏を橋頭堡として様々な選択肢が広がっていくのではないか。
エネルギー問題では筆者(原発再稼働)と河野氏(脱原発)は真逆の考えではあるが(苦笑)、岸田政権の反改革作用に楔を打って、「与党内野党」ならぬ「閣僚内野党」としてカンフル剤になるのか注目している。
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