上場したらストック・オプション売却で退社続出…そうならないためには?

シリコンバレーで活用されている引き留め策
IPO請負人/中小企業診断士
  • 上場後、ストック・オプションを付与された従業員が売却して退社も…
  • 能力のある従業員が辞めないよう引き留め策として有効な「条項」とは
  • 人材の移動が激しいシリコンバレーでも活用。筆者の経験で見た効果は

前回までに述べた通り、ストック・オプションを付与された従業員は、所属する会社が上場するとなれば、株価は数十~数百倍にはね上がることもあり、従業員にとってストック・オプションは臨時ボーナスのような位置づけになります。

そのため、ストック・オプションは従業員のモチベーションを高めるために使われます。ベンチャー企業が人材確保の際、給与以外にストック・オプションを発行し、働いてもらえるように交渉することも多々あります。

上場した途端、一気に人材流出の事態を防ぐには…(Andry Djumantara /iStock)

しかし、ストック・オプションを付与したことで問題が発生する場合もあります。例えば、上場後に短期間で多くの従業員が株を売って利益を確定してしまい、多額の報酬を手にしたメンバーが一挙にいなくなってしまう危険性があるのです。

引き留めに有効なベスティング

会社は、能力のある人には会社に居続けて欲しいと考えるのが普通です。しかし、ストック・オプションを与えたことで、能力のある従業員が辞めてしまう結果になれば本末転倒です。そこで有効な手段がベスティング(Vesting)です。

ベスティングとは、ストック・オプションを行使する時期に一定の制限を設けることを指します。ベスティングをつける場合、最初の権利(例えば、ストック・オプションの30%など)を行使できる時期を入社してから1~2年とし、3~5年ですべての権利が行使できるように制限するのが一般的です。ベスティングによって、権利を段階的に行使させることで、従業員が退職することを防ぐわけです。

Cecilie_Arcurs /iStock

特に、シリコンバレーなどの大企業や新興企業がせめぎ合うビジネスの拠点で、人材の移動が激しい場所であるならばなおさら、ベスティングが活用されます。会社と個人双方に具体的なメリットを提示する雇用関係を実現するため、必ず知っておかなければならない手法です。

条項の有無で明暗…筆者の経験から

私が今まで在籍した会社の中では、この条項を入れて中長期的な株価上昇を志向して役職員がハッピーになった会社があります。逆に入れていない会社では、上場後にすぐに売却して退職していく社員が続出した例があります。

優秀な社員を引き留め、ともに会社の中長期的な成長、継続的な企業価値向上に向けてのモチベーションを持たせる意味でも、ベスティングは入れるべきと、自らの経験から大変強く思います。

ベスティングでは、業績達成条件、入社年数などさまざまな制限をつけることが可能で、私がこれまで在籍した導入会社も制限の内容は多岐にわたりました。また、契約時に生株を与えておき、途中でその従業員が辞めることになれば、あらかじめ設定しておいた株価と株数を買い戻すことができる「リバース・ベスティング」という制度もあわせて導入することをお勧めします。

 

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