医学論文から考える「陰謀論」〜 “ヤバい人”に会った時の3つの対処法
病理を知り対策を!参院選で再拡大の傾向- ワクチン陰謀論が収束したかと思いきや、参院選で再び陰謀論が拡散
- 陰謀論は「生存本能の一種」?パターンやそれに陥る人間心理の理解を
- 陰謀論者にどう接するべきか。これまでの研究を踏まえた3つの対処法
アフターコロナの幕開けともなった参議院選挙以降、陰謀論が大きく注目されています。オーガニック信仰と愛国史観で参政党は躍進、選挙終盤の安倍元総理襲撃事件は宗教と政治の関係に一石を投じました。
陰謀論との戦いは、有志医師たちによるワクチン陰謀論への勝利としてHPVワクチン勧奨再開・コロナワクチン迅速推進等があったのも束の間。参院選で医療と経済の陰謀論は再び拡散され盛り返してきたようにも感じます。
陰謀論は「生存本能の一種」?
これら陰謀論に関する社会精神医学の研究はここ10年で大きく進展しています。情報化社会の課題として、政策決定者のみならず多くの人が陰謀論のパターンやそれに陥る人間心理を理解することで対抗策を検討しなければなりません。
医学論文検索エンジンPubMedにて”conspiracy”と検索した際のHit数
医学論文では陰謀論[Conspiracy]を、普遍的な生存本能の一種と位置付けています。危険を回避するため、複数の事実を関連付けて安全策をとろうとするのは人間に備わったごく普通の行動で、特に敵対する集団による謀略や内通を回避するために発達してきたとされています。
ゆえに陰謀論は家族や仲間を守りたいという動機で拡散され、それを共有する集団の結束を強める効果があります。しかし時としてその「対策」が魔女狩りや健康を害する習慣へとつながり、望ましくない結果をもたらしてきたのは歴史が示す通りです。
現代科学はこういった原因と結果の関係性に対し、統計学的解析や論理的整合性を用いて予測精度を高めてきました。しかしこのプロセスは科学が発達する中で研究者たちが作り上げてきたものであり、人間に元から備わっている考え方ではありません。
つまり因果関係を論理的に分析する予備知識の不足や、恐怖・無力感・政治的疎外感・社会的スティグマなど心身へのストレスは、陰謀論へ傾倒するキッカケとなります。
振り返ってみればバブルの終焉とともに「引く手あまた」のはずだった労働市場から弾き出された就職氷河期世代や、「若いから」「働けるから」という理由で社会保障へアクセスできなかったシングルマザー・ヤングケアラーなどには、まさに「無力感・疎外感」が蔓延していると言えます。
陰謀論者にどう接するべきか
そういった陰謀論者に対し、公衆の面前で論破したり厳しい批判を浴びせたりするのは得策ではありません。良心に基づき周囲への警告を広めていると自認する相手が、「攻撃されている」あるいは「意見をないがしろにされた」と受け止めるならばコミュニケーションの遮断へとつながります。そしてさらに陰謀論への確信を深め、閉鎖したコミュニティへ深入りしていくでしょう。
もし陰謀論者と対話する必要があるならば、まず陰謀論を構成している「個々の事実部分」を認めて共感的態度でアプローチするのが良いとされています。もちろんすべてに賛同するのではなく、事実同士を結び付けている根拠薄弱な物語には質問という形で指摘をします。
このように繰り返し質問する過程を通じ自分自身で陰謀論の矛盾に気づくのが、陰謀論から離脱するきっかけになるとされています。このアプローチは1度だけではうまくいかないので長期にわたって根気よく繰り返し、もし途中で言い争いになりそうになったらすぐにその場を立ち去り冷静に話し合える機会を待つ必要があるとされています。
(A)のほうが(B)よりも被害は大きくなる
残念ながら陰謀論の研究は始まったばかりで、社会的な規模での予防策や対抗策は未だ見出されていません。しかし既知の知見から、いくつかの対策を考えることができます。
まず1つはできるかぎり未知の領域をなくすために政府は積極的な情報公開に努め、政策決定の透明性を高めることです。これは陰謀論の数少ないプラスの側面で、仮に全く陰謀論のない社会があるならば権威や利権への自浄作用も喪失しているということになります。
陰謀論が勢いづく現状は、ある意味で日本の不透明な政策決定手法への反発という側面があるのかもしれません。
関連拙稿:拙速AV新法「次は我が身」〜 規制の簡易評価と「2:1ルール」で低コスト社会へ – SAKISIRU(サキシル)
2つ目は個人の選択の自由を保障することです。政府が国民に「こうして欲しい」という意図があったとしても、あらゆる強要は警戒心を喚起し陰謀論の温床になります。仮に政府が慎重に配慮をしたとしても、民間が行う強制や同調圧力を黙認するならば陰謀論の勢いを弱めるという意味では不十分です。
3つ目は背景にある無力感や疎外感へ寄り添うことです。誰かが話を聞いていれば、誰かがその悩みや苦しみに気付いてあげられれば、陰謀論者であっても過激な行動には走らないかもしれません。かつては地域コミュニティや伝統的宗教がその役割を担っていましたが、現代社会においてそういった役割を誰が担うかは難しい問題です。
<参考文献>
・Conspiracy Theories: Evolved Functions and Psychological Mechanisms Perspect. Psychol Sci. 2018/
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